シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

恵泉女学園中学校

2019年07月掲載

恵泉女学園中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.わからないことに粘り強く考えられる人を育てたい

インタビュー2/3

粘り強く考えられる人を育てたい

中高6年間の数学指導の話に移りますが、恵泉女学園の数学科ではどのような生徒を育てていきたいと考えていますか?

佐野先生 まず根本的なところを先に申し上げると、数学を通して、わからない事柄に対して粘り強く考え続けられる人を育てていきたいと考えています。

たとえば、私たちの学校では問題の「解き直し」を大切にしています。間違えた問題をきちんと専用のノートに解き直して、間違えた原因や今度からどうすれば良いのかを書いてもらうようにしています。

ところが、やってもらっている中で「分かりません」とだけ書いてくることもあるんです。おそらく「考えたくない」とか「難しいからもういいです」と諦めてしまったのだと思いますが、大事なのはどこまでわかったのかとか、自分は何をどのようにして考えた、といった過程の部分なので、そこを残してくれたらいいんだよ、とは伝えています。

本来、わからない問題に対しては、ああでもない、こうでもないと頭の中で試行錯誤すべきだと思います。一方、理解できている生徒のノートはスーッと道筋が通っている。わからない問題を白紙にするのも一つの選択肢ではありますが、自分としてはこうだと思っていることをやってみる、そこがとても大事なんだよということも伝えています。

恵泉女学園中学校 授業風景

恵泉女学園中学校 授業風景

わからないからこそ、腰を据えて考える姿勢を見せて欲しい

佐野先生 確かに、わからないから何もしないという姿勢も理解はできます。たとえば、テストでは制限時間がありますから、確実に得点に繋がるところをトライした方が良いでしょう。「解き直し」は特に制限時間を設けてないのですが、1日24時間の中で生徒がそこにかけられる時間の上限は決まっていると思います。
ただ、基本的に数学では2・3日時間を取る、週末を挟むといった対応をするので、しばらくやってみてわからなかったら一旦寝かせてからまた取り組んでもいいんです。だからこそ可能な限り、「わからないから白紙で出す」ではなく、「わからないからこそ考える人になってもらいたい」という強い思いがあります。そうでないと、これからの時代はやっていけないのではないかとも思うのです。

それって今の生徒特有の印象ですか?

佐野先生 私は昔とそんなには変わらないかなと思いますね。ただ、答えを早く知りたがったり、「答えは合っていますか?」とすぐに聞いたりする子もいます。それが昔と比べて極端に増えたかというとそうでもないかもしれませんが、「もうちょっと考えてみてはどうか?」と伝えることはあります。

日々の数学の授業で大切にしていることはありますか?

佐野先生 定義については皆がきちんと理解できているように意識しています。そこが分かっていないと問題が解けませんからね。簡単な問題なら公式を当てはめて解けることもありますが、本当に難しい問題でやり方も分からない時に頼りになるのは、確かな定義と自分が証明の仕方を知っている定理や公式しかありません。

そのため、定期試験にはどんなに小さいものでも必ず定義は出します。例えば「ひし形とはどんな図形ですか」というような問題です。配点を100点満点中2点しか振れない時もあるのですが、それでも「定義はやっぱり大事なんだよ」というメッセージとして出題します。高校生でのテストでも、必ず定義の確認や定理の証明を出しています。

その他には、中2・中3の時から大学の入試問題を少しずつ定期試験に入れています。テスト返却時には解説を渡さず正答だけを伝え、なぜそうなるのかよく自分で考え、それをみんなで相談してごらん、と伝えています。
また、補助プリントのような形で、今まで習った事柄を使って解けるような入試問題も時折用意し、とにかく自力で出来るところまでで良いから、自分の最善の解答を作ってくることを課題としています。その課題を持ち寄り、グループのみんなで「私はこういう方針でここまで行った」「私は逆にこっちに着目してこうした」と話し合います。その話し合った結果をまとめて皆に紹介する場を作っています。こういう試行錯誤する機会がとても大事だと思っていますね。

恵泉女学園中学校 礼拝

恵泉女学園中学校 礼拝

数学を通して、将来役立ついろんな力を身につけさせたい

佐野先生 恵泉女学園では、個々にあったレベルの数学の授業を受けられるのも一つの特徴です。高校生からは習熟度別の分級で授業が受けられます。中学生のうちは、数学が得意な人や頑張っている人の様子を見て「ああいう風にやればいいのかな」とモデルにしながらトライしてもらいたいという意図があって分級にしていませんが、一方で得意な生徒・不得意な生徒のケアがしにくいという性質もあります。そのため、中学生では苦手補習・得意補習を設けています。

授業では必ず小テストも行っていまして、ある時の小テストで「解答のような問題を配る」というユニークな試みをしました。生徒たちからは「先生、間違って答えを配っていますよ」という声が上がったのですが、しばらくすると「間違い探しだ」と気づいた生徒が出てきて、徐々にみんな課題に取り組み始めました。いつもはすぐ交換採点をするのですが、その際には「ちょっと相談していいよ」と生徒に言って、間違いはいくつあるか、どこが間違っているのかをディスカッションしてもらいました。先ほどから何度かディスカッションについて述べていますが、そういう話し合いを重ねながら協力し、問題解決する体験は、いろんなところで大切になってくるのかなと思いますね。

この取り組みの裏テーマとしては、同じことを自分の答案に対してもやってほしいということがあります。自分が書いたものを客観視して、本当にあっているのかどうか確かめる。これは大人になっても生きてくる力だと思います。大人になって全員が数学を使うことはないでしょうけれども、私たちは仕事や生活において役立つ力だと信じて取り組んでいます。

恵泉女学園中学校 展示物

恵泉女学園中学校 展示物

インタビュー2/3

恵泉女学園中学校
恵泉女学園中学校1929年、第一次世界大戦を経験したクリスチャン・河井 道が、「広く世界に向かって心の開かれた女性を育てなければ戦争はなくならない」と考えて創立した。創立当初より聖書・国際・園芸を教育の柱に据え、生徒の知性・感性・社会性を育てている。この伝統は今に受け継がれ、様々な分野で活躍する女性を輩出し続けている。
現在の校舎は創立者の言葉を刻んだ「泉」のある中庭を囲んで配置され、木材を多用し、明るく広々とした雰囲気。また、HR教室24教室分の広さと9万冊の蔵書を誇るメディアセンターをはじめ、生徒の自立的学習を支援する施設が備えられている。
恵泉の朝は、25分間の礼拝から始まる。聖書や感話の中で語られる、人それぞれの生きる営み。様々な生き方を知り、「自分とは何者か」「自分はいかに生きるべきか」、思索を深めていく。恵泉教育の特徴のひとつである「感話」は、日頃感じたり考えたりしたことをまとめたもので、礼拝の中で他の生徒の前で述べる。神との対話、理想とする生き方、友人とのトラブル、留学から学んだこと、哲学や芸術について……多感な時期に感話を書き、また聞き続けることで、誠実に人生に向き合うことを学ぶ。
英語は少人数制と豊富な選択授業により、Reading, Writing, Listening, Speakingの4技能をバランスよく伸ばし、コミュニケーションツールとしての英語を身につけることを目標としている。中学生は英検各級の満点合格者が多数。5年生の54%が2級以上を取得。準1級取得者は12名。また、TOEICでは海外経験がなくてもスコア800以上をとる生徒もいる。
多くの生徒がスポーツ系、文化系の21のクラブで活動している。茶道やオーケストラやサイエンス・アドベンチャーなどの課外活動では、専門の指導者による学年の枠をこえた授業を行っている。また、クラブ活動のほかに学校生活を豊かにするための委員会活動などもある。