シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

恵泉女学園中学校

2019年07月掲載

恵泉女学園中学校【算数】

2019年 恵泉女学園中学校入試問題より

(問)下の図のように、長方形が10個の部分に分けられています。
次のルールに従(したが)って、この図を(A)、(B)、(C)の3色でぬり分けていきます。
ルール1つの部分に2つ以上の色をぬってはいけません。
ルール②隣(とな)り合う部分には同じ色をぬってはいけません。
下の図のように2つの部分に(A)と(B)の色がぬられているとき、ルールに従って残りの8つの部分をぬり分けなさい。

問題図

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この恵泉女学園中学校の算数の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答

解答図

解説

まだ色がぬられていない部分を、次の図のように(ア)~(ク)と決めます。

解説図1

ルール②より、色がすでにぬられている2つの部分に隣り合う部分には、その2つの部分にぬられている色以外の色をぬることが決まります。

まず、(イ)に(C)をぬることが決まります。

解説図2

次に、(ア)と(ウ)にぬる色が決まります。(ア)に(B)を、(ウ)に(A)をぬります。

解説図3

次に、(エ)、(カ)、(キ)にぬる色が決まります。(エ)に(C)を、(カ)に(A)を、(キ)に(B)をぬります。

解説図4

最後に、(オ)と(ク)にぬる色が決まります。(オ)に(C)を、(ク)に(C)をぬります。

解説図5

(参考)
この問題のような図形のぬり分けは、「4色定理(4色問題)」とよばれる数学の定理につながっていきます。「4色定理」とは、「平面上の地図はたかだか4色でぬり分けることができる」という定理です。つまり、この問題のような図形のぬり分けを考えるとき、どんなに多くても4色あれば、複雑な図形であってもぬり分けることができるということです。この「4色定理」は、1879年、イギリスのケンペという数学者によって「証明」が発表されましたが、その10年後、この「証明」の誤りが発見されました。それ以降、「未解決問題」として、この「4色定理」は有名になりました。「4色定理」はその後、1976年にアメリカの数学者、アッペルがコンピュータを使って証明しました。

「4色定理」の証明には、数学の「グラフ理論」という考え方が使われています。「グラフ理論」は点と線の数学ともいわれ、点と線がどのようにつながっているかを考えます。この点と線がつながった様子をグラフとよびます。身の回りにもグラフと考えられるものは多くあります。例えば、鉄道の路線図やトーナメント表はグラフと考えることができます。

【グラフの例】

【グラフの例】「鉄道の路線図」「トーナメント表」

日能研がこの問題を選んだ理由

色のぬり分けに関する問題では、「全部で何通りのぬり分け方があるでしょうか。」といった、すべての場合を漏れなく、重複なく、求める・調べることに焦点を当てることがほとんどです。ところが、本問では2つのルールに従って、実際に色のぬり分けをしてみることを問いとしています。やること自体は、ルールがわかれば、どの学年の子でも取り組めるほど単純明快です。

また、ここでは試行錯誤して答えにたどり着くこと以上に、論理的思考によって先に進むことが求められているといえます。「もしここがこの色だったら・・・」と考えるよりも、「この部分は(A)と(B)が隣り合っているから、(C)だ」、「隣がこの色になるから、今度はここがこの色に決まるな」というように、わかったことを手がかりにして、一つずつ前に進んでいくことができるからです。

このように、すでに隣り合う部分に2色使われているかどうかに着目する調査力・整理力や、「この部分はこの色だ。」と判断する際の論理的思考力が求められています。算数から数学への過渡期にある子どもたちだからこそ、論理の世界と、書き込んで判断できる実世界との違いに触れることで、これから学ぶ数学への第一歩につながります。論理的な正しさを保ちつつ、自分で新たに情報を紡ぎ出していく力は、未来へ向けて歩んでいく子どもたちにとって、必要不可欠な力であるといえるでしょう。

このような理由から、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ぶことにいたしました。