シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

芝浦工業大学附属中学校

2019年06月掲載

芝浦工業大学附属中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.現実に社会問題となっているテーマを取り入れ、入試問題を作成

インタビュー1/3

SDGsを強く意識した問題

今回この問題を出題された意図を教えてください。

竹内先生 この問題はSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)を強く意識したものになっています。海の自然を守ろうとするにあたり、作る側の責任と使う側の責任を主題として作成しました。本校は工学系の学校なので、環境問題をベースとし、工学の力で問題を解決する能力を確かめたいということがあります。

実は最後の一行(「ただし、ビニール袋として通常使用できる便利さは失わないものとします。」)がとても大事になっていまして、これが記載されていないと、おそらく「減らす」「作らない」といった回答が出てくると思うのですが、文明を後退させるわけではなく、文明レベルを維持した上で持続可能な社会を作るといったものもSDGsの主題テーマになっています。そんなサステイナブルという理念を理解しているかな、といった観点で問題を作りました。

この問題はいつ頃に作成され、出題しようと思ったのですか?

竹内先生 作成したのは昨年の夏ぐらいでしょうか。クラゲで問題を作ろうとしたのは、今、ビニールの海洋汚染が社会問題になっていることが影響しています。題材としてはクジラやイルカでもよかったのですが、カメがクラゲと間違ってビニールを食べてしまうということからカメとクラゲの関係が出てきて、出題するに至りました。

ビニール袋は、スーパーやコンビニなどで手に入る特に身近なものという事もあります。そのため生徒にとっては普段自分の身近にあるものを工夫するということでの思考力を問いやすいのではないか、と出題側としては思った次第です。工学系とはいえ、あまり複雑なものを出してしまうと受験生の思考力が阻害されるのではないか、とも考えました。

問題作成におけるプロセスは、「クラゲからビニール袋」というよりは「ビニール袋からクラゲ」というような流れでした。実際、大きく社会問題になっているのはウミガメよりもクジラでして、クジラの胃を解剖すると何十キロという単位でビニール袋が出てきており、クジラの死因の大きな要因となっています。

理科/竹内 正樹先生

理科/竹内 正樹先生

発想力豊かな生徒の回答を求めている

生徒の答えとしてはどんなものが多かったのでしょうか?

竹内先生 一番多かったのは物質の観点ですね。
たとえば「海で分解できる」とか、「ウミガメの胃で分解できるものにする」というたぐいの回答が多かったです。

面白い回答としては「水に溶けると天敵に見える」とか、「色や臭いを変える」という生物的観点から考える受験生の答えもありました。具体的な内容は採点対象にはしていないので、発想力が豊かなものについては点数を与えています。50字以内という問い対して40文字程度の文字量は必要としています。また、科学的な思考力や、日本語構成力から正しい文章を書けているかも見ています。漢字の間違えですが、採点側は一生懸命頑張って解読しながら読んでいます。そこに関してはかなり大目に見ていますね。

芝浦工業大学附属中学校 校舎

芝浦工業大学附属中学校 校舎

初めて新共通テストを視野に入れて問題を作成

突拍子もない答えなどありましたか?

竹内先生 社会的なアプローチとして「ビニール袋をなくしてしまう」とか、そんなものがありました。また「透明にする」というものがありました。

正答率は全体で41%、合格者の正答率は45%でした。点数については60%を基準にしているのでもう少し取ってほしかったなというのが本音です。また不正解に関してですが、間違った回答というよりも全く書けない白紙状態、または書いている途中でやめてしまった、というのがありました。全然書けなかった生徒も2割ぐらいいましたね。

記述集合の問題は毎年出題していますが、今年は来るべき新共通テスト対応という事も視野に入れ、今まではどちらかというと論理性を問うような答えとなる問題が多かったのですが、今回のような答えが無限にあるような発想力を問う出題は今回初めてだったと思います。

そのような問題を出すにあたり心配だったのではないですか?

竹内先生 そうですね、その問題は常に課題として挙がりましたが、基準をきちんと決めてやっていくことでクリアしていきました。記述の採点に関しては1人の教員がすべて対応、チェックとしてもう1人の教員という形で行いました。

芝浦工業大学附属中学校 図書室

芝浦工業大学附属中学校 図書室

インタビュー1/3

芝浦工業大学附属中学校
芝浦工業大学附属中学校1922年4月、旧国鉄で働く若者達に中等教育の機会を提供したいという思いから、前身である東京鐵道中学が開校。第二次大戦中には東京育英中学へと名前を変え、戦後の学制改革で東京育英高等学校に再編。その後、1953年に経営が芝浦学園へ移され、現在の芝浦工業大学高等学校へと移行した。1982年には、板橋区坂下に移転。そして、2017年4月1日、豊洲校舎へ移転。高校は共学となった。2021年度からは中学も共学となっている。
中高大一貫教育によって理工系人材を育成することを目標に、科学技術に対する興味関心、理系の基礎学力・思考力、そして国際性や粘り強さなどの資質を育てている。「ほんとうにそれは正しいのか?」「別の考え方や方法はないのか」と常に自問する態度を重視し、そこから検証を加えて自分なりの価値判断を行い、最後に他者を納得させ、共感させ、感動させる表現力を手にする。大学や実社会で活躍する為に求められる批判的精神を大切にしているのだ
豊洲校舎は、芝浦工業大学のメインキャンパスの近くであり、他に例を見ない規模の連携教育が行われる。また、近隣にある企業・研究施設・体験施設・展示会場などが豊富に存在し、これから求められる学びに最適の状況だ。世界で活躍する技術者・研究者の卵の育成という本校の教育目標を実践するための校舎と、それを支える周りの環境に恵まれている。
理系ではなく理工系教育を重視し、「ショートテクノロジーアワー」では、各教科と科学技術との関わりを学び、中3「サイエンス・テクノロジーアワー」でサイエンスの面白さ、深さを学ぶ。中1の「工学わくわく講座」から高3「大学先取り授業」など、併設大学との連携講座が充実している。また、2021年度より新カリキュラムが始まり、テクノロジー系とグローバル系2つの探究がスタートした。「理工系の知識で社会課題を解決する」人材育成を目指している。最新のICT設備や大型機械も使えるファクトリー、さらには、「しばうら鉄道工学ギャラリー」など、芝浦工業大学附属中学高等学校ならではの設備・施設も魅力的だ。