シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

清泉女学院中学校

2019年06月掲載

清泉女学院中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.さまざまな学びを通して国語の力を伸ばす

インタビュー3/3

古文・漢文は日本史・中国史との関連も意識

瀧先生 高3に古典を教えていると、『源氏物語』がいつの時代の作品かなど、生徒は知っているはずの日本史の知識と結びつけられません。知識をインプットしたら、入れっぱなしではなく、教科の横串を通すように関連づけて活用できるようにしなければなりません。生徒にはよく「知識を総動員して考えよう」と言っています。

教科の横串を通すのに、授業ではどのような工夫をされているのですか。

瀧先生 古文と漢文は日本史と中国史と深く関わっていますから、授業では作品の時代背景など日本史のこと、中国史のことを意図的に発問しています。
私が専門とする漢文の場合、中唐の詩人・白居易(772~846年)が生きた時代というのは、日本の奈良時代から平安時代に当たり、遣唐使だった空海(774~835年)は同世代です。白居易の『長恨歌』(806年)は、唐の玄宗皇帝と楊貴妃の恋愛を描いた叙事詩で『源氏物語』(1008年)にも影響を与えています。こうした時空を超えた関係性をつかんでもらいたいのです。
国語科では他教科との関係性を意識して授業しようと合意形成しています。他教科の教員も賛同してくれています。

清泉女学院中学校 図書館

清泉女学院中学校 図書館

課題解決力を身につける「倫理」の授業

瀧先生 本校は中1から高3まで「倫理」の授業を設けています。
「自分・他者・世界とのつながり」をテーマに、キリスト教的価値観や他宗教、思想、現代社会の諸問題を学びます。グループワークやプレゼンテーション、ディスカッションなどの活動を通して、コミュニケーション力や課題解決力も育みます。
現代文は、倫理で学ぶ現代社会の諸問題を取り上げた評論文を読み解き、著者の主張をつかむことに主眼を置いています。このとき「環境問題は倫理でも扱ったよね」と投げかけて、生徒が自分の引き出しから知識を探しやすくしています。

中学は週1時間、論理的・客観的思考力を養う

瀧先生 これからの社会では、物事や情報を多様な角度から検討し、論理的・客観的に理解する力が今まで以上に求められます。そこで本校は、中1から、学研の教材「クリティカル・シンキング」を活用しながら柔軟かつ論理的な思考力を養っています。
中1・中2は週5時間のうち1時間充てています。今年度から中3でも始めました。
データを分析して情報を正確に読み取る、文章の要旨をつかみ端的にまとめるといったことから始まり、社会問題や論説文など抽象的なテーマも取り上げます。正解のない問いにも取り組み、課題解決のプロセスをたどり、「最適解」を見つける力を養います。

広報部長・国語科/瀧 康秀先生

広報部長・国語科/瀧 康秀先生

先輩の姿に後輩が刺激を受ける

瀧先生 中3は、自ら探究したいテーマを見つけ、約半年かけて「論文」を完成させます。
優秀作品は校内で発表し、毎年発行される校内誌に掲載され、中1・中2も目にします。先輩を見て、「私も中3になったら、これについて調べよう」と刺激になっています。
論文の書き方は中2のガイダンスで国語科が授業で指導します。テーマの見つけ方から、そもそも「論文」とは何かということから教えます。あまり欲張らず、「論文とはこういうもの」とわかればいいと思っています。
生徒1人に対して1人の教員が担当し、資料の選択、読解、考察、論文構成の組み立てから参考文献の整理までを丁寧に指導します。

「論文」のねらいは自分の興味・関心を見つけること

瀧先生 いくら論文の型を持っていても、興味・関心の核がなければ中身が伴った論述になりません。論文の第一の目的は、自分の興味・関心を見つけることです。
経験を通して視野が広がってくると、いろいろなことに興味・関心が向くようになります。自分がこれから学び進めていこうというものを、中高6年間で見つけてくれればと願っています。中には、中3の論文で選んだテーマが大学の進路選択につながった生徒もいます。
最近は、取り上げるテーマをある程度絞り、授業で習ったことや参考図書の中から選んでもらいます。テーマはさまざまですが、例えば、合成洗剤の安全性を植物で実験するといった自由研究もあります。国語科の範疇なら、方言の特徴や共通点・相違点を調べたり、百人一首の歴史、演劇舞台の魅力などがあります。
生徒が立てた仮説の裏付けはほとんどが研究者の論文の引用ですが、「このように考えることもできるのではないか」と少しでも自分の考えが書けていれば、中3の段階ではよしとしています。

清泉女学院中学校 図書館

清泉女学院中学校 図書館

なぜ漢文を学ぶのか

多くの生徒さんは高校を卒業すると漢文に触れる機会があまりないだけに、中学・高校の漢文の授業は貴重です。

瀧先生 生徒が「漢文って、おもしろかったんですね!」と言ってくれる授業が目標でした。例えば、『史記』の鴻門之会(楚の項羽と漢の劉邦が秦の都・咸陽で会見した故事)は、パフォーマンスを交えて解説したり、あの手この手を使っておもしろさを伝える工夫をしました。
なぜ漢文を学ぶのかは明白です。漢文は日本の言語文化の土台であり、日本文学には漢文的要素が溶け込んでいます。日本文化を正しく理解する上で、漢文の学習は必要なのです。

抽象概念は漢語によるところが大きい

瀧先生 明治以降、日本が急速に近代化を成し遂げることができた理由の1つは、外来語をそのまま導入するのではなく、漢語の造語力を利用して多くの「翻訳語」を編み出したからだと言われています。それだけ当時の日本人は漢語に対する知識が豊富だったということです。「文学」「哲学」などの和製漢語は、近代中国に逆輸入されました。
日本文学から漢語を除くと貧弱な印象を受けるでしょう。和語には抽象的な用語が少なく、「物質」「行為」など抽象概念を表す漢語名詞のように漢語が担う役割は大きいのです。

「サステナビリティ(持続可能性)」「ダイバーシティ(多様性)」など、最近は外来語をカタカナに置き換えたものが広まっていますが、始めは意味がわからず普及に時間がかかります。
漢語の用語は硬い印象を受け、一見難しそうに見えますが、「アジェンダ(議題、行動計画)」「ガバナンス(統治)」など、漢字の意味からどういうことか推測できます。

清泉女学院中学校 第1グラウンド

清泉女学院中学校 第1グラウンド

「本当に大切なこと」を見つける6年間に

瀧先生 本当に大切なことは簡単には見えなくて、なかなか見つからないものです。そのように本質的なところを中高6年かけて見つけてほしいと思います。
テストで満点が取れればそれでいい、というわけではないはずです。現状に満足せず、自分は何を成し遂げたいのか、何のために生きるのかをとことん考えて、将来の自分の姿を探し続けてほしいと思っています。それは「本当の幸せとは何か」を追求することでもあります。
在籍中に答えが見つからなくても、将来見つけられるように“種まき”をします。芽を出し、花を咲かせ、実をつけるための土壌を、この6年間でしっかり耕します。

インタビュー3/3

清泉女学院中学校
清泉女学院中学校1877(明治10)年に創立の聖心侍女修道会(本部はローマ、世界20か国に44の姉妹校)により、1938年、前身の清泉寮学院創立。47年に横須賀に中学、翌年高校を設立。63年に現在地に移転し、2023(令和5)年に創立75周年を迎える。進学率のよさから「鎌倉一の女学校」の座を堅持している。
大船駅西側の丘陵地帯、栄光学園と谷ひとつ隔てた玉縄城跡に位置する。緑の芝生が美しい7万m2もある敷地には、観覧席がある体育館、2面の広いグラウンド、コンピュータ室、憩いのスペースのカフェテリアなどがあり、充実した施設・設備を完備。02年には修道院を改修した新校舎ラファエラ館が完成、美術室や音楽室、少人数授業対応の教室など設備が一新された。
「神の み前に 清く 正しく 愛深く」をモットーに、より良い社会をつくるために積極的に貢献する人の育成を目指している。ほかのカトリック校に比べると、「校則」や校内の雰囲気は驚くほど自由で、利益や結果よりも目に見えない精神的価値を大切に考える。
完全中高一貫を生かした独自のカリキュラム。大学受験を強く意識し、英語と数学は中1から習熟度別授業を実施。理科は実験・観察が重視され、社会では新聞・ニュース番組・映画など現実感のある教材を活用している。高2から文系・理系の2コース選択制になる。理系に数学演習などを設置したり、文系国公立大学受験者向けの授業(選択)を追加したりと、大学受験対策がより充実しさらなる飛躍を目指している。医療系にも強い。
入学後、5月に富士山麓で1泊2日のライフオリエンテーションキャンプが行われ、建学の精神と友人への親しみを養う。中2の夏休みのライフオリエンテーション、理科野外学習、清泉祭(文化祭)、体育祭、合唱祭、クリスマスミサなどの行事がある。ボランティア活動も盛んで、さまざまな福祉活動に参加。23あるクラブは参加率90%以上。なかでも、音楽部は全国大会で高く評価されており、2019年にはRIGA SINGS(1st International Choir Competition & Imants Kokars Choral Award)にて総合グランプリ(全団体中1位)を受賞。
生徒が主体となって活動する有志団体も多く、「清泉ピースプロジェクト」「AI(人工知能)倫理会議」など他校を招待して特色ある取り組みを行う。模擬国連大会に参加する生徒も多数おり、校内や他校での大会だけでなく、国際大会にも出場。