出題校にインタビュー!
学習院女子中等科
2019年05月掲載
学習院女子中等科の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
3.大学受験を意識しない学校だからできる質の高い授業を目指す
インタビュー3/3
社会で役立つ基礎力や応用力を6年間で身につけてほしい
授業について教えてください。
石川先生 例えば本校は戦争で校舎を失い、現在地に移転しました。この戸山はかつて尾張徳川家の下屋敷があり、終戦までは近衛騎兵連隊がありましたので、今でもキャンパスにはその遺跡があちこちに残っています。ですから、中等科の歴史の授業では生徒たちとキャンパスを散歩し、生きた歴史にふれさせています。
校内で遺跡の調査があったときは、生徒にも見学させたり、地域の歴史や学校の歴史を調べることもしています。地理や公民でも調べ学習やプレゼンが多く取り入れられていますが、最終的には高等科3年で自分でテーマを選び、「卒業レポート」に取り組みます。受験のための勉強ではなく、社会に出た時に役立つ基礎力や応用力を6年間で身に着けてほしいと思っています。
学習院女子中等科 社会科先生
世界地理から日本地理へ
地理の授業で重視していることはどのようなことですか。
鈴木先生 地理でも特別なことはしていません。大学では社会科学・人文科学系に進む生徒が多いので、中学の地理では基礎的な段階としていろいろな知識が引っかかるような、網を作ることができればいいと思っています。具体的には中1では地形や気候など自然環境の基礎知識を学習した後、世界地理からスタートします。
世界地理から始めるのですね。
鈴木先生 帰国生が多いのと、初等科から入学した生徒は受験を経験していないので、定石どおりに身の回りの日本地理から始めると差がついてしまいます。帰国生のいいところを生かしながら、「スタートは一緒だよ」という意識を持って、世界地理から始めています。そして、いろいろな知識を積んだところで「日本を見てみよう」という流れで、中2の最後に日本地理でゴールします。
発想・企画・表現など力量に驚かされる『国調べ』
鈴木先生 一方で、夏休みの課題として「国調べ」を行っています。日本を除く1ヶ国を選んで、集めた情報を画用紙1枚にまとめます。その成果は八重桜祭の中等科作品展でも披露していますが、発想・企画・表現など、とにかくその完成度が高く、普段授業では見られない個々の才能を発見することができます。
自分の興味関心で選ぶということは、国が重なる場合もあるのですね。
鈴木先生 はい。やはりヨーロッパの国を選ぶ生徒が多いです。一方で世界で最も幸福度が高い国や、寿命が短い国など、対象国を選ぶ視点はさまざまです。
それはアフリカのシエラレオネという国では?
鈴木先生 正解です。他にエチオピアなどを調べた生徒もいました。夏休みの課題なので実際に現地へ行き、旅行記のように撮影した写真を貼ったり、紙幣を貼ったりする生徒もいます。帰国生は自分が生活した国を選ぶことが多いです。外国の生きた知識を他の生徒に伝える格好の機会になっています。
学習院女子中等科 総合体育館 アリーナ
難しい内容の時ほど興味づけが必要
公民の授業ではいかがでしょうか。
柴﨑先生 中高一貫校ですが、先取り授業はしません。しかし、受験校ではできない時間のかけ方をしています。教授法は女子校ならではのところがあります。女子は「国調べ」のレイアウトにしてもこだわりを持って取り組みますから、公民科ではそういう女子の感性を刺激するようなことを盛り込んで授業を組み立てようと頑張っています。
例えば「男女差別」に重きを置くとか、「女性の大臣が少ないよね」などと投げかけるとか。プリントに手描きのかわいいイラストを添えるとか。そういうものをうまく取り入れながら興味づけを行っています。
イラストはどなたが描くのですか。
柴﨑先生 私が描くのでかわいいかどうかはわからないのですが、「法の支配」などを伝える時にイラストがあるのとないのとではだいぶ違うようです。抽象的な概念を扱う時は、単純に絵にする、チャートにするだけではなくて、さらに女子が好みそうなものをプラスするということを意識しています。「そんなことを?」と思われるかもしれませんが、昨今、中学生の社会科への興味がどんどん薄れてきていると感じるので、毎時間、何を理解させるかということに力点を置き、興味づけにさまざまなチャレンジをしています。
パソコンで行う『株価レポート』
柴﨑先生 中3では経済の「株価レポート」を行います。初めてExcelを使って計算を行うので、そこに興味を持ってくれる生徒が多くいます。
パソコンで行うのですか。
柴﨑先生 Excelの操作を教えて表の作り方から始めます。中3なので初めてパソコンに触れる生徒もいます。スキルの差が大きいので、指導はとても大変です。本来は、本質的な株価の変動などのほうが大事なのですが、パソコンを使うことにより興味関心を持つ生徒も多いので、意味はあると思っています。
生徒は株式の銘柄を2つ選びます。選んだ理由を聞くと人により差はありますが、中にはかなり考えて選ぶ生徒がいます。この授業はアクティブラーニングとして本校が先駆的に取り組んできたことで、今後も継続していくと思います。
今までの社会科は、何を教えるかというコンテンツが重要でした。それは変わらないと思いますが、どう教えるかという部分にも重きを置くようになってきたのではないかと思います。情報があふれているので、調べることは簡単ですが、逆に関心が薄れていくジレンマのようなものがあって、そこをどう埋めていくかが課題であると考えています。また、リテラシーの問題も大切に考えています。
学習院女子中等科 校舎
授業では教員の話からポイントを聞き取ることを重要視
柴﨑先生 社会科のメソッドがあるわけではありませんが、経験則的に、どの教員もあまり黒板に書きません。生徒には「書いたことを写すだけではなく、話していることも書き留めなさい」と言っています。それも本校の授業の特色だと思います。板書中心の教員、情報量が多いためプリント中心の教員など、各自スタイルは異なりますが、いずれにしてもそれだけでノートが完成するというやり方はしていません。話している内容から重要なポイントを聞き取って、自分のノートを完成させるというやり方を、6年間継続して行うことで力をつけています。
学習院大学以外の大学にも進学できる基礎力を身につけさせる
他大学受験する生徒さんもいると思いますが、そのための対策は行っていますか。
石川先生 受験対策のための講座は設けていません。本校で過ごす6年間で培った力は受験に対応できる基礎力になると考えています。私たちはどこの大学にも進学できるしっかりとした基礎力を身につけさせることを目標に取り組んでいます。
鈴木先生 大学のほうが歴史が新しいこともあり、大学の付属校という感覚を持っている教員はいないと思います。そういう意味では学習院大学ありきの教育ではありません。ただ、現実には学習院大学・女子大学に内部進学する生徒が過半数おり、受験をしないで入学させてもらうのですから、私たちは責任を持ってそれに見合う力をつけさせて卒業させたいという思いで取り組んでいます。それは社会科に限らず、どの教科も同じだと思います。
インタビュー3/3