シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

麗澤中学校

2019年05月掲載

麗澤中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.「分数とは何か」本質に向き合う問題

インタビュー1/3

文章題で自分の考えを他者に説明できる力を試す

室谷先生 この問題を含む大問(大問5)で本当に聞きたかったのは、「分数とは何か」です。それをいきなり答えてもらうにはハードルが高いと思い、この問題を(1)としてワンクッション設けて、(2)で通分する理由を説明してもらいました。
こうした文章題を出すようになったのは、東京大学進学を目標とする「アドバンスト叡智コース(AEコース)」を立ち上げた現高2の中学入試からです。
東大の入試問題を見ると、解答に至るプロセスを論理的かつ簡潔に表現する力が求められています。数式よりむしろ文章記述が多い。入学後、自分の考えを他者に説明する力を養うにあたり、自分の言葉で表現しようとするお子さんに入学してもらいたいと思い、この問題のような文章題を出題しています。毎年、書いてくれるだろうかと怖くもあり、どのように説明するか楽しみでもあります。

数学科/室谷 康生先生

数学科/室谷 康生先生

満点は「通分」など3つの要素をすべて満たすこと

室谷先生 「分母の違う分数のたし算(ひき算)」について、教科書には「通分して計算する」としか書かれていません。ですから、「通分して分母をそろえて、分子どうしを足す」と説明できれば正解です。数式なし、文章だけの説明で構いません。
この問題の採点基準は、①「通分」というキーワード、または、「分母をそろえる」など通分を意味する言葉があること、②分母同士は足さない、③分子同士だけ足す、以上の3つをすべて挙げれば満点、どれか書ければ部分点をあげました。
満点は1~2割、部分点は5割程度だったでしょうか。満点はもう少しいてもよかったかなと思いました。

設問文の「初めて」という条件を見逃さない

室谷先生 この問題は設問文をきちんと読み取る力も求めています。通分に触れていない解答は、「初めて」という条件を見逃して、「それくらい知っているだろう」と省略してしまったのではないでしょうか。「初めて」ですから通分も知らないことになります。
正しい計算式だけの、説明する文章が全くない解答も、「初めて」の子どもには不親切です。
中には、通分の説明も加えた受験生もいました。この問題はそこまでは要求していませんが、わかっている子どもには当たり前のことも、初めての子どもには当たり前ではないと気づけたことに感心しました。

麗澤中学校 校舎前 桜並木(樹齢80余年)

麗澤中学校 校舎前 桜並木(樹齢80余年)

「計算できればそれでよし」にせず、本質をつかむ

室谷先生 さらに(2)で、通分する理由を聞きます。分母や分子が意味するものがわかっていないと、次のように分母をそろえずに分母同士、分子同士をそれぞれ足してしまう子どもがいても不思議ではありません。

\(\frac{1}{3}+\frac{1}{4}=\frac{1+1}{3+4}=\frac{2}{7}\)

この間違いを説明するには、「分数とは何か」までさかのぼらなければなりません。「基準」「もと」というキーワードを用いて説明できた受験生が複数いました。単に分数の計算ができればいい、正解できればいいで済ませず、「分数とは」の本質までわかっている受験生がいたことは大変うれしかったです。
本校の授業では公式を「当たり前」にしないで、なぜ成り立つのか本質まで説明するように心がけています。

独自教科「言語技術」が数学の言語化を後押し

室谷先生 本校が思い切って数学の言語化に踏み込めるのは、本校独自の教科「言語技術」によるところが大きいと言えます。
言語技術は、あらゆる学びに必要な「聴く、読む、話す、書く」力を体系的に身につけて、コミュニケーション能力を高め、論理的思考力、批判的思考力へとつなげていきます。
このおかげで数学に限らず文章を書くことが苦痛な生徒は少ないと思います。時折、言語技術の教員に答案の表現について意見を求めたり、逆にこちらが数学的な表現について聞かれたり、意見交換することもあります。

麗澤中学校 メディアセンター

麗澤中学校 メディアセンター

インタビュー1/3

麗澤中学校
麗澤中学校1935(昭和10)年、法学博士の廣池千九郎により、現在の麗澤大学の前身・道徳科学専攻塾が開校。2002(平成14)年に麗澤中学校が新設され、同じキャンパスに大学・高校・中学校・幼稚園がそろう総合学園となった。
創立者が学問的に体系づけたモラロジーに基づく「知徳一体」を教育理念とし、「感謝の心」「思いやりの心」「自立の心」を育てることを教育方針に掲げる。
麗澤教育のシャワーを浴びて巣立った卒業生たちは、様々な領域で活躍の場を広げている。6年間を「自分自身をみつめ、発見する」「興味・関心を深め、進路につなげる」「進路を選択し、道を拓き夢を実現する」の3段階に分け、それぞれリサーチ、実践体験、情報処理、再構築、そして成果をプレゼンテーションする作業を基礎から学ぶ。
とりわけ、2003年から始まった「言語技術教育」は、全ての学問領域で必要となる「聴く・話す・読む・書く」を総合的に鍛える麗澤ならではの教育。中高一貫カリキュラムの1年から4年次を通して、グローバル社会で通用するものの考え方、そして、自らの考えを主張できる発信力を研鑽していく。
「よりよく学ぶためには自然の中で心を癒すことが必要」という創立者の信念に基づき、47万平方メートルの広大な校地は緑豊かで自然がいっぱい。グラウンド3つ、体育館2つ、テニスコート6面、ラグビー場(人工芝)、武道館、寮(高校のみ)、メディアセンターや9Hのゴルフコースなど施設は申し分なし。