出題校にインタビュー!
大宮開成中学校
2019年03月掲載
大宮開成中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
1.グローバル時代に求められる力を問う問題
インタビュー1/3
論述問題は校長先生が自ら作問
この問題の作問者が校長先生とお聞きして驚きました。毎年作問されているのですか。
山中校長 50字以内の論述問題は、入試4回分の4題とも、社会科教員でもある教頭の松崎と私が担当しています。
本校の「実社会に役立つ人づくり」で重視しているのが、どんな場面でも自ら考え行動できる「主体性」と、最適解を見つけるために他者とうまくコミュニケーションを取れる「協働性」です。論述問題のねらいは、本校の人づくりの延長上にあります。
校長/山中 克修先生
主体性や多様性、社会貢献の姿勢を測る問題
山中校長 入学後にどんなことを学んで成長していくか、入試問題を通して受験生に知ってもらいたいと思っています。この問題のねらいは次の4点です。
1つは、「主体的に考える」こと。「飢餓と貧困」という課題に対して、もし自分が「国連の食糧問題の担当者」なら何ができるか考えます。
2つ目は、「感謝の気持ちを持つ」こと。日本人の食は国内外の多くの人に支えられていること、恵まれていることを意識して食糧問題に向き合います。
3つ目は、「多様性を受け入れる」こと。グローバル化が進むほど「多様性」が広がり、多様性を許容する必要性が高まります。
小さな子どもが栄養不良で亡くなるという状況は受験生には想像しにくいかもしれませんが、自分の周りで起きていることがすべてではありません。いろいろな国があり、いろいろな人がいる。すると、いろいろな課題が発生することを認識してほしいと思います。また、常に多様性の視点は協働性の発揮にもつながります。
さらに、「国連の食糧問題の担当者」の立場で考えることで、4つ目の「社会に貢献しようとする意欲」を測ります。いろいろな人と関わる立場で考えることで「協働性」も見ることができます。
自分ができることではなく促す活動を考える
この問題の解答状況はいかがでしたか。
片田先生 配点5点中、得点は3点程度、得点率としては60%といったところでしょうか。がんばって書いてくれたと思います。ただ、いい意味で想定外の、驚きのある解答は見当たりませんでした。最も多かったのは、「給食を残さず食べるように指導する」という解答でした。
この問題は、「国連の食糧問題の担当者」という立場で、「日本の中学生」にどう働きかけるかを考えます。したがって中学生に「知ってもらう」「考えてもらう」活動になります。ところが、「知る」「考える」のように「自分がどうするか」を答えていて、設問文をきちんと読み取れていない答案が多く見られました。視点の切り替えがうまくできなかったようです。
大宮開成中学校 校舎
「50字以内」の字数指定は解答のヒント
この問題は字数指定(50字以内)をしていますね。
山中校長 自分の意見を相手に伝えるには、要点をわかりやすく「まとめる力」も必要です。50字では多くのことは書けませんから自ずと要点は絞られます。字数指定は「解答のヒント」ととらえましょう。
片田先生 指定字数の8割以上というのも解答の条件です。文章の構成は、前半で現状の課題、後半にその解決策というようになるでしょう。どちらか一方だけなら3点、両方書けていれば満点の5点というイメージです。
金銭に頼らない支援の方法を考えてほしかった
片田先生 こちらが想定していた答えは、「フェアトレード」や「食品ロス」です。実は、今年の他の入試回でフェアトレードを、食品ロスは過去に出題しています。過去問を解いたり複数回受験した受験生に解答のヒントにしてもらおうと、意図して仕掛けました。
こちらのねらいと違った答えが思いのほか多く、そのひとつが「募金活動を促す」という答えです。「募金をすればいい」というニュアンスがあり、この問題の解答として金銭的援助だけの活動は適当ではないと判断しました。
フェアトレードには金銭活動が伴いますが、商品の購入には現地の人の労働力を評価するという意味も含まれます。募金がダメというのではなく、現地の人の生活の支えにつながるような「募金の使い道」まで考えてほしかったですね。
また、「食料を現地に直接届ける」という解答がありました。こちらとしては新たにものを与えるのではなく、食品ロスのように私たちが余計なものを出さないようにすることで支援につながる活動を想定していました。
緊急的な、災害支援のようなアクションですね。フードバンクや災害支援のニュースを参考に考えたのかもしれませんね。
片田先生 「(たくさん収穫できる)作物の品種改良の技術指導」といった解答もありました。アイデアとしてはおもしろいのですが、「日本の中学生」向けとしては適当ではありません。
大宮開成中学校 校歌
目線を上げて一段高いレベルで考えさせる
山中校長 「国連の食糧問題の担当者」というと、一見、子どもからかなり離れた高い立場に思えます。けれど、食にまつわる問題は子どもにとって身近で関心も高いと思いますし、国連の役割も勉強して知っていますから、考えられなくはないと思います。
目線を高く設定したとき、受験生がどう考えるか。ハードルが高いとは思いますが、中学受験は向上心を持って取り組んでもらいたい。新たな視点の獲得など、入試問題を通してステップアップできるような問題づくりも心がけています。
大学入学共通テストは、2024年度からは理科や地理歴史・公民の科目でも記述式問題が導入されるなど、次期学習指導要領が本格実施される予定です。2019年の中学受験生は2024年度に大学受験する世代です。教員にはもう一段高いレベルで考える問題づくりを指示しており、この問題はその先駆け的な取り組みでもあります。
インタビュー1/3