シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

実践女子学園中学校

2019年02月掲載

実践女子学園中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.昆虫に興味関心を持ってもらう問題

インタビュー1/3

「農業利用」の切り口から昆虫にアプローチ

金川先生 昆虫は中学入試によく出る単元ですが、虫嫌いなお子さんは興味を持ちにくいでしょう。ストレートに聞くのではなく、「農業」という違った角度から昆虫をとらえることで、昆虫に少しでも興味を持ってもらえたらと思い、この問題を作りました。

西崎先生 自然現象に対する興味関心のある・なしで解答状況に差が出ます。直接問うことはしていませんが、興味関心が高い受験生は、初見の事柄でも怖がらずにリード文を読み、問題に取り組んでいるように思います。

理科/金川 理子先生

理科/金川 理子先生

入試は「新しい知識との出会い」を楽しむつもりで

金川先生 高校時代、私にとって生物の模試問題は自分が知らない現象を学ぶ機会であり、問題を解くのが楽しみでした。「こんなことが研究されているんだ」「こんなこと、初めて知った!」と感心しながらリード文を読んでいました。コオロギの鳴き方の問題を見て、「鳴き方にそんな違いがあるんだ」と驚いたことを覚えています。初見の現象に戸惑ったり慌てたりするよりも、好奇心の方が勝っていました。

私は模試の問題を解くことで生物への興味を深めることができました。受験生が、少しでもそうした経験をしてもらえたらという思いも込めて作問しました。

「天敵」と「影響を与えない」の両方書けていた

問1・問2とも文章記述です。解答状況はいかがでしたか。

金川先生 どちらも無答の受験生もいましたが、全体的にはがんばって書いてくれたと思います。

問1の正答率は約60%で、予想の範囲内でした。「花粉を運ぶ昆虫がいる」という知識と関連づけることができていました。「ミツバチが花粉を集める」「受粉の効率を上げる」、この2つを押さえていれば満点です。

問2の正解率は50%でした。「天敵がアブラムシを食べる」こと、「ビニールハウス内の他の虫や作物に影響を与えない」ことの両方が書けていれば満点になります。両方とも書けていた答案が思いのほか多くて驚きました。設問文をきちんと読み取ることができたのでは、と思います。

「天敵」という用語だけでもOKですが、具体的に「テントウムシ」を挙げた解答が多く見られました。生徒にアブラムシの話をすると「テントウムシが天敵ですよね」と即答します。アブラムシとテントウムシの関係は、「小学生が知っている知識」という確証はありましたが、正解できた受験生は知識を引き出す力があると言えます。

実践女子学園中学校 校舎

実践女子学園中学校 校舎

“未来の研究開発”など独創的な発想の解答も

印象に残った解答はありましたか。

金川先生 問2はバラエティーに富んだ解答があり、自由な発想が見られました。

例えば、「アブラムシだけを引き寄せる薬を開発して、それをビニールハウスの入口前に置き、集まったところで捕まえる」といった“未来の研究開発”を予感させる解答にワクワクさせられました。

方法は実用化が可能かどうかは問いません。調べたところ、アブラムシを一匹ずつつぶして駆除している生産者もいるということだったので、この解答は正解にしました。

知識の羅列でなく理解した上で書いているか

理科の文章記述力として、受験生にはどこまで求めていらっしゃいますか。

金川先生 文章記述は「自分の考えを相手に伝える力」を見ています。主語と述語の関係が成立している文章は、読み手にきちんと伝わります。一方、主語と述語の関係がねじれていたり、主語がない文章はわかりにくい。読み手を意識して書くようにしましょう。

入試問題は作問者と受験生とのやり取りだと思っています。「私はこんなにわかっています!」と、ぜひアピールしてください。こちらもできる限りくみ取ります。

髙橋先生 キーワード(知識)も大事ですが、単に知識を並べたのではなく、理解した上で自分の言葉で書いているかどうかを見ます。

まさにこの問題は、知識を自分のものにしているかどうかがわかりますね。
貴校の生物分野の問題は、覚えた知識をそのまま答えるのではなく、与えられた情報を組み合わせて考えさせていると感じます。

金川先生 生物分野の文章記述は、理由を聞いたり意見を聞いたりします。答案を見ると文章記述の対策をしてきているなと感じます。

実践女子学園中学校 掲示物(沿革)

実践女子学園中学校 掲示物(沿革)

ミツバチを放すのはイチゴを甘くするため?

誤答に何か傾向はありましたか。

金川先生 問1で結構多かったのが、「ミツバチがイチゴに蜜を入れて甘くするため」という解答です。ミツバチから連想したのだと思いますが、予想外でした。子どもの発想は大人とは違うと、改めて気づかされました。

ミツバチ→ハチミツ→甘い→甘いイチゴはおいしい……と考えたのでしょうね。

金川先生 問2は、「始めからビニールハウスをしっかり建てる」という解答がありました。すき間なく建ててアブラムシの侵入をシャットアウトしようと考えたのでしょう。ビニールハウスは屋外にありますし人が出入りしますから、これで侵入を防ぐには無理があります。

また、設問文に「殺虫剤を使用すると悪い影響が出てしまう」とあるのに、「アブラムシだけに効く殺虫剤を使う」という解答がありました。殺虫剤にとらわれない発想をしてもらいたくてヒントを出したつもりでしたが、受け止めてもらえなかったのはちょっと残念でした。

インタビュー1/3

実践女子学園中学校
実践女子学園中学校渋谷駅から徒歩10分、表参道から徒歩12分にある実践女子学園は、女子教育の先覚者下田歌子によって、明治32年に創設された。皇女教育を拝命することになった下田は宮内省の命を受けて2年間の欧米女子教育視察を行い、先進諸国の女性たちの社会的地位の高さや、自立して生きる姿を目の当たりにし、日本における一般の女子教育こそ不可欠と痛感、帰国後、女子教育の普及のため全国を奔走した。実践女子学園はその中心として、下田が私財を投げ打って設立した学校である。校名の「実践」は、学問を実際に役立てて実行するという意味で、「知識」を習得するだけではなく、それらを実生活において「実践」し、社会に貢献するという理念が込められている。
生徒一人ひとりが、仕事と家庭を両立しうる高い社会的スキルと、将来を生き抜く強い人間力を獲得し、高い志と品格を持って、自らの生きる道を切り開いていくための全人教育が伝統となっている。生徒が凛とした女性として国内外で活躍できるようにするため、「グローバル教育」「探究教育」「感性表現教育」を教育の柱としている。
「グローバル教育」では“日本を知る”“世界を知る”“自分の役割を知る”というコンセプトのもと、日本人であることを基盤にグローバルな視点から自分の未来をデザインする力を養うことに力を注いでいる。“レベル別少人数多展開”の授業、ネイティブ教員11名体制での英語教育の充実はもちろん、交換留学や海外研修、模擬国連の出場、帰国生の受け入れ、海外進学指導など、学校全体がグローバル教育の舞台となっている。
人と協働して思索を深め、みずから課題を発見して解決する力を養うことが狙いの「探究教育」では、全ての授業で「考えさせる」取り組みを推進するほか、多様なプログラムが数多く設けられている。中3の「総合学習プロジェクト」や高1の「クエストエデュケーション」は全員が取り組み、そのほか、「理科ゼミ」「数学ゼミ」「サイエンス探究ゼミ」「沖縄自然体験教室」など理系のプログラムも豊富。在校生の約3割が理系進学希望と年々増加している。
「感性表現教育」では、“観る力”“聴く力”“感じる力”を養い、自らを“表現する力”へとつなげていく取り組みで、日々の授業を始め、教育活動すべてが、豊かな感性を磨く場になっている。中でもクラブ活動や学校行事は非常に活発に行われており、クラブ活動は中学校は必修、高校では自由参加としているが、高校生の約80%は最後までクラブを続け、かけがえのない友と苦楽や感動を共有している。またほとんどの学校行事は、生徒たちの実行員会によって企画・運営され、その伝統が豊かな教育文化として継承されている。
キャリア教育の充実により生徒の進路は多様化し、理系学部(医歯薬系、理工系)への志望者が大きく増加したほか、文系学部でも法学、経済・経営、商学、国際関係、外国語系といった時代性を反映した学部への関心が高まっている。高1でキャリアプランを作成することにより、生徒たちは明確な夢や目標を持って主体的に進学準備に取り組み、自分の進路実現を着実に果たしている。職員室内にカウンセリングコーナーがあり、熱心な個別指導や活発なコミュニケーションが促進されており、大規模な学校だが、きめ細かく手厚い指導を実現する仕組みが構築されている。