シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

東京女学館中学校

2018年11月掲載

東京女学館中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.核兵器を「絶対悪」と断じる理由を考える

インタビュー1/3

式典に参列して感じた「思い」を入試問題に投影

上田先生 この問題を含む大問は「広島」をテーマに、地理・歴史・公民の各分野について聞きます。
本校は、平和教育の一環として「ヒロシマ研修旅行」を隔年で実施しています。2018年入試の前年はちょうど私が引率しました。平和記念式典に参列して平和宣言をその場で聞き、被爆者の方の話を直接伺ったことで、改めて核兵器がもたらす悲劇と平和の尊さを深く認識し、入試問題として出題したいと思いました。
核兵器の問題は過去にも取り上げていますが、「核兵器はいけないもの」という表面的なとらえ方をするのではなく、核兵器の一体何が「悪」なのか、踏み込んで考えてもらう問いにしました。

核兵器の問題では、「抑止力」を聞くことが多いのですが、この問題はこれまでなかった問い方が目を引きました。

社会科/上田 敍代先生

社会科/上田 敍代先生

原爆投下の日に合わせ「ヒロシマ研修旅行」を隔年で実施

その研修について教えていただけますか。

上田先生 この研修は、修学旅行でお世話になっていた広島被爆者援護会にご協力いただいています。行き先の変更で長年の交流が途切れるのは惜しいですし、広島に足を運ぶ意義はあると思い、現在の形で続けています。
4回目となった2017年は、中2から高2の10名が参加(定員10名、希望制)。前日に広島入りし、被爆者の方の体験講話をうかがったり、広島平和記念資料館を見学したりしました。オバマ前大統領が広島市に贈った折り鶴の展示も見ました。

8月6日に式典に参列して平和宣言を聞き、黙祷したことは、生徒たちにとって貴重な経験になったと思います。援護会主催の献花・献水式にも参列し、高2の生徒がスピーチしました。
参加した生徒からは、「両親に広島の話をして、広島のことを知ってもらいたい」「この貴重な体験を忘れずに覚えていたい」という声がありました。

東京女学館中学校/式典スピーチ

東京女学館中学校/式典スピーチ

「大勢が亡くなった」では空襲との違いがわからない

坂田先生 核兵器の問題には子どもには理解しがたい「国際政治の駆け引き」が絡みます。どのように聞けば小学生が答えやすいか、相当議論しました。

上田先生 何を答えればいいか戸惑わないように、設問文に「東京大空襲などとくらべて」というヒントを加えました。

出来具合はいかがでしたか。

上田先生 何かしら書いてくれていました。「放射線(放射能)」というキーワードを使い、後々まで影響が及んでしまうことまで書けていれば完答になります。

坂田先生 「放射線」に触れていた解答は半数ほど、後々までの影響に触れていたのがその半数ほどだったでしょうか。完答は4分の1程度だったと思います。

上田先生 空襲との違いが明確に書かれていない解答が結構多かったですね。

坂田先生 予想はしていましたが、「一瞬でたくさん亡くなった」といった答えが目立ちました。「違い」がわからない解答は設問の条件を満たしていないので、ほとんど点数をあげていません。

上田先生 戦争のイメージとしてはわかりますが、もう一歩踏み込んで考えてみてほしかったですね。
「絶対悪」という言葉の強さに、広島の方々の断固たる決意を感じます。なぜ「絶対悪」とまで言い切るのか、この言葉にどんな意味が込められているのか考えてもらいたいと思いました。

核兵器について最後に4問連続、文章記述問題を出す

この問題を含め、最後に「核兵器」という同一テーマで4問連続、文章記述を出題されています。こういったパターンはなかなかありません。さきほど式典に参列されたと聞いて、得心がいきました。貴校を受験したお子さんも「印象に残った」と聞いています。

上田先生 身近に北朝鮮の核兵器問題もありますし、小学生にも考えてもらいたい問題です。

原爆の犠牲者には外国人もいます。最後の問題の「なぜアメリカ人が日本に滞在していたのか」は答えられなかったと言っていました。

坂田先生 原爆で大勢の人が亡くなったと一括りにされますが、日本人だけでなく外国人もいますし、外国人も国によって理由は違う。こうした多面性にも考えをめぐらせてほしかったのです。
はじめは、台湾・朝鮮の人とアメリカ人、それぞれ答えてもらうつもりでしたが、難しいだろうから一方に絞りました。アメリカ人の理由の方が難しいのですが、小学生が答えられるかどうか聞いてみたいと思い、こちらを出題しました。

東京女学館中学校/校舎

東京女学館中学校/校舎

被爆したアメリカ人は、当時なぜ日本に?

上田先生 当時の日本とアメリカとの関係をきちんととらえているかどうか。大きく報道された、オバマ氏とハグをした被爆者が米兵捕虜の調査に半生をささげた方(森重昭さん)だと知っていたら、もしかすると答えられるのではと思いましたが、やはり小学生には難しかったですね。

坂田先生 正解者はとても少なかったです。

上田先生 「日本人と結婚して日本に滞在していた」「観光で訪れていた」など、想像をめぐらせたことがわかります。頑張って答えようとしてくれた努力は伝わりました。

「捕虜」という概念が小学生には難しかったと思います。「強制連行」は授業で扱いますから、台湾・朝鮮の人の場合は書けたかもしれません。でも、答えられなかったとしても、受験生はこの問いを通して新たな視点を獲得できたのではないかと思います。

インタビュー1/3

東京女学館中学校・高等学校
東京女学館中学校・高等学校伊藤博文が創立委員長として発足した「女子教育奨励会」が母体となり、1888(明治21)年に設立。建学の精神は「諸外国の人々と対等に交際できる国際性を備えた、知性豊かな気品ある女性の育成」です。インクルーシブ・リーダーシップ(共生し協働する力)を養うために、生徒会、クラブ、さまざまな行事を生徒による実行委員会方式で実施。
「国際学級」は英語に特化したカリキュラムで、実践的な英語力を養成。一般学級でも英語習得を中心とした国際教育を重視。英語や英会話はクラスを2分割します。アメリカ文化研修は、働く女性の職場から家庭まで密着するというユニークな文化交流。さらに、日本の文化にも力を入れ、茶道・華道体験、歌舞伎や能楽の鑑賞、京都・奈良への修学旅行(高2)などを実施。中3の修学旅行は沖縄で、平和や環境問題を学びます。
白のセーラー服に青いリボンの制服は1930(昭和5)年に制定され、「品性を高め、真剣に学ぶ」精神を象徴。中1では60歳以上の卒業生へのインタビューも交えたスクールアイデンティティ学習を実施。体育大会では、17世紀のフランス宮廷ダンス「カドリール」を高3が制服で踊るのが伝統。クラブではオーケストラ、ダンスが人気。茶道部は表千家・裏千家があります。食堂の手作りパン、ソフトクリームは大人気。