今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!
東京女学館中学校
2018年11月掲載
2018年 東京女学館中学校入試問題より
- 問題文のテキストを表示する
広島市内に、1945年8月6日、原子爆弾が投下されました。この日には、現在も毎年平和記念式典が開催されています。2017年夏も、たくさんの人々が集まって式典が開かれました。広島市長は、この式典の「平和宣言」の中で、原爆を「絶対悪(ぜったいあく)」とし、72年前の広島に落ちた原爆の被害の悲惨(ひさん)さに、目や耳をかたむけてほしいと若者たちに呼びかけました。また、各国政府に対して「核兵器のない世界」を実現させるように要望しました。
(問)下線部について、原爆や核兵器をなぜ「絶対悪」(誰にとっても、何にとっても悪と言えること)と強く言うのでしょうか。
東京大空襲など当時行われていたほかの攻撃とくらべて、大きく違う点を説明しなさい。
中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この東京女学館中学校の社会の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)
解答と解説
日能研による解答と解説
解答例
原爆や核兵器は投下されたところにだけ被害を与えるのではなく、放射線によって広い範囲に被害を与えるため。また、放射線による後遺症など、将来の世代にわたって被害を与えるから。
解説
市長が「平和宣言」の中で、原爆や核兵器が「絶対悪」だと強く言う理由を考える問題です。問題にある「東京大空襲など当時行われていたほかの攻撃とくらべて」ということばを手がかりにして、核兵器がほかの兵器とちがうところに目を向けることがポイントになるでしょう。
「絶対悪」ということばは、核兵器禁止条約成立に貢献したICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)がノーベル平和賞を受賞したときにも使われました。受賞式で演説をしたサーロー節子さんは、「……(核保有国である)9カ国は、都市全体を燃やし尽くし、地球上の生命を破壊し、この美しい世界を将来世代が暮らしていけないものにすると脅し続けています。核兵器の開発は、国家の偉大さが高まることを表すものではなく、国家が暗黒のふちへと堕落することを表しています。核兵器は必要悪ではなく、絶対悪です。」と言っています。また、核兵器について「……数週間、数カ月、数年にわたり、何千人もの人たちが、放射線の遅発的な影響によって、次々と不可解な形で亡くなっていきました。今日なお、放射線は被爆者たちの命を奪っています。」とも述べています。
- 日能研がこの問題を選んだ理由
2017年に核兵器禁止条約が採択されたこともあり、2018年の中学入試問題では、核兵器に関する問題が例年よりもやや多く出題されました。核兵器禁止条約という条約名そのものや、条約の成立に貢献してノーベル平和賞を受賞したICANなどを問うものも見られましたが、東京女学館中では、そのような時事用語ではなく「核とは何か」という本質につながる部分を問いにしていたという点で、他にはない切り口だと感じました。
また、広告では、問題の全体像をお見せできないのですが、この問題では問6から問9(問9が最終問題)までが連続して核兵器に関する出題になっています。問7は非核三原則の内容、問8は日本が核兵器禁止条約に対し、賛成・反対のどちらの立場もとらなかった理由、問9は原爆の犠牲者にアメリカ人も含まれていた理由、をそれぞれ文章で説明する問題です。核兵器について、ここまで集中して、しかも多様な切り口から考えさせるという出題も他にはなかなかありません。そういう意味でも、受験生たちにとって印象深い問題になったと考えられます。核廃絶と日本が平和に対してどんな貢献ができるかを、考え続けてほしいという、先生方のメッセージが伝わる問題でもありました。
このような理由から、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ぶことにいたしました。
SDGs17のゴールとのつながりについて
この地球上からすべての暴力を根絶していくために、あなたならどうしますか?何ができるでしょうか?
核兵器を使用しようとする場合、自分の国も相手の国から核兵器による破滅的な被害を覚悟しなければならず、そのために核兵器の使用を思いとどまるという考え方=「核抑止」がある一方で、この入試問題では「絶対悪」という考え方を取り上げています。
これは、あらゆる形態の暴力を撲滅するとともに、政府やコミュニティと協力し、紛争と情勢不安を恒久的に解決することをねらいとした、SDGs(持続可能な開発目標)の目標16「持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する」につながるテーマだと言えるでしょう。
私学とSDGsのつながりについて詳しくはこちらから
日能研は、SDGs をツールとして使い、私学の活動と入試問題に光を当てた冊子をつくりました。
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