出題校にインタビュー!
聖光学院中学校
2018年11月掲載
聖光学院中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
1.じっくり腰を据えて自ら理論立てる問題を毎年出題
インタビュー1/3
有名な数学パズルが原型、普段は生徒の腕試しに出題することも
この問題はどのように作られたのでしょうか。
小野先生 数学好きの人や数学に関わっている人にはピンと来ると思うのですけれども、この問題の元になった有名なパズルがあります。もともとは、0~9の10桁の数字を並べ替えて条件にあった整数を作るという問題です。今回出題したのは6桁の問題でしたが、10桁の整数を作る問題の場合は、面白いことに答えが1個に絞られます。
出題意図をお聞かせください。
小野先生 実は、私の数学の授業の中で、生徒たちがどう思うかな、面白いと思ってくれるかなと思って何度か出題した問題なんです。中学入試に合うように桁数を減らしてみて、「6桁くらいなら答えも2つ出ておもしろいな」と思って作りました。
聖光学院中学校 校舎
考える力と倍数の判定を問う
小野先生 倍数の判定法は、中学受験の算数での取り扱い内容です。問題を速く解けるようになるので、2、3、4、5、6の倍数の見極めは小学生のうちに知っておいてほしい項目として出題しています。
この問題に関しては、教員間で持ち寄った問題の中から私の問題が選ばれたという形です。この問題が入試問題として採用されたのは、聖光学院中学校の受験生にとっては、難しすぎず簡単すぎずで、ちょうど良いレベル感だったからでしょう。
大人でも、見ると思わず解きたくなるような問題です。
小野先生 本校の中1生を対象に10桁バージョンの同様な問題にトライしてもらった際にも、生徒からは「おもしろい」という声を聞くことができました。50分の授業内ではなかなか解けなかった生徒も、授業が終わってからさらに考えを巡らせて解いてくれたりしていたようです。
自分の理論が正しいのかを検証できる力
今回の問題は、受験生に「粘り強く」、「丁寧に」解くことの大切さを教えてくれるような問題だと感じました。受験生たちも好奇心が揺さぶられ、手を動かし始めるはずの問題と言えますね。
小野先生 偶然答えが見つかっただけでは、複数の解が導き出せません。「倍数の判定を使えばいいんだ」と自分の中での理論があって初めて、解が1つかどうか検証できる問題です。そういう意味では、勉強の甲斐があったなと感じられる問題といえるでしょう。
解が2つ出た時点で「もうこれ以上はない!」と自分で確信できるのは、答えを導き出すための道筋ができているからですね。
小野先生 残念ながら正答率などは非公表となります。また、私も採点を担当していないので合格者と不合格者で差がついた問題かどうか確かなことは言えないのですが。中1生がこの問題に取り組む様子を見ていると、とても興味深いです。回答にするのに30~40分ほど時間を与えるのですけれども、忍耐強く取り組む子もいれば、解く方法を見つけることや検証する過程を諦めてしまう子もいますね。
どれくらいの時間で解ければ良いという目安はありましたか?
小野先生 問題を作る段階ではそのへんは考えていなかったです。もしかすると問題選定の会議の時に、入試問題専門の教員たちの間でそういう話はあったかもしれませんけどね。
それよりも、普段から数学に関わる自分が作っていておもしろいと思えるもの、さらには小学生たちの知的好奇心を刺激して、かつ入試問題として成り立つものを、と考えて作っています。
聖光学院中学校 中1 問題
聖光受験生の正答率の肌感覚は約50%
この問題、日能研で設定している問題レベルは難易度が高い方でした。
小野先生 正確な数字はわかりませんが、聖光学院中学校の受験生でいえば半分くらいの正答率はあると思います。全体における問題後半はより難しい大問を設定していますから、このあたりの問題はあまり誤答して欲しくないですね。
毎年一ひねりした問題や一筋縄ではいかない問題が出されているなと感じます。粘り強く、かつ丁寧に解かないと正答しない問題ではないでしょうか。たとえば、規則性が見つかるまで数字を書いてみたり、図にしてみたりなどです。
小野先生 そういうことなしには確信を持って答えられない問題を選んで出題しているつもりです。普段からこうした忍耐強さが求められる問題が出てきても「よし、やるぞ」と手を動かせることが必要になるように思いますね。
「粘り強さ」「丁寧さ」が答えを導く鍵
小野先生 そうですね。数学科の出題側としても、そういう粘り強さや丁寧さが求められるような問題を作るようにはしています。ただ一方で、我々としてもあまり番狂わせは起こしたくないと考えています。つまり入試まで着実に勉強してきた受験生であればきちんと点数に反映されるような問題にはしたいと思っています。
ただ、その努力の質というのは、単なる「反復」ではなく、読解力や情報整理能力を養う方向に狙いがあるように思えます。
小野先生 確かに細かく見ていかないと条件に漏れが出たり、1箇所違っていたことによってその後の答えがまるで変わってしまったり、といった問題は多いですね。「自分で確信を持って次に進む」、「答えに結びつける」というような傾向にあると思います。受験生は限られた時間の中で、「スピーディにこなす部分」と「丁寧に細かく見る部分」のバランスをとって取り組まなければなりません。
ただ、毎年小問があって、速さや平面図形、立体図形といった分野から出題されることは変わりません。変化球を出して番狂わせがあってほしくはない、こういうことは習得しておいてほしい、と思いながら気をつけて作成していますね。ですから、出題傾向としてはわかりやすいです。
私の感覚ですと、地道な問題こそ差が出るところだと思っていまして、中学入学から6年後の大学入試を見据えた時、場合分けの判断力や、分けたものを問題文の条件に応じて丁寧に処理していく力はとても重要となります。そう考えると、今の本校の出題傾向は合っているし、こうした種類の問題に落ち着いて取り組む姿勢は大切だなとも思います。
聖光学院中学校 職員室
クイズ感覚で親子でトライしてもらいたい
小野先生 もちろん「倍数の規則性」を知っていることが前提になる問題ですが、規則性を知らない小学校低学年の段階、たとえば偶数・奇数や九九・割り算を習った段階で、親子でチャレンジしてみても良い問題かもしれません。
おそらく5の倍数2の倍数は感覚として性質を理解しやすいですね。
答えが2つで、問題文には「すべて書きなさい」とありますが、受験生たちはいくつくらい答えを出してくると読んでいましたか?
小野先生 1個だけ書く受験生というのはもちろん想定していました。焦ったり、見落としたりして1個だけ書く子はいるだろうなと。さすがに小学生対象のテストなので、「すべて」と書いて1個しか解答がないような問題は出題したことはないですね。
自信を持って「これで全部だ」と思えるまでの裏付けは非常に難しいと思います。「こんなに欄が広いのに、2つだけで良いのだろうか」と思う受験生もいるでしょう。たとえば大問3(文章だけで構成された速さの問題)も自分で手を動かして図に起こさなければ難しい問題です。
合格者の平均を見てもらえればわかるのですが、後半の難しい問題までを解き切れる子はそう多くないのが現実です。ですから、取れる問題を取りこぼさないことがやはり重要ですね。
インタビュー1/3