出題校にインタビュー!
多摩大学附属聖ヶ丘中学校
2018年09月掲載
多摩大学附属聖ヶ丘中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
2.感情に任せた 「単語」のみで発信するのではなく、文章として論理的に発信できる生徒に
インタビュー2/3
現在は自然に語彙力・文章力が身に付きづらい時代
石原先生 最近の子ども達のコミュニケーションは、「単語」や「ワンフレーズ」ごとの話し言葉を発するだけでコミュニケーションが成り立ってしまいます。時代的にもそういう時代になりつつありますよね。本校に在学している生徒達の作文や評論文を添削してみると、「てにをは」や「助詞の使い方」が間違っている場合が非常に多いです。
文法の決まりは私たちの時代もきちんと教わった記憶は皆無だけれども、大抵が自然にできる。これは自然の生活習慣の中での言い回しで、主語・述語・目的語が整理された「一つのまとまった文」で表すコミュニーションにおいて、身につけていたのではないでしょうか。昔と今では随分と状況が変わってきているような気がします。
また、これまでに何度も入試の問題構成は試行錯誤してきましたが、「論理構成の力」は視写を出題することで、長文の評論文を読まなくてもある程度見られるのかなと感じています。
国語科/石原 純生先生、北條 健先生
問題にパズル的な要素も盛り込む
実際の問題文は、どのように決めているのですか?
出岡先生 目安としては、カタカナで200~220字、漢字・ひらがなに直した時に160~180字くらいのものになるように考えました。内容に関しては、なるべく子ども達に身近な時事問題を扱っている記事、新聞コラムや子ども向け化学情報誌の記事を参考にしてリライトして作成しています。
時々意図的に、絶対に子どもたちが知らない言葉も入れています。例えば「ムヒカゼンダイトウリョウ」という問題があった時、なかなかその文字列だけでは何を表しているのかがわかりません。しかしその後に「ムヒカ氏はこう言っている」や「今の大統領は」という文脈から、「ゼン」は前であるということがわかり、「ムヒカ前大統領は」と複合的に推測することができます。また、「ゼンジンコウガヨンオクニセンニヒャクマンニン(全人口が四億二千二百万人)」などと、漢数字に変換させる問題も考えました。ベースは時事ネタを元に、どういった読み取りができるのかというパズル的な要素を盛り込んで作ります。
読点の打ち方はどうでしょうか?
出岡先生 模範解答通りでなくて大丈夫です。読点に意識が行ってしまうと、我々が本当に見たいと思っている、文の区切りや言葉の区切りではなく「どうやって読点を打てばいいんですか?」というテクニックの部分に走ってしまいます。
石原先生 読点を打つ具体的なルールはないので、何もなければ読みづらいというのはあるかもしれませんから、採点側ではあくまで基準としての模範解答を準備しています。
平均点はどれくらいですか?チェック項目はどんな感じで作られましたか?
吉岡先生 様々です。正答率が高い子は、20点満点中ほぼ20点に近い点数が出ますし、減点法なので20点以上の減点がある場合もあります(その場合ももちろん最大で0点になります)。模範解答をこちらで作成する上で、読点においては絶対ここだけ外せないというのは決めました。
採点しながら、よく「これはどうすればいいかな?」と採点者間で話し合います。時には、採点が最初からやり直しになることもありますよ。逆に私たちの方が、シカクいアタマがマルくなるような感覚になります。
たまに受験生の頭の柔らかさに、「やられた!」と思う時もありますね。
芦村先生 あとは文章を全て読み切れない子、視写の過程で読み飛ばしてしまう子もいます。
国語科/出岡 由宇先生、佐野 彩雪先生
入試後にフィードバックを重ね次年度の作問に活かす
出題する文章を選ぶのに何か決まりはあるのですか?
北條先生 テーマにこだわらず、各々集めてくるようにしています。選んでくる文章は違うけれども、「子どもたちに問いたいこと」「こういう考え方を持っていて欲しいこと」は共通して認識を持っています。
出岡先生 また、この学校では入試のあとにはフィードバックを重ねて、今の子どもたちの実情に入試問題があっていたのか、結果的にどうだったのかをきちんと考える場を持って、次年度に活かしています。
ちなみに昨年度の入試から、次年度に反映させたいなと思っていることはありますか?
出岡先生 これは先日も議論になったばかりなのですが、我々が求めている水準の問題が、現状の受験生の実情と若干マッチングしなくなってきているというのは感じています。先日も「2行前に正解が書いてあることを問題にするのか?」というところで、随分議論しました。
芦村先生 子どもたちのレベルに合っているのかを考えることももちろん大事ですし、我々だけが理想だけを掲げて、子ども達を苦しめるような問題を作ることが正しいとは思っていません。だからといって、「既に書いてあることを問題にしてどこが国語の問題なんだ?」という気持ちやせめぎあいはあります。私たちの理想として「こういうことはわかっていて欲しい」と思う部分と、今の子どもたちの語彙力の低さをどう擦り合せるのか、が永遠の課題なのかなと。
吉岡先生 サッと通読して行って情報の上澄みを抜き出すだけで全体がわかってしまうような問題は良くないとは当然感じています。読んでいくうちに「あれ?」と思って、繰り返し読み返せる問題である方が良いですね。
私たちが求めているのは、特別な力ではなくきわめて日常的な言語能力です。そういう子が入学してくれれば、あとは我々で伸ばせるのではないかと思っています。
多摩大学附属聖ヶ丘中学校 提出物
日本語を肌で感じとることができる生徒の育成を
入学後、普段の国語の授業ではどんなことを大切にしていますか?
吉岡先生 教員陣に共通しているのは、「言葉」「言葉で表現すること」が大事だと認識をしていることです。今の子どもたちは、単語で説明するんですよね。授業中の私の質問に対して単語で答えた子がおり、「いい答えだからそのまま文章で言ってごらん」と言ったところ固まってしまって、どう答えて良いかわからない。こんなシーンをしばしば見かけます。自分の思っていること、考えていることをきちんと文章で表現することを、私たちは求めていますね。
石原先生 日本語の豊かな文章表現の良さを、理屈でなくて良いからなんとなくでも肌で感じて欲しいですね。知識が多いとか、計算が速いだけでなく、どんな視点からも柔軟に対応できるようなことを身に付けていってもらうことを理想としています。
佐野先生 例えば、Skypeを使ったテレビ電話で商店街の理事方と商店街の活性化について話し合ったり、まちづくりについて観光協会の局長と話し合ったりといった取り組みをしています。いずれも、いつも知っている人以外と「言葉でコミュニケーションをとる」良い機会になっています。
心から面白い!と思える学びを、教員と生徒が一体となって取り組む
出岡先生 今年度から夏に「A知探Q(英知探究)」という授業をやり始めています。これは、専任教員40名が一丸となって、生徒たちが本気で楽しめるもの、かつ教師も教えて楽しいものだけを夏の講座としてやろうというものです。昨年まではサマースクールという形で約80講座開講していたのですが、その80%がいわゆる勉強補習・夏期講習のようなものでした。ただそれは、通常でもできることだから、受験生(高3)以外はやらない!と今年度から大きく舵を切りました。
今年は、落語、歌舞伎、漢字の成り立ち、発明の企画コンテストに応募するためのプレゼン作成など28講座を開催しています。教師側が「これ楽しいから、一緒に楽しもう」というスタンスでやっているので、生徒達も楽しそうにしてくれていますね。
多摩大学附属聖ヶ丘中学校 A知探Q(英知探究)
インタビュー2/3