シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

多摩大学附属聖ヶ丘中学校

2018年09月掲載

多摩大学附属聖ヶ丘中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.国語に対して真摯に向き合い、確実に語彙力や文章力を獲得してもらいたい、という想い

インタビュー1/3

正しい文章に直せる力が語彙力強化への鍵

聖ヶ丘の入試問題の特徴の一つとも言える「視写」の問題、作成された意図を教えてください。

吉岡先生 もう5年くらいこの問題を出しています。きっかけは、文章を読めない生徒が増えてしまっているなと感じたのがきっかけです。記述問題でも、きちんとした文で説明できない。ちょっと長い文章になると読み取ることができない。こうしたことが入試の反省点として上がってきました。

そういう反省点を踏まえて、漢字の出題に関しても、単に漢字問題だけを独立させたものとは違う力を見たいなと思った次第です。受験生は大抵漢字を単独で覚えていて、形として覚えているけれども、語彙力にはなっていない。その力が文章力に結びついていないのでは?と、我々の反省としてありましたね。

漢字学習をどうにかして文章力に繋げられないかという話の中で、カタカナの文字列を漢字やひらがな、句読点に置き換えて正しい文章に直すことを通して、語彙力を鍛えられるだろうと思いました。こうした語彙力や、言葉に関する力は、実際に使えて初めて「真の言葉の力」だと言えます。それを問うことができる問題として出題してみたと言うのが出題の経緯です。

国語科/吉岡 和真先生

国語科/吉岡 和真先生

文節の理解度を測る問題でもある

文脈から適切な言葉を読み取ることができる良い問題だと思いました。

吉岡先生 実際に漢字になっている文章をみると、極めて簡単な文章なのです。単独では漢字の問題にならないような簡単な漢字を使っています。ただ、この問題では、文節の区切り方が正しく理解できていないと成立しません。例えば「キョウイクワ」というカタカナに対して、「今日、行くわ」といった回答もありました。

子どもたちの回答のバリエーションはかなり多くなりそうですね。

芦村先生 例えば「かがくぎじゅつ」と言う言葉について、「科学技術」でひとまとめにした方が文脈上正しいのか、「科学・技術」と区切った方が良いのかについては、採点者の中でも侃侃諤諤ありながら、基準を決めていきました。

吉岡先生 句読点の位置も、絶対ここには必要だというところ以外は、通常の文としておかしくない範囲であれば、問題にしていません。極端に多すぎる場合には、少し減点するくらいです。採点に時間はかかりますが、正直採点していて楽しいですね。

同じ文を見ても、子どもたちの頭の中で見えているものが違うことが表記からわかるのが、とても興味深いですね。

国語科/芦村 紋子先生

国語科/芦村 紋子先生

読解力や持久力が乏しい現代の生徒たち

北条先生 「きょういくわ」で始まる文章では、必ずその続きにも教育に関する話が出てきているはずなのですが、例えば「今日、行くわ。」としてしまうような生徒は、彼らの中で、文章というものがつながりを持ってできているという認識が、もしかしたら薄いのかもしれませんね。それが原因で、読み取る力や、文章を読んでいく持久力を失くしてしまっているのかなとも考えます。

子ども達が使うアイテム(携帯電話やPC)から見れば、漢字は自動変換で出ますし、スタンプで感情を表現できます。そのような中で、カタカナだけで作られた問題をみると、驚きが大きいと思います。それでも、その文が漢字に直っていくだけで、読めるもの、理解できるものになっていくという手応えも感じられますね。

芦村先生 このスタイルの問題に変えるのにいろいろ考えたんです。例えば聴写(リスニング)も考えましたが、試験会場の環境的に不公平が出てしまうといけないので、採用しませんでした。あとはひらがなの問題文にするという案もありましたが、カタカナの問題文の方が、普段使っている表記に持っていくまで、もう一段階あるというところから、カタカナの問題文になりました。

「読点をなくす」「濁点もなくても良いのでは」など様々な議論がありましたが、試験は受験生を苦しめるものではないので、有機的に文章を読んで欲しいという目標に達成できるようなところで折り合いをつけました。

多摩大学附属聖ヶ丘中学校 図書館

多摩大学附属聖ヶ丘中学校 図書館

文節が理解できてない生徒が増えている

出岡先生 中1の授業を持った時に、入試から逆入りするように授業で視写をやってみると、「なんでこの文章を読めないのだろう」というところに意外と簡単に答えが出てきます。つまり、単語、文節、助詞という概念がそもそも理解できていないのです。「これじゃ文章も読めるわけがないよね」と。

そうすると、逆説的に「この子はここでつまずいているんだ」ということが視写をやればやるほどわかってきます。そもそも文節が理解できていない子たちに、「こういう読み方なんだよ」と読解のテクニックを教えたところで、その通りに対応できないのです。そのはるか前段階でつまずいているような子が増えているように授業の中で体感しているところです。

インタビュー1/3

多摩大学附属聖ヶ丘中学校
多摩大学附属聖ヶ丘中学校1学年120名という小さな学校であり、それゆえに、一人一人の生徒に対する細やかな心配り・気配りが行き届いている。「自己研鑽」「健康明朗」「敬愛奉仕」が教育目標であり、その実現のための手法は、「少人数できめ細かい指導」「本物から本質に迫る教育」「主体性と協同性の育成」の三点だ。
中学校では、「野菜を育てよう」「白い粉末5種の区別」「音速の測定」など、100を超えるテーマを設け、興味・関心を喚起するとともに、仮説・推論の過程を通し思考力を養う。高校では、大学や研究所と連携し、「遺伝子解析」や「DNA鑑定」など先端科学に挑戦する機会も設けられる。
また、中学1年次には、6回にわたり、社会科見学を行う。横浜・鎌倉・小田原・都内2か所・甲府を訪れ、実際に見て体験したことを生かし、授業で学習した内容からさらに深く探求していく。中学の修学旅行はニュージーランドで、2週間にわたるホームステイだ。期間中は地元の学校に通い、学生と交流を深める。
「放課後講習」「土曜サポート講座」「検定講習」など、進路や受験のサポートも充実。さらに、「サマーセミナー」では、夏休みを大きく3つのゾーンに分けて、前期は3日を1セットにして3期、中期は3日、後期は5日を1セットに計5期に分けて、中高で90以上の講座が開設される。
読む力は、考える力を育み、学力向上の原点になるとし、「本の世界を大切にしている。始業前、校内が一斉に静まって読書に没頭。気持が落ち着く10分間で1日がスタートする。