シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

明治大学付属明治中学校

2018年07月掲載

明治大学付属明治中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.世の中の動きを授業に積極的に取り入れる

インタビュー3/3

正解ではなく「納得解」を見つけ出す

宮下先生 本校に入学すると、中1から正解のない、答えが一つとは限らない問いを、グループで話し合います。正解を見つけるよりも、問題解決に向かうための「納得解」を得られるように、きちんと話し合った上で、集団の中で合意形成できる力を身につけてもらいたいと思っています。

例えば、中1のグループワークではどんなことを話し合っているのですか。

河村先生 数年前に原発について話し合いました。自分で納得して「脱原発」を主張するならいいのですが、世間の原発廃止の風潮に流れされたり、安易に乗っかってしまう付和雷同的な姿勢は避けたいものです。他者に説明して納得してもらえる根拠を見つけます。
定期試験では、提示された初見の統計資料の中から、指定の意見の根拠として適切なものを選ぶ問題も出しました。

明治大学付属明治中学校/エントランスホール

明治大学付属明治中学校/エントランスホール

今年の中1は授業のノリがいい

宮下先生 今年度、私は中1を教えているのですが、こちらの投げかけにいい反応が返ってきて、社会科好きが多いと感じます。小学生のときにオープンキャンパスに参加して社会科の授業を受けた生徒もいて、興味を持ってくれたようです。
中1には、いの一番に「授業はグループワークもたくさんやるよ」と宣言し、早速、地図帳の使い方も6~7人のグループで教え合ってもらいました。「グループワークをしよう」というと、すぐに男女でグループをつくり、意見交換も活発です。例年より早くグループワークを取り入れたことがうまくいっていると感じます。
時差の計算は最初にヒントを伝えて、グループ全員が説明できるように教え合ってもらいました。さらに、早く終わったグループの生徒が他のグループを教えることで、時差の単元にかけた時間は過去最短で終わりました。
また、緯度・経度の授業では、赤道直下でも高温多雨ではない都市を挙げてグループワークで理由を考えてもらったところ、標高だけでなく海流の影響などを検討しようとした生徒がいたのには感心しました。

国籍は人をグループ分けするものさしとして重要?

宮下先生 先日、中1の授業では人種・民族について話し合いました。
まず、「人をグループ分けする『ものさし』には何がある?」と聞いて意見を出してもらいました。次に、それを大きく二つ分けてもらうと、「肌の色など生まれながらの特徴と、そうでないもの」に分かれたので、その根拠について話し合いました。
その際、国際結婚の両親を持つ芸能人を例に出して、「この人は何人?」と聞きました。「日本国籍を持っているから日本人」という意見には「国籍はそんなに重要?」と投げかけると、ああでもないこうでもないと、正解のない問題について議論が盛り上がりました。

明治大学付属明治中学校/社会 資料プリント

明治大学付属明治中学校/社会 資料プリント

世の中の動きに合わせて教える順番を柔軟に変える

宮下先生 昨年度は中3を教えました。2017年は春の時点で衆院解散の気配があったので、教科書の順番を変えて、1学期はいきなり「選挙」の単元から始めました。
18歳・19歳人口が有権者全体に占める割合は約2%ですが、小選挙区制では当落が逆転可能な接戦区は結構あります。「たかが2%、されど2%」という現実も説明しています。

2017年の衆院選では新潟3区はわずか50票差でしたね。
貴校の生徒さんが住む選挙区の中では、東京6区(世田谷区)や東京18区(府中市、武蔵野市など)の当落差は2000票ありませんでした。自分の身の回りのことに落とし込んで考えると、政治もぐっと身近に感じられそうですね。

宮下先生 単元の並べ替えは教員の裁量に任されています。歴史と違い、公民や地理は教える順番を多少入れ替えてもあまり支障はありません。現在進行形の出来事について新聞などを用いて、「このニュースを理解するには、政治のこのしくみを押さえておこう」と、世の中の動きに連動して授業を行います。

アイドルの曲を取り上げて生徒の興味をかき立てる

宮下先生 公民の授業をいきなり選挙の単元から始めることにしたので、どうすれば生徒の興味をかき立てられるか思案して、欅坂46の『サイレントマジョリティー』を取っかかりにしました。「歌詞にあるように、実際にそう言った人がいるんだよ」と言うと、生徒たちは「そうなの?」と食いついてきました。

「サイレントマジョリティー」は、アメリカのニクソン大統領がテレビ演説で使った言葉ですね。

宮下先生 日本の岸首相も似たような発言がありましたが、「声を上げない者」は権力側に都合良く解釈されてしまう。だから投票という行動が大事だということが伝わればと思いました。

明治大学付属明治中学校/校内

明治大学付属明治中学校/校内

中3の家庭ではニュースが食卓の話題になることも

18歳選挙権が導入され、さらには成人年齢を20歳から18歳に引き下げる民法改正案もあり、18歳の立ち位置はここへ来て大きく変わろうとしていますね。

宮下先生 そうした今だからこそ、中3が高校に進む前に「高校生は子どもか? 大人か?」を議論する意義はあると思います。中3には、「15歳は大人の入口になるよね」と話した上で、選挙の授業に入りました。
選挙に興味を持つのはいいことですが、18歳未満は、政治活動はできるけれど選挙運動はできません。どんな活動がNGなのか、グループワークで考えさせています。
中3の親御さんからは、家庭でニュースについて話すようになったということも聞きます。「お母さん、これは今、こうなっているんだよ」と、得意そうに解説するそうです。

そのように親御さんに話しているということは、社会科の勉強がおもしろいのでしょうね。

大学進学後を見据えた付属校らしい取り組みも充実

河村先生 本校の生徒は9割近くが明治大学に進学します。本校で培った力を大学でさらに伸ばすためには、人生の土台になるものの見方や考え方は高校卒業までに固めたいと考えています。文理選択は高3からですが、ほぼ全員が社会科科目を一通り履修するのも、大学進学後を見据えた取り組みの一環と言えます。

宮下先生 卒業生からは「大学の授業にもついていけます」と聞きます。

河村先生 かつて経済学部に進んだ卒業生がミクロ経済やマクロ経済でつまずくことが多かったため、オリジナルのテキストを作成し、高3に大学の授業を先取りする形で経済学を教えていた教員もいました。
大学受験がない直系付属校の利点を生かして、学びの本質に触れ、中高6年間の生徒の成長を支えていく構えです。

明治大学付属明治中学校

明治大学付属明治中学校

インタビュー3/3

明治大学付属明治中学校
明治大学付属明治中学校1912年に旧制明治中学校として神田駿河台の明治大学構内で開校した。戦後は、1947年の新制明治中学校、1948年の新制明治高等学校の発足に伴い、推薦制度による大学までの一貫教育の方針が確立された。2008年に調布市へ移転し、共学化。
明治大学への内進率は約90%で、国公立大学進学希望者は、明治大学への推薦資格を保持したまま併願可能。私立大学も併願受験の対象となる場合があるが、学部・学科ごとに条件が異なるため、受験には予め明治大学からの許可が必要。7時間目に週1回ずつ英・数の補習講座を設定し、ていねいに基礎力を固めている。高大連携教育にも力を入れており、大学の先生による「高大連携講座」や、長期休みを利用した法曹入門講座などの「高大連携セミナー」、大学の単位として認定される「プレカレッジプログラム」など、付属校としての魅力ある講座も豊富。
1450名収容のホール、2つの体育館、蔵書約7万冊の図書館など、充実した施設がそろっている。英語科教員が1冊ずつ読んで独自のレベル分けをした英語の多読本が約7000冊あり、積極的に活用されている。「質実剛健」「独立自治」という建学精神のもと、紫紺祭(文化祭)、体育祭、東京六大学野球応援、球技大会などの行事や、中学でほぼ100%、高校で90%以上の生徒が加入するクラブ活動も盛んである。