シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

恵泉女学園中学校

2018年05月掲載

恵泉女学園中学校【社会】

2018年 恵泉女学園中学校入試問題より

次の文章を読んで、問いに答えなさい。

下の各条文は、1989年に国際連合で採択(さいたく)された、「子どもの権利条約」の中で書かれている5つの条文を、意味が分かりやすくなるように要約したものです。
  (中略)
世界に目を向けると、まだまだこれらの権利が守られていない子どもたちがたくさんいます。同じ子どもとして自分たちにできることを考えてみてはいかがでしょうか。

第6条・第22条・第24条・第28条(略)
第38条
国は、15歳にならない子どもを兵士として戦場に連れていってはなりません。また、戦争にまきこまれた子どもを守るために、できることはすべてしなければなりません。

(問)下線部のためには、一人ひとりの力も大切です。小学生一人の力で戦争を止めるのは難しいことですが、戦争にまきこまれた子どもたちを助けることにつながる小さな一歩はふみ出せるはずです。今の自分にはどんなことができますか。あなたの考えを具体的に述べなさい。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この恵泉女学園中学校の社会の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例
  • 戦争がおきている地域やそこでの子どもたちのくらしについて調べ、まわりの人に伝える。
  • ユニセフの活動を紹介するポスターを作り、学校内で募金をよびかける。
解説

戦争にまきこまれた子どもたちを助けることにつながる小さな一歩として、今の自分にはどんなことができるかを考えます。シリア、パレスチナなど、世界に目を向けると戦争や紛争が続いている地域がいくつもあります。こうした地域では、多くの子どもが命を落としたり、家を失ったり、飢えや病気に苦しんだりしています。また、兵士になっている子どももいます。解答は1つではありません。紛争地域の子どもたちの支援につながる行動として、今の自分にできそうなことを具体的にあげることができるかがカギになります。

日能研がこの問題を選んだ理由
本校は1929年、第一次世界大戦を経験したクリスチャン・河井道が、「広く世界に向かって心の開かれた女性を育てなければ戦争はなくならない」と考えて創立しました。……

恵泉女学園のホームページには、このように書かれています。「入試問題は学校から受験生へのメッセージ」とよく言われますが、この問題からは「世界の平和に関心を持ってほしい」「自ら行動をおこしてほしい」「命の尊さに目を向けてほしい」といった、建学の精神にもとづいたメッセージが感じられます。

この問題に対する唯一の正しい答えなどないことは明らかです。もちろん、まだ12歳ですから、国際政治の専門家が考えるような解決策を提示することは無理でしょう。しかし、12歳は12歳なりの発想でよいから、世界の平和のために、今の自分にどのようなことができるのかを考えてみてほしい、できることならば中学校に入ってからも考え続けてほしい、というのが恵泉女学園中学校の先生方のメッセージではないでしょうか。また、このような問いかけ方であれば受験生たちも、戦争という大きな問題を自分のこととして考えることができたのではないかと推察します。

未来に生きる子どもたちへのメッセージが明確であること、そして受験生の目線に立った問いかけであることから、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ぶことに致しました。

SDGs17のゴールとのつながりについて

  • 18 SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS
  • 16 平和と公正をすべての人に

SDGs(持続可能な開発目標)の目標16「持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する」で掲げられる平和で包摂的な社会とは対極にあるのが戦争。この入試問題に登場する「子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)」は、子どもの基本的人権を国際的に保障するために定められた条約です。その第38条では、戦争に巻き込まれてしまった子どもの保護について書かれています。

問題文にあるように、子ども一人の力で直接戦争を止めることはできませんが、「子どもを守る」について主体的に考えることで、平和な世界の実現に関与することはできそうです。「貧困」「教育」「健康」「食糧」……戦争によってもたらされるもの、損なわれるものについても考えを広げていくと、他の目標につながる行動について考えることもできるかもしれません。

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日能研は、SDGs をツールとして使い、私学の活動と入試問題に光を当てた冊子をつくりました。
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