シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

渋谷教育学園渋谷中学校

2018年05月掲載

渋谷教育学園渋谷中学校【算数】

2018年 渋谷教育学園渋谷中学校入試問題より

渋男君は、算数のテストでクラスの上位半分に入ったら、ごほうびをもらう約束をお母さんとしました。テストが終わり返却されたところ、渋男君はクラスの平均点よりも低い点数でした。
それを見たお母さんは「平均点よりも下だから、上位半分には絶対に入っていないわね。」と言いました。

(問)「平均点よりも下だから、上位半分には絶対に入っていない。」とは限りません。
その理由を、お母さんが納得するように説明しなさい。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この渋谷教育学園渋谷中学校の算数の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

クラスの人数が6人で、点数がそれぞれ100点、12点、11点、10点、10点、7点だとするよ。すると、平均点は25点になるから、12点の人は平均点よりも下なのに、第2位で、上位半分に入ることになるよ。

解説

普通、テストを行うと、平均点よりも高ければ、上位半分に入っていることがほとんどです。ところが、極端な場合を考えてみると、必ずしもそうとは限りません。

【極端な場合を考える】

例えば、「だれか1人だけが圧倒的に点数が高く、その他の人は“ドングリの背くらべ”のとき」を考えてみましょう。
ここでは、Aさん、Bさん、Cさん、Dさん、Eさん、Fさんの6人がテストを受けて、Aさんだけが100点を取り、残りの5人は、順に12点、11点、10点、10点、7点だったとします。
このときの平均点は、(100+12+11+10+10+7)÷6=25(点)になります。
この場合、上位半分に入っている人は、AさんとBさんとCさんですが、平均点よりも上だった人は、Aさんただ1人です。つまり、BさんとCさんは、「平均点よりも下なのに、上位半分に入っている人」となり、問題でお母さんが言っていた場合にはあてはまらないことがわかります。
このことを、下のように棒グラフに表してみました。グラフを見ながら「平均点よりも下なのに、上位半分に入っている」という状態が、どのような状態なのかをとらえてみましょう。

グラフ

【参考】

クラスで行ったテストの点数のように、多くのデータがあるとき、それらのデータが持つ特徴を表す値を代表値といいます。
代表値は、全体のデータをひとくくりに見て、真ん中ぐらいに位置するデータは、大体どれぐらいなのかをとらえるときに使われます。

よく知られている代表値には、次のようなものがあります。

  • 平均値
  • 最頻値(モード)
    データの中で、個数が一番多かった値のことです。上の例の場合、最頻値は「10点」です。
  • 中央値(メディアン)
    全データを大きい順に並べたときに、ちょうど真ん中になる値のことです。 上の例の場合、中央値は「11点」です。
日能研がこの問題を選んだ理由

平均点よりも下だから、上位半分には絶対に入っていない」というお母さんの発言は、一見、当たり前のように思われます。ところが実際は、「平均点よりも下なのに、上位半分に入る」ということがあり得るのです。

この問題から2つのメッセージが読み取れます。一つは、「当たり前を疑う」ということ。当たり前のように感じることでも、感覚ではなく、理屈を持って正しいか否かを判断することが大切だと、この問題は伝えてくれています。本当にどんな場合についても正しいといえることなのかどうかを、極端な場合を想定して突き詰めて考えることで、その真偽は明らかになってきます。

そして、もう一つは、どのように話せば、簡潔に説得力がある説明ができるのかを考えてほしいというメッセージです。問題文の設定では、「お母さんが納得するように説明しなさい。」とあります。「平均点よりも下だから、上位半分には絶対に入っていない」と考えているお母さんに伝えるには、どのような具体例を用いればよいか、一目瞭然の反例をどのように設定して提示すればよいかなど、伝えたいことは決まっていても、それをどれだけ明確に渡してあげることができるのかを考えるには、また別の頭を使うはずです。

この問題の答案からは、一人ひとりの受験生が持っている「わかりやすく伝える」ための様々な工夫や技術を見ることができたのではないでしょうか。

このような観点から、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ぶことに致しました。