シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

西武学園文理中学校

2018年03月掲載

西武学園文理中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.働く意義を考える哲学的な問題

インタビュー1/3

意思表示は二択でも、その理由はいろいろある

貴校では、2017年度入試から、最後に「解答が一つに決まらないような出題」が見られます。この問題は「働くか、働かないか」は二択ですが、その理由はいろいろな考えが予想されます。

田原先生 今の世の中の問題は正解が一つとは限らない、あるいは正解らしい正解がありません。変化のスピードが早く、多様で複雑な社会に生きていく子どもたちに、「正解は一つとは限らない」ことに気づいてもらいたいと思っています。
社会科の学びというのは、ふだんの生活と広く関わりがあることから枠にはめにくいのではないかと思います。地理・歴史・公民の分野にとらわれない考え方も試そうと思い、社会科内の“融合問題”として出題しました。

社会科/田原 友先生

社会科/田原 友先生

現代の課題を取り上げた「SDGs」に沿った問題

2018年度は「働く」ことについて、2017年度は「幸福度」について聞いています(日本は国内総生産が高いにもかかわらず、幸福度はそれほど高くないのはなぜか)。テーマはどのようなお考えで設けていますか。

田原先生 初めてだった2017年度は、確たる芯のようなものはまだありませんでした。2年目は作問の担当者間で話し合いを重ね、「SDGs(持続可能な開発目標)」に沿うようなテーマがふさわしいだろうという考えにまとまりました。

広く社会を見つめるときに、現代の課題を取り上げたSDGsは最適だろうと思いますし、分野にとらわれない考え方を問うこともできます。目標期限の2030年は、ちょうど受験生が社会に出るころだというのも出題にピッタリだと思いました。そこで、SDGsの8番目の目標「働きがいも経済成長も(成長・雇用)」に着目し、「働く」ことについて受験生の考えを聞きました。

またある教員から、「小学生の子どもをキッザニアに連れて行ったところ、いきいきと職業体験していた」という話を聞きました。なぜ働くのかというと、生活のためだけでなく、働くことに生きがいを見いだすなど、義務感だけではない理由もあるのではないでしょうか。ちょうど人工知能(AI)の発達によって不要になる職業が話題になっていましたから、改めて「働く」意味を問うのにいい機会ではないかと思いました。

西武学園文理中学校 正門

西武学園文理中学校 正門

「働く」解答が9割。でも、本音は?

受験生の解答状況はいかがでしたか。「働く」「働かない」どちらを選んでもよく、いろいろな理由があったのではないでしょうか。

田原先生 およそ9割が「働く」と答えていました。その中には、入試だから“優等生的な”答えを書いた方がよいと思って、「働かない」を選ぶのをためらった受験生がいたかもしれません。

「働かない理由」は似通っていて、「趣味や家族との団らんに時間を使えるから」というような解答がほとんどでした。
一方、「働く理由」はいろいろな解答がありました。たとえば、「働いて社会や人の役に立つことに生きがい(喜び、幸福感、価値)」を感じる」といった答えです。「働いて人と関わる中で、机上の学習では得られないことを学べて成長できる」というように、こちらの想定以上の答えもありました。小学生がここまで考えていることに感心しました。

この問題は結構自由に書けるので無答はないかなと思いましたが、何人かいました。最後の問題ですし、時間がなかったのかもしれません。全体の印象としては、前年度以上によく書いてくれました。

表現力としては、「てにをは」がおかしかったり、誤解を招きそうな記述もありましたが、この問題に関しては厳密には見ていません。採点は受験生の意図をできるだけくみ取るようにしています。
このような自由記述の問題では「考える」ことができているかを重視します。受験生は臆せず自分の考えを表現してほしいと思います。

西武学園文理中学校 掲示物

西武学園文理中学校 掲示物

「もらえる」前提が崩れるような解答は不正解

田原先生 「働く理由」として「ラクをしたい」という解答も散見されました。設問に「働かなくても生活するために十分なお金が国からもらえるとしたら」とありますから、「ラクをしたい」という解答は設問の条件を理解していないことになります。

この問題は、設問文を読んで意図を理解し、自分の考えを文章化する力を試しています。したがって、設問文の意図を読み取れていない解答は不正解になります。

前提が崩れる解答として多かったのは、「働くのは、お金をもらえる制度が、将来、経済が悪化してもらえなくなると困るから」です。「もらえる」ことが前提ですから、「もらえなくなるかもしれない」まで想定してしまったのは、設問文をきちんと読み取れなかったのかなと思いました。

今の当たり前は、これからも当たり前とは限らない

田原先生 働く理由として、「お金を稼いで生活するため」「社会人としての義務だから」というのは、これまで当たり前すぎて誰も疑いませんでした。これからは従来の価値観を疑う、考え直してみる必要に迫られるかもしれません。

最近では企業の採用選考にAIが使われ始め、面接にまで広がってきています。AIが面接官を務められるのかと、従来の面接を思うと首をかしげますが、今後は技術革新によって「当たり前」が覆っていくのかもしれません。そうした時代に生きていく子どもたちには、社会科の学びを通して当たり前を疑う姿勢を身につけさせたいですね。

受験のあとに塾に寄ってくれた子どもの話では、「働くか、働かないか、どちらにするか迷った」そうです。「働くのは当たり前」という常識が大きく変わるかもしれないというのは、子どもたちには大きなインパクトがあったと思います。
日能研ではこの問題に関連するSDGsとして、9番目の「産業と技術革新の基盤をつくろう(イノベーション)」も挙げています。

西武学園文理中学校 制服のミニチュア

西武学園文理中学校 制服のミニチュア

インタビュー1/3

西武学園文理中学校
西武学園文理中学校栄養士、臨床検査技師などの専門学校を系列にもつ西武学園が1981(昭和56)年に高等学校を開設。93(平成5)年には満を持して中学校を開設。短期間で東大などの難関大学に合格者を輩出するほどの進学校として成長してきた。2004(平成16)年には小学校も開校。緑あふれる武蔵野の台地、入間川のほとりの恵まれた自然環境のなかに、レンガタイル貼りの校舎が建つ。中学校校舎は「銀河館」、高等学校校舎は「大志館」「希望館」「躍動館」など、建物ごとに名称がついている。多目的ホール、総合学習センター、情報館(I・I・YOU館)、LL教室など施設は充実している。キャンパスのあちこちに彫刻作品が飾られている。「誠実・信頼・奉仕」を校訓とし、中高一貫教育をとおして、全員が目標とする大学に進学することができるような教育を行うとともに、“世界を見つめ、人を想い、未来を創る”ための、6年間のさまざまな出会いやプログラムを通じて、不確実な未来社会をたくましくしなやかに生き抜く人材を育成する。シンボルマークは熊(BEAR)で、これには英語の「耐える」という意味も込められている。
2021年度から、中学1年生のクラス編成が変更となった。将来、東京大学や京都大学、国公立大学医学部などの難関大学への現役進学を希望する生徒を対象としたグローバル選抜クラスと、高度な英語力と知的土台をベースに、グローバルシチズンシップを備えたグローバル人材の育成をめざし、多彩な進路を希望する生徒に合わせた、きめ細かい指導を行う、グローバルクラスの2つのクラスから編成されている。また、朝のSHR前の時間を利用した確認小テスト(S時限)、理科実験の2人1組での指導など、密度の濃い授業で生徒の向学心を引き出している。基礎学力の定着に英検・漢検などを活用している。
高校進学については、2021年度から内部進学者は高校進学時に高校入学生との混成クラス編成がスタート。新たな人間関係の中で切磋琢磨し合える環境を構築し、将来社会で求められる協働力の育成と新たな価値観の発見、創造を可能とするため、高校の全クラスにおいて、高校入学生との混成クラスを編成している。また、内部進学者は高等学校進学時には希望や成績等により「グローバル選抜クラス(普通科)」、「グローバルクラス(普通科)」、「先端サイエンスクラス(理数科)」のいずれかのクラスに進学。そして、混成クラス編成にともない、数学・英語の授業では習熟度別授業を展開。中高一貫生と高校入学生の入学時の学習進度が異なるため、生徒個々に合わせたきめ細かな学習指導を実施している。
令和3年度より中学校、高等学校共に新たなグローバル教育プログラムをスタート。その一つが「GLOBAL COMPETENCE PROGRAM」だ。タブレットパソコンを利用するこの授業は、全て英語で行われる。予習・授業・振り返りのサイクルの中で、コミュニケーション手段としての実用的な語学力、異文化を理解する幅広い知識・教養、多角的な視点に基づいた高度な思考力、相手の考えを受け入れ相互に伝え合う力やホスピタリティの精神、世界をリードするグローバルな行動力の6つのコンピテンスを身につける。
また、中学校3年生でイタリア研修旅行、高校2年生でも海外研修旅行(グローバル選抜クラスとグローバルクラスはオーストラリアまたはマレーシア・シンガポールの選択、先端サイエンスクラスはアメリカ)を実施し、2度の海外研修を通じて、日本とは異なる言語、歴史、習慣などの文化の違いを肌で感じ、地球規模で物事を考えることが出来るような視野を養っている。
その他、中2のグローバルクラスではセブ島語学研修を行い、高1でネイティブスピーカーと寝食を共にするイングリッシュ・サマーキャンプなどメニューが多彩。また、中2では古都鎌倉を散策するほか、奈良・京都研修旅行を実施する。一方中学校のクラブ活動は、他校には少ないクラブ活動も盛んで、文化系では奇術研究部が“南京玉すだれ”などの古典芸能に挑戦するのをはじめ、体育系のライフル射撃部も活発に行われている。また、全国大会出場のスキー部や硬式テニス部、県大会出場の女子バレーボールも目覚ましい活躍をしている。毎週土曜日には、探究授業の一環として行われる、生徒の自主性や創造性を育むアクティブ・ラーニングとして、CA「Creative Activity創造的活動」授業(50分)を開講。中学1年生から3年生が各CAに混在するため、学年の枠を超え、お互いに協力しながら自主的に活動し、課題解決のための資質や能力を育みます。20講座の中から1講座を選択し、必修授業として1年かけて探究活動に取り組んでいる。