シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

逗子開成中学校

2018年01月掲載

逗子開成中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.家庭科などの実技教科も疎かにしない

インタビュー1/3

実技で習得したことは主要教科の学びにもつながる

「技術・家庭科」という実技教科名が中学入試の設問中に登場したのは非常に珍しいです。

高田先生 男女別カリキュラムだった家庭科が、1993年より中学で、その翌年に高校で男女共修となり20年が経過したことに関連して、ある私立一貫校の家庭科の授業の新聞記事を読んだのが、作問のきっかけです。
一般に、受験に直結しない「実技4教科(副教科)」は二の次にしがちです。けれど、実技でバランスよく頭も体も鍛えることで、主要5教科にもプラスにはたらくのではないかと思います。2017年度第1次入試のリード文のテーマ「和食」を通して、家庭科など実技教科の重要性を伝えるチャンスだと思いました。実技教科も教科の枠を超えて主要教科と根底でつながっていることを伝えたいと思い、この問題を作りました。

社会科/高田 知美 先生

社会科/高田 知美 先生

社会環境に関心を寄せている姿勢がうかがえた

この問題の採点基準を教えていただけますか。

小和田先生 資料A・Bどちらの資料も踏まえていること、「男女ともに」という点に触れていることです。
得点率は悪くはなかったと思います。完答率は20%超でしたが、もう少し完答できてもよかったかなとも思います。この問題は最後から2番目の問題だったので、全体の時間配分も関係したかもしれません。部分点に留まった解答は、片方の資料だけの解答が多かったと思います。

高田先生 ひとりでも生きていくなど、「自立」を表すワードを挙げて説明してほしかったところです。完答できた受験生は、その点を指摘できていました。

小和田先生 受験生の75%程度は部分点が付いたので、資料の読み取りはある程度できていたと思います。昨今の社会環境に関心を寄せている姿勢がうかがえました。

「女性」に焦点を当てた解答が思いのほか見られた

小和田先生 印象に残っているのは、〈資料A〉から、「女性」にスポットを当てた解答が思いのほかあったことです。例えば、「今まで女性は専業主婦として家事を担ってきた。現在は女性の就業者数や共働き世帯数が増えているので、家事負担は男女に関係ない」といった解答です。

高田先生 〈資料A〉の方が、「男女共同参画」など学習したことと結びつけて、取り組みやすかったかもしれません。

片山先生 あるいは、「入試では『女性の社会進出』について聞かれる」という“刷り込み”の影響もあったかもしれませんね。

貴校は男子校ですから、〈資料B〉の男性の生涯未婚率の高さに注目して、自分の将来を想像したような解答があったのではないかと想像したのですが、いかがでしたか。

小和田先生 〈資料B〉についても女性にスポットを当てていて、「これからは家事を学校で学ばなければならない」という結論に持っていった解答が結構ありました。この点もちょっと予想外でした。

逗子開成中学校 校舎

逗子開成中学校 校舎

小学生の文章記述は読み手に伝わればOK

社会科の記述力として、受験生にはどの程度の力を求めていらっしゃいますか。

小和田先生 主語と述語のねじれなく、日本語の文章として成立していること。拙い表現でも読み手に考えが伝われば十分です。この問題の場合は文章中の多少の誤字は大目に見ています。
論述にも時間をかけられるように問題数を減らしたこともあって、文章記述は何かしら書いてくれるようになりました。資料の読み取りや筋道を立てて説明できる力など、本当に見たい受験生の力を測れるようになってきています。

物事の本質を見抜く実学のススメ

高田先生 家庭科を「生活全般の学び」ととらえると、経済活動など社会科と重なる部分があります。実技教科を通して、よりよく生きる術を身につけることができれば、主要教科で学んだ知識も「生きた知識」として活用できるのではないでしょうか。

小和田先生 倫理の授業で、「プラグマティズムの哲学」を学んだときのことです。生徒に、「君たちが考える知識とは何か」というテーマでいくつかの命題を掲げ、それが「知識」といえるかどうかを判断してもらい、その理由を述べてもらいました。

その命題の一つとして「おいしいパウンドケーキの作り方」をあげて、わざとありえない分量を提示しました。「パウンドケーキは、薄力粉100g、バター100g、卵100g、砂糖100gをほどよく混ぜて焼くとおいしくできる」という命題です。日常生活に役立つ情報が知識だと考える生徒は、この命題を知識だという一方、人によって役に立つ立たないが違うような情報は知識とはいえないと、知識のとらえ方は真っ二つに分かれました。
「役に立つかどうか」など、知識のとらえ方は真っ二つに分かれました。けれど、分量がおかしいことには誰も気づきませんでした。「これではおいしくできないよ」と言っても、生徒は「そうなんだ」という反応でした。
その点では「プラグマティズムの哲学」を実践できたわけですが、表面的に字面を追うのではなく、物事の本質を見抜く目を養うには、実学と結びつけることも大切だと感じました。

逗子開成中学校 図書館

逗子開成中学校 図書館

インタビュー1/3

逗子開成中学校
逗子開成中学校1903(明治36)年創立の神奈川県下最古参の男子私立中学校。東京の開成中の分校「第二開成中」として設立されたが、ほどなく独立。中学募集は一時中断したが、86(昭和61)年再開。近年の目覚ましい学校改革の試みは、バランスのとれた学校像の確立を目指すものとして注目されている。2003年(平成15)年に創立100周年を迎えた。
建学の精神『開物成務』にのっとり、「真理を探究し、目標を定め、責務を果たす」ことのできる人材の育成が教育の目標。レベルの高い学問を修めさせると同時に、独自の海洋教育や映像教育、コンピュータ教育等を駆使し、国際社会で活躍すべく、単なる進学校にとどまらない21世紀の新しい教育の創造を目指している。
逗子海岸に臨む校地には、ヨット工作室や宿泊施設もある海洋教育センター、本格的映写機と音響システムを備えた徳間記念ホール、コンピュータ棟やセミナーハウス、研修センターなどの充実した各施設が並ぶ。自習室も完備している。教育環境を見事に整備し、高い塀を廃した開放的な発想から、世界にはばたく人材が育っていく。
逗子開成の授業には演習が多く取り入れられている。問題を解く力や表現する力を、すべての教科・科目で身につけ、バランスのとれた基礎学力を育成している。学年によって教科、レベルは異なるが、習熟度別授業を実施。補習だけでなく、通常授業の効果をさらに上げる「特習」もある。中3から選抜クラスが新設され、学年ごとに入れ替えがある。高2からは文系・理系にコース分けをする。土曜日には各種講座や行事を実施するが、教師、保護者、生徒の好奇心がぶつかり合う土曜講座は進学・世界・体験・達成・地域の5分野100講座以上とバラエティ豊か。
中1の時にヨットを製作するのは有名で、中3までの全員が逗子湾で帆走実習を行う。海洋教育と並び映像教育をも柱とする同校では、年5回映画鑑賞会が行われており、学校にいながらにして名作を鑑賞できる。中3では全員がニュージーランドに。高2の研究旅行はマレーシア・ベトナム・韓国・沖縄・オーストラリアのコース選択制で実施。中2~高2の希望者にはフィリピンセブ島の英語集中研修、1週間のエンパワーメントプログラムのアメリカ研修、3ヶ月間の短期交換留学、1年間の海外長期留学がある。また、中1・中2では、校内における異文化英語プログラムなどがあり、語学以外に様々な体験ができる。奉仕活動にも熱心。