シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

逗子開成中学校

2018年01月掲載

逗子開成中学校【社会】

2017年 逗子開成中学校入試問題より

(問)中学校の技術・家庭科の授業では調理・食文化だけでなく、衣食住を含め生活全般について学習します。
男女ともに技術・家庭科を学習する背景を、次の〈資料A〉と〈資料B〉をふまえて答えなさい。

〈資料A〉

女性就業者数の推移
人数(万人)
1980年 2142
1985年 2304
1990年 2536
1995年 2614
2000年 2629
2005年 2634
2010年 2656
2015年 2754

総務省統計局「就業状態の動向」より作成

グラフ:共働き世帯数の推移

〈資料B〉

単身世帯数の推移と一般世帯に占める単身世帯の割合の推移
  1980年 1990年 2000年 2010年 2020年 2030年
単身世帯(単位:1000) 7105 9390 12911 16785 18270 18718
一般世帯に占める単身
世帯の割合(単位:%)
19.8 23.1 27.6 32.4 34.4 36.5
  • 世帯とは、ひとつの家族として独立して暮らしている人々の集まりのことをいいます。
  • 2020年と2030年については将来推計
生涯未婚率(%)
 
1980年 2.60 4.45
1990年 5.57 4.33
1995年 8.99 5.10
2000年 12.57 5.82
2005年 15.96 7.25
2010年 20.14 10.61
  • 生涯未婚率は45~49歳と50~54歳未婚率の平均値で、50歳時の未婚率を示しています

『日本国勢図会 2016/17』(公益財団法人矢野恒太記念会)より作成

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この逗子開成中学校の社会の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

女性の就業者数や共働き世帯数が増加し、衣食住をふくめた生活全般において、男女が協力するようになってきたから。さらに、単身世帯の割合や未婚率の上昇によって、ひとりでも自立して生活していくことが求められているから。

解説

問題には、中学校の技術・家庭科では「衣食住を含めた生活全般について学習する」ということが、情報としてしめされています。その上で男女ともに技術・家庭科を学習する背景を答える問題です。<資料A>と<資料B>をふまえて答えなさいとあるので、まずはそれぞれの資料から何が読み取れるのかを整理し、読み取れた内容をもりこんだ解答を作成することがポイントになります。<資料A>からは、女性の就業者数と共働き世帯数の増加が、<資料B>からは、単身世帯の割合や生涯未婚率の上昇が読み取れます。これらのことから、衣食住に関する知識が男女ともに必要であり、共に生活する場合も、協力して生活を営んでいくことが求められているといえるでしょう。

日能研がこの問題を選んだ理由

女性の社会進出や共働き世帯の増加、未婚率上昇などに関する問いは、中学入試の社会科では決してめずらしくありません。しかし、たいていの場合、社会保障制度や人権といった単元とのつながりで問われることが多く、今回のような「教科」とのつながりで問う問題は新鮮でした。

またこの問題は、知識の有無ではなく、「複数のデータを調査し、そこからわかる情報を統合し、変化の背景を探る力」が求められます。こうした力は、これから中高の6年間、さらには高等教育で学んでいくとき、社会科学・自然科学のどちらの分野でも重要です。そうした意味で、将来にわたって必要になるものの見方や考え方を、入試問題を通して、示してくれているともいえそうです。

受験当日この問題に接した受験生たちは、自分たちが技術・家庭科を学ぶすがたをイメージしながら、記述に取り組んだのではないでしょうか。男子校なので、受験生は全員男子なわけですが、生涯未婚率が男性の方が高いというデータをどう感じたのでしょうか。どのように受け止めたにせよ、他人事ではなく「自分のこと」としてとらえ、今後を考えるきっかけになったのではないかと推測できます。

社会科学を学ぶ上で重要なものの見方・考え方を問うている点、受験生が「自分のこと」として考えるきっかけを提供しているという点、それが今後の日本や世界の未来につながっているという点から、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ぶことにしました。

SDGs17のゴールとのつながりについて

  • 18 SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS
  • 4 質の高い教育をみんなに
  • 5 ジェンダー平等を実現しよう

「技術科は男子が学ぶもの」「家庭科は女子が学ぶもの」——過去の学校教育の中では、そんな考え方が当たり前だった時代がありました。もちろん、授業も男女別々でした。背景には、“男性は外で仕事、女性は家事と育児”といった根強い考え方がもとになって、当時の社会構造や生活環境が成り立っていたことがあるのかもしれません。しかし、目標5「ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」ことは、予測不可能な未知の課題を解決し、持続可能な社会をつくっていくために必要不可欠な視点のひとつになるでしょう。

この問題の資料からは、現代のリアルな世の中の変化を読み取ることができます。そんな変化の中を生きていく子ども達に向けて、「男女ともに技術・家庭科を学習する背景と意味について、あなたはどう考えますか?そしてどのように行動していきますか?」というメッセージが伝わってきます。性別や人種、その人を取り巻く環境によって分けずに、すべての人々に、質の高い教育を——目標4「すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」ことが、激しく変化し続け、予測困難な未来においても、豊かに生きるチカラを育てるのでしょう。

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日能研は、SDGs をツールとして使い、私学の活動と入試問題に光を当てた冊子をつくりました。
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