シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

桐朋中学校

2018年01月掲載

桐朋中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.桐朋の校舎には生徒が自由に使えるホールやスペースが多数。自ら興味をもって主体的に学ぼう。

インタビュー3/3

授業では興味づけを重視

授業の中で工夫していることはありますか。

千馬先生 この機械は二進法の足し算を行う時に使うものです。桁の切り替えができまして、1+1が10になります。授業にこの機械を持ち込むと、それだけで興味をもってくれます。電池をたくさん消費するところも、おもしろいところの1つです。

それは手作りですか?

千馬先生 そうなんです。配線が大変で3ヶ月かかりました。しかも後ろは(配線がこんがらがって)スパゲッティ状態になっています。電磁リレー(電磁力で接点を動作させ、電気信号を伝達する電気制御機器)が切り替えの時にカチャッといい音がするので、それがいいんですよね。教科書の例題の3桁+3桁の問題をこの機械を使って解いています。ただ、例題はこれで解けるのですが、問題は5桁なので、この機械では解けないんです(苦笑)。

桐朋中学校 千馬先生手作りの計算機

桐朋中学校 千馬先生手作りの計算機

情報は1と0だけで表現できる

なぜ、そのような機械を作ろうと思ったのですか。

千馬先生 電子工作が好きだからです。情報は1と0だけで表現できるので、僕のように大学で物理や工学などを専攻していない者でも数式で記述し、物理的に回路を作ることができるのです。こうしたコンピュータの基礎を考えたのは、クロード・エルウッド・シャノンさんという方です。この方の論文などを見ながら、設計図を書くところから始めて、趣味の範囲内で作ってみました。こうした数式が回路に対応するというのが非常におもしろいと思ったので、興味をもちそうな生徒がいれば紹介しています。

手回し計算機も生徒の興味を引く道具の1つ

千馬先生 これは手回し計算機です。手回し計算機といえばタイガー計算機です。桐朋にも1つありますが、自分専用のものが欲しくてネットオークションで買いました。1950年くらいのものだと思います。1回回すとその数が加算されます。他の数字を足すこともできます。桁の移動もできるので、1回回しただけで10回回った状態にもできます。こういうものを教室に持っていくと生徒が興味を示すので、数学に少しでも興味をもってもらおうということでやっています。

この機械の動力はなんですか。

千馬先生 歯車です。電気を一切使ってないので、どんな構造になっているかを考えるだけでも自由研究になると思います。

桐朋中学校 手回し計算機

桐朋中学校 手回し計算機

わかりやすく教えることを大事にしている

千馬先生 今年度の自由研究で加算機の改良のようなものをテーマに研究した子がいました。私は今、中学生を担当していないのですが、そういう作品があると私のところにまわってきます。
カラーボールなども使っています。例えば赤玉や青玉がいくつかある時に、「どういう時に区別して、どういう時に区別しないのですか」というような質問をよくされます。基本的に区別して考えるほうが楽なので、「頭の中で赤玉には赤玉の番号を、青玉には青玉の番号を振ったほうがいいよ」とわかりやすく伝えています。
本校には数学が得意な生徒は多いのですが、中にはコインを2枚投げた時に、「表・表と、表・裏と、裏・裏だから確率は3分の1」と考える子がいます。段階別の授業をやっていて、基礎クラスの子たちにいかにわかりやすく教えるかということが、私たち教員のテーマです。

数学ができる友だちに刺激された高校時代

毎年、何人かは数学の道へ進むのでしょうか。

矢島先生 この頃、数学メインの学部が減ったこともあり、千馬先生のような人はあまり育ってくれません。数学が趣味になってしまうのは残念です。理系の上位層は医学部を志望する子が多いです。数学オリンピックに出ているような生徒も医学部に進学します。

千馬先生 僕が数学の道に進んだきっかけは、村野先生が放課後に行っている数学の「特別講座」でした。特別講座は自分が発見したことを発表するような講座で今もあります。当時、参加者は5人くらいでした。数学を勉強するにはちょうどいい人数で楽しかったです。僕の代にも数学オリンピックに出ているような、すごく数学ができる子がいて、高1の時に彼が整数論に関しての発表をしたのですが、半分くらいしかわかりませんでした。高1の時のプリントが取ってあって、高3の時に振り返ると、ようやくそこで内容が理解できました。それが数学に進むきっかけになったと思います。

桐朋中学校 図書館

桐朋中学校 図書館

基礎知識がなくても解ける過去問に挑戦してみよう

算数を楽しく学習する方法があれば教えてください。

千馬先生 好きでやることは長続きすると思うので、自分がおもしろいと思う問題に取り組むといいと思います。学習へのモチベーションを高めるには、解けたらいいなと思える、少しレベルが高い問題を見つけることです。入試問題にはおもしろい問題がたくさんあります。特に基礎知識がなくても解ける、今回のような問題はいいと思います。一方で、基礎体力をつけることも大切です。計算練習は繰り返し行ってほしいです。

矢島先生 こういう問題を解きながら、算数のおもしろさを感じていって、いずれ算数や数学が好きになってくれればうれしいです。解く技術を覚えて、問題に当てはめるという学習の仕方はつまらないですよね。まずは地道に考えて、「へぇー」と思えた時に技術を習得できると思うので、自分で考えるということを大切に勉強してほしいと思います。

インタビュー3/3

桐朋中学校
桐朋中学校1941(昭和16)年、財団法人・山水育英会(山下汽船社長の山下亀三郎の基金を基に設立)を母体に第一山水中学校を創立。戦後、山水育英会を解散して桐朋学園を組織、47年桐朋第一中学校とする。翌年に高校が発足し、桐朋中・高等学校と改称した。現在は同じ敷地に小学校から高校までがある。
一人ひとりの生徒を、豊かな心と高い知性をもつ創造的人間として育成することに力を注いでいる。真に有為な良き社会人になるために、地球的視野に立ち、自立した人間として、自己を生かすとともに他者を生かす、このような人間形成を目指しているのが21世紀の桐朋教育。よって教育目標は、「自主的態度を養う。他人を敬愛する。勤労を愛好する」である。
一橋大学を中心とした国立の文教地区にある。自然林の緑に囲まれた2万3千坪の敷地に、2016年、新校舎が完成した。本物に触れるための天文ドーム、各種実験室、プラネタリウム等の専門用途の施設が充実している。6万5千冊の蔵書をもつ図書館は、DVD500本も揃え、生徒の利用頻度が高い。総合体育館は、種目に合った床ダンパーにより運動ストレスからの障害を予防する配慮がされ、視聴覚設備の整った保健教室も備えている。
オリジナル教材やプリントを使いながら系統的に理解し、思考力と表現力を伸ばす指導が特徴。英語は『ニュートレジャー』を使う。英語は外国人教師による会話練習や海外とのEメール交換、理科は実験・観察、社会は社会科見学などで理解を深めている。選択制の段階別授業は高校の英語総合、数学などで実施。中1から、夏休みや平常時に指名制補習もある。テーマ選びから始める夏休みの自由研究も大きな成果を上げている。高校からの入学生とは高1で混合。高2からも文系・理系のクラス分けはぜず、選択科目で自分に合った学習をする。
「行事は生徒が創る」という方針で、修学旅行、遠足、運動会、学園祭など多くが生徒の企画・運営で行われている。自主性尊重は進路指導にも生かされ、在卒懇と呼ばれる懇談会で、卒業生に仕事選択の動機などを聞く。高2の在卒懇では大学で教鞭を執る先輩から学部の内容やその選定のアドバイスを聞き、高3での大学選択につなげる。クラブ活動も盛んで中学生は9割以上の生徒が加入。サッカー、バスケットボール部などの活躍は有名。特にサッカー部・バスケットボール部は中高とも都内トップレベル。陸上競技、野球、オリエンテーリング、囲碁・将棋なども優秀な成績を収めている。高校は制服なし。