シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

頌栄女子学院中学校

2017年12月掲載

頌栄女子学院中学校【国語】

2017年 頌栄女子学院中学校入試問題より

次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。(問題文の一部を書き改めてあります。)

(略)

「質問をしないうちは帰らない」と心に決めて、あるシンポジウムに参加しました。基調講演に耳を傾(かたむ)ける余裕(よゆう)もなく、質疑応答に入るのを今か、今かと待っているうちに、ようやく質疑応答になり、意を決してぱっと手をあげると、演壇上(えんだんじょう)の講演者から指名され、それと同時に案内係の女性が飛んできてマイクを私の前に差し出しました。

ところが席を立ちマイクを手にしたその瞬間(しゅんかん)、それまで考えていた質問が頭の中からすべて吹(ふ)っ飛(と)んでしまったのです。結局、何も言えずじまいで着席しました。

「ああ、大恥(おおはじ)をかいてしまった。周りの人達(ひとたち)はさぞかし僕(ぼく)のことを冷笑(れいしょう)しているだろうな」と思いましたが、周囲にはざわめきすら起こらず、マイクを手渡(てわた)す係の女性はさっさと別の質問者のほうに飛んでいきました。

「そうか、思っていたほど聴衆(ちょうしゅう)は他人のことなど気にしていないんだな。ましてや、こちらの失敗をあざ笑っている暇(ひま)はない。世間の目や他人の思惑(おもわく)を気にする必要なんかないんだ」と気づいた私は、それからは人前で失敗することを恐(おそ)れなくなりました。

もちろん、この事件の前までは、「人前で恥(はじ)をかくことは、できれば避(さ)けたい」という気持ちはありました。でも、「このままずっと避け続けていたら、自分は一生変われない」とも思ったのです。

こうしてその後も、「実践(じっせん)→失敗→挫折(ざせつ)→反省→新たな実践→新たな失敗→新たな挫折」を繰(く)り返(かえ)していくうちに、少しずつ公の場で発言できるようになっていきました。

(略)

勇気を出して手をあげて質問すれば、必ずきちんと答えてくれる。つまり、その質問をする前に比べると、あなたは新しい何かを手に入れているわけです。

(略)

(今北純一『自分力を高める』<岩波書店>より)

(問)傍線部「新しい何かを手に入れている」とありますが、問題文の筆者のように、「失敗」をおそれず続けていくうちに、自分の中(内面)に良い変化が起こったという経験について、具体例をあげて自由に作文して下さい。そのような経験がどうしても自分自身に思い当たらなければ、人から聞いた話、本で読んだ話などを書いてもかまいません。
作文はできるだけ漢字も用い、正しくていねいな文字で書いて下さい。また、「です」「ます」で結ばなくてもかまいません。評価は、内容と表現の両面から行います。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この頌栄女子学院中学校の国語の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

ピアノがうまく弾けなくて何度もくり返し練習していたら、指の運び方や指を使う順番によって弾きやすさが変わることに気付いた。それからは、やみくもに弾くのではなく、どんな指づかいだと指先に負担がかからないかを考えたり音の強弱を変えたりしながら、こうするとどうなるだろうと確かめるような練習をするようになった。

はじめはうまく弾けないことが「失敗」に思えてがっかりしたが、くり返し練習するうちに、弾き方によって変わるメロディに興味が芽生えてきた。そして、ピアノがもっとうまく弾けるようになりたいという気持ちや、次はこんな曲を弾いてみたいという欲も出てきて、自分のピアノに対する世界を広げることができた。

解説

この問題は、自分自身の過去の経験や人から聞いた話、本で読んだ話などを例に挙げながら意見をまとめていく自由記述です。設問に書かれていた、「『失敗』をおそれず続けていくうちに、自分の中(内面)に良い変化が起こったという経験」を記述することが求められています。今までの自分の生活をふり返り、それを答えの中に盛り込みながら「失敗」がもたらした良い側面をまとめていきましょう。

日能研がこの問題を選んだ理由

問いでは、「『失敗』をおそれず続けていくうちに、自分の中(内面)に良い変化が起こったという経験について、具体例をあげて自由に作文して下さい」と書かれています。

「失敗」は、しない方がいいと思われがちです。しかし、この文章では「失敗」をおそれず続けていくうちに「新しい何かを手に入れた」筆者自身の体験が書かれています。ですから、この問題に取り組むときには、自分自身の過去の経験や人から聞いた話、本で読んだ話などを思い浮かべながら、「失敗」に対する自分の考えを結び付け、「失敗」が良い効果をもたらしたという事例を言葉にしていく必要があります。

自分自身の経験と物事を結び付けて考える力は、知識どうしをつなげることはもちろん、身の回りにある様々なことがらどうしをつなげ、新しい視点で物事をとらえるきっかけとなります。そして、今回、「失敗」がもたらした良い側面を考え、言葉に表すことは、子ども自身が日々の暮らしの中でも活かすことのできる考え方にふれることでもあります。

今後、子どもたちが生きていくうえでも大切なのは、「学び続ける力」を持つことです。筆者の言葉を借りれば「失敗をおそれず、失敗を味方にして、チャレンジし続ける力」です。この問題は、子どもたちが「失敗」を見つめ直すきっかけになるだけでなく、子どもたちへのエールにもなっている点に魅力を感じました。

このような理由から、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ぶことに致しました。