シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

駒場東邦中学校

2017年11月掲載

駒場東邦中学校【算数】

2017年 駒場東邦中学校入試問題より

(問)今まで算数を学んできた中で、実生活において算数の考え方が活かされて感動したり、面白いと感じた出来事について簡潔に説明しなさい。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この駒場東邦中学校の算数の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例
  • マンホールのふたの形を円にするのは、下に落ちないようにするため。
  • 2進法の考え方を使って、両手の指だけで0から1023までの整数をすべて表せること。
  • グラウンドに大きな直角を作りたいとき、30m、40m、50mが3辺となるような三角形をロープで作ることによってできること。
解説

数学が科学技術のベースとなっていることは言うまでもありません。そして、その数学も、源流をたどれば算数の世界に行き着きます。このことからも、世の中で便利だと思われる事柄のほとんどは、算数がベースとなって成り立っていることと言ってもよいかもしれません。ですから、たとえば、この問題に対し、「切符を買わずしてカードをタッチするだけで電車に乗れる。」「電話を使って遠く離れた人と話をすることができる。」などと答えても、おそらくそれらは、もとをたどると「算数の考え方」のおかげと言えるでしょう。

しかし、これらのような内容では、算数の何がどのように実生活に活かされているのかを述べたことにはなりません。算数で学んできたコンテンツそのものの性質が利用されている事柄をさがして、記述する必要があります。

(解答例1)マンホールのふたの形を円にするのは、下に落ちないようにするため。
図のように、ふたの形が円以外の形をしていると、向きによっては下に落ちてしまうことがあります。円は、どの方向から見ても幅が一定であるという性質が利用されています。

図

(解答例2)2進法の考え方を使うと、両手の指だけで0から1023までの整数をすべて表せること。
両手の10本の指の曲げ方は全部で何通りあるのかを考えてみます。
それぞれの指1本1本について、「曲げる」か「伸ばす」かの2通りあるので、全部で2×2×2×2×2×2×2×2×2×2=1024(通り)考えられます。つまり、たった10本の指で1024通りもの指の曲げ方があるのです。
このことから、例えば「指を曲げた状態」を0、「指を伸ばした状態」を1とすると、次のように「1024通りの指の曲げ方」一つひとつと「0から1023までの1024個の整数」とを1対1に対応させることができます。
(  )の中の10個の数は、(左小指、左薬指、左中指、左人差し指、左親指、右親指、右人差し指、右中指、右薬指、右子指)のようすを順に表したものです。

(0、0、0、0、0、0、0、0、0、0)……0
(0、0、0、0、0、0、0、0、0、1)……1
(0、0、0、0、0、0、0、0、1、0)……2
(0、0、0、0、0、0、0、0、1、1)……3
(0、0、0、0、0、0、0、1、0、0)……4
(0、0、0、0、0、0、0、1、0、1)……5
         :
         :
(1、1、1、1、1、1、1、1、0、0)……1020
(1、1、1、1、1、1、1、1、0、1)……1021
(1、1、1、1、1、1、1、1、1、0)……1022
(1、1、1、1、1、1、1、1、1、1)……1023
(解答例3)グラウンドに大きな直角を作りたいとき、30m、40m、50mが3辺となるような三角形をロープで作ることによってできること。
これは、3辺の長さの比が3:4:5の三角形は、必ず直角三角形になるという性質を利用しています。野球のダイヤモンドやサッカーのコートなど、グラウンドに直角を作図する場面で使われる方法です。

もちろん、これらの解答例以外にも、実生活において算数の考え方が活かされている例は、まだまだたくさん挙げることができるはずです。ぜひ、日常生活のいろいろな場面を思いうかべながら、算数の考え方が活かされている場面をさがしてみてください。

日能研がこの問題を選んだ理由

この問題は、算数に対する学び方の姿勢をダイレクトに問う問題と言えるでしょう。日常生活の中で、算数や数学で学ぶ事柄が使われている場面は、たくさんあります。駒場東邦中の受験生ならば、だれでもそのような事柄を多かれ少なかれ知っていることでしょう。しかし、この問題では、「感動したり、面白いと感じた出来事」とあるように、心が動いた体験を思い出して記述することが求められています。心が動くほどのネタは、普段から算数のすばらしさについて考えたり語っていたりしないと、なかなか出てこないものです。「算数は受験のためだけのもの」という考え方をしていれば、算数の問題を解くことには面白さを感じても、世の中との結びつきに面白さを感じる機会はあまりないのかも知れません。そのような受験生にとっては、この問題は思った以上にハードルが高くなるはずです。入試のためだけでなく、入試の先にある「算数(数学)を学ぶ意義とは?」そんな問いをダイレクトに、かつ、大胆に受験生にぶつけてきた駒場東邦中のこの問題に敬意を表し、日能研では、この問題を□○シリーズに選ぶことにいたしました。

SDGs17のゴールとのつながりについて

  • 18 SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS
  • 4 質の高い教育をみんなに

算数を学んできた中で、実生活において算数の考え方が活かされて感動したり、面白いと感じたりした出来事について、自由に記述する問題です。「これが算数の入試問題!?」と驚く人もいるかもしれません……。ただ問題を解くだけの受け身の学びではなく、驚きや喜び、楽しさや面白さを感じて、自らすすんでアタマもココロも動かす主体的な学び。「そんな授業を実践しているよ!」という学校からのメッセージが伝わってきませんか?目標4「すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」が目指す「質の高い学び」の本質がこの問題には込められていそうです。

私学とSDGsのつながりについて詳しくはこちらから

日能研は、SDGs をツールとして使い、私学の活動と入試問題に光を当てた冊子をつくりました。
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