シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

横浜雙葉中学校

2017年10月掲載

横浜雙葉中学校の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.ロボットや人工知能の知識がなくても答えられる問題にこだわった

インタビュー1/3

人工知能に関するトピックスが多く、今年出題したかった

まずはこの問題の出題意図から教えてください。

奥村先生 昨年は人工知能(AI)に関するトピックスが多く、将棋の対戦で人工知能がプロの棋士に勝ったニュースやロボット開発など、人工知能のこれからの可能性に心躍らせた受験生もいたことでしょう。また、塾でも時事問題として学んでいたと思います。横浜雙葉として人工知能に関する出題をするならば、「人工知能とどのように共存していくか」など自分のこととして考える姿勢、「生き方」をテーマに題材を選ぼうと思いました。その時に出会ったのが、この文章(『哲学者クロサキの哲学超入門』黒崎政男)の、「心とは何か」という観点から考察した部分でした。

国語科/奥村 夕里子先生

国語科/奥村 夕里子先生

人工知能とのかかわりを問える文章を選んだ

奥村先生 「人工知能とどのようにかかわっていくか」という切り口で設問がつくれる文章を選びました。また、知識を問う問題にはせず、「私はこんなことを考えたこともなかった」という抵抗感を少しでも軽減するため、この問題の問5で、ロボットに関する話題を中学生の会話という形で掲載しました。

<問5>
-----線②「ところが、人工知能の進展はめざましく、そろそろ私たちの手に届かないところまで進化していきそうです」とありますが、それについて五人の中学生が話し合っています。-----線②のテーマに関係のない話をしているものを、次のA~Eの中から一つ選んで記号で答えなさい。

<選択肢>
A「ねえねえ、ロボットが将棋(しょうぎ)でプロの棋士(きし)に勝ったというニュース、昨日テレビでやっていたけれども見た?」
B「見た!すごいね。研究所のスーパーコンピュータは、今まで人聞ができなかった計算ができるようになったらしいし、研究がどんどん進むね。」
C「東日本大震災(だいしんさい)の時には、災害用のレスキューロボットが、人間の行けないところにまで入って大活躍(だいかつやく)だったそうね。そういえば、うちのおばあちゃまの老人ホームにはペットロボットもいたわ。」
D「でも、ペットロボットは値段が高すぎて手が届かないから、ペットにするには犬のほうがいいな。」
E「確かにね。でも、エサ代がかからないから安いんじゃない?工場ではロボットの方がミスが少ないし、お金もかからないんですって。このままだと、人間の仕事はどんどんロボットに取られてしまうのかしら。」

奥村先生 震災のときにはレスキューロボットが活躍しました。介護ロボットの話にしても、機械の精度が上がっている話にしても、5人の会話を通してわかります。ロボットに関する知識が足りなかった受験生も、子どもたちの会話を通して「そういえばこんなことがあった」と、思い出せたのではないかと思います。

横浜雙葉中学校/図書館

横浜雙葉中学校/図書館

入学後も一緒に考えていきたいテーマだった

奥村先生 「人工知能(AI)と共に、よりよい社会を作っていきたいですね」ということが、問5や問9を通しての私たちのメッセージです。ただ、私たち設問者も、まだまだこの問題に対して答えを出せていません。現在進行形なので、この問題については確定的な正解を出せるとは思っていませんでした。
この問いにより人工知能やロボットに興味をもち、私たちにとって身近なものであることを知ってもらい、入学してからも私たちと一緒に継続的に考えてほしい。横浜雙葉はそういうスタンスであることを伝えたく、この問題をつくりました。

解答例2のような解答が多かった

奥村先生 3、4年前に、「シカクいアタマをマルくする。」で取り上げていただいた時は「あなたが大切にされた体験を書きましょう」という問題だったと思います。あの問題では受験生の経験を掘り起こして表現することを求めていましたが、この問題では少し角度を変えて、ある一定の情報を与えています。自分の経験を書くだけでなく、その情報を踏まえて考えることが必要とされる問題だったので、受験生にとっては少し難しい問題だったと思います。
解答については、日能研の解答例2のような解答が多かったです。私が解答用紙を見た印象では、生身の人間のコミュニケーションを大切にしたいなど、「生身」という言葉に代表される解答が圧倒的でした。
文中に「ロボットには心はない」という言葉が入っており、おそらく子どもたちは、それに影響されたのではないかと思います。

横浜雙葉中学校/図書館

横浜雙葉中学校/図書館

ロボットには心がない、という文章に影響されたか

奥村先生 印象に残った解答は、「人間だからこそできる人の心の奥底にあるものに寄り添うことを大切にしたい」というものです。おそらくペットロボットなどの記述から「ロボットは癒すことはできる」と考え、「ロボットは癒し。私はその奥に行きたい」と書く受験生もいました。あるいは、先ほど申し上げたように「ロボットには心がない」という文章に影響されて、「ロボットや人工知能に心はないと考えるので、幼稚園や学校の先生のように、子どもと触れ合って心を育む職業は人間がやらなければならない」というような解答もありました。

採点のポイントは主張と根拠の整合性

奥村先生 採点のポイントは主張と根拠の整合性だけでした。一つ間違うと、道徳観や価値観の問題になってしまいます。横浜雙葉といえば思いやり、友情、愛情……。そこに流れてしまうのは本意ではありませんでした。たしかにそういうテーマを大切にしている学校ですが、それを書けば点数が入るわけではありません。
機械対人間など、対立した解答もありましたが、そこに整合性があれば満点をあげました。「人間の限界を超えたものはロボットにやってもらうしかない」という解答もよいと思います。

白紙はありましたか。

奥村先生 白紙はないです。NHKスペシャルでもAIが取り上げられていました。新聞広告も全面で出ていたので、受験生は準備してきていたのではないでしょうか。
「ロボットと話すよりも友だちと話したい」、「そのほうが心が和む」などという子どもらしい答えもありました。そういうレベルでも一生懸命書いてくれているのでなんらかの点数は出しています。

横浜雙葉中学校/読書カード

横浜雙葉中学校/読書カード

インタビュー1/3

横浜雙葉中学校
横浜雙葉中学校1872(明治5)年、創始者である幼きイエス会(旧サンモール修道会)のマザー・マチルドが来日、横浜で教育活動を開始した。1900年に横浜紅蘭女学校を開校。その後、51(昭和26)年に雙葉、58年に横浜雙葉と校名を変更して現在に至る。2000(平成12)年には創立100周年を迎えた。
「徳においては純真に、義務においては堅実に」を校訓に、一人ひとりが自分を積極的に表現し、他の人と心を開いてかかわり、能力や資質を磨いて社会に役立てようとする「開かれた人」の育成を心がける。そのために「開かれた学校」を目指し、21世紀をたくましく生きるための知性と精神を伸ばす教育が行われている。
横浜港を見下ろす中区山手町のなかでも、最も異国情緒あふれる一角に位置する。隣接の修道院跡地に、聖堂・視聴覚室などを備えた高校校舎と特別教室があるが、03年には図書館やITワークショップなど、最新の情報技術やグローバル教育に対応した新校舎が完成。
45分×7時間授業で、主要教科は、男子の難関進学校なみに内容が濃く、進度が速い。特に英語はテキストの『プログレス』を軸に、中1から少人数の週6時間の授業や、外国人教師による英会話の授業など、非常に意欲的。数学は中1から数量と図形に分ける。中3から英・数は習熟度別編成となる。2期制なので、1年間は42週と公立中学の3学期制・35週より多い。定期テストは年4回だが、「小テスト」は随時各教科で行い、進度が遅れぎみの生徒には指名による補習も行う。高2から文系・理系に分かれ、幅広い選択制で進路に柔軟に対応。毎年東大に合格者を出すほか、難関私大にも多数の合格者を出している。医療系への進学者が多い。中3~高2の希望者にフランス語講座がある。
学校週5日制。年間を通じて朝の祈りやさまざまなミサ、講演会などといった宗教行事も多い。文化祭をはじめ多くの活動が、運営される生徒会を中心に計画される。クラブ活動は、文化部が20、運動部5のほか、聖歌隊、老人ホームなどでボランティアを行うTHE EYESという団体がある。テニス部、新聞部は全国大会にも出場する実績を誇る。しつけに厳しいといわれるが、教師たちは服装や持ち物検査は行わず、生徒たちが自分でけじめをつけて行動するよう求める。制服はジャンパースカート。02年から夏の準制服が登場。ブラウスは白と青、スカートは紺とチェックの2タイプずつで、組み合わせ自在。中3から高2の希望者が韓国、シンガポール、マレーシア、アメリカ、オーストラリアなどを訪れ交流するプログラムが続けられている。