シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

学習院女子中等科

2017年09月掲載

学習院女子中等科の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.自由意見で「今」の受験生の考えがみえる

インタビュー1/3

時事問題は自分のことに落とし込んで考える

先生 昨年、現職のアメリカ大統領が広島平和記念公園を訪れたニュースは、2017年のトピックとしてどの受験生も押さえていたと思います。このニュースを見聞きしたとき、「では、『核なき世界』を実現するにはどうすればいいだろう?」と一度でも考えた受験生は、この問題に取り組めるのではないかと期待して出題しました。

「核なき世界」については、小学校の「総合」の授業の中で一度は扱ったことがあるのではないでしょうか。核の問題はとても難しい問題ですが、小学生なりに自分自身に落とし込んで考えてほしいと思いました。
時事問題は、知っている、理解するだけでなく、問題意識を持って「自分ならどうするか」自分の問題として考えるようにしましょう。

F館

F館

「自分ならどうするか」自由意見を聞きやすいテーマ

貴校の入試問題は文章記述が多いですね(A試験の文章記述は5題)。でも、この問題のように自分の意見を自由に書かせるのはめずらしいと思いました。

先生 自由意見を書かせた記憶があるのは、20年くらい前の、第2次世界大戦に関連した問題くらいです。
今回はテーマに沿って作問した結果、自由意見になりました。受験生がどの程度記述できるか当初不安もありましたが、実際には期待を上回る内容の答案が見られました。
意見は人それぞれなので、自由意見は正答の許容範囲が広くなります。満点が6割に及んだのは予想通りでした。無答はほとんどありませんでした。

被爆経験の伝え方はいろいろな方法が出された

先生 受験生の解答は奇抜なものは少なかったです。
満点とした受験生の半数以上を占めたのが、解答例のような「世界で唯一の被爆国として、日本の体験を広く世界に伝える」という主旨の解答です。

伝え方にはバリエーションがありました。「海外の人に広島・長崎にもっと来てもらう」という観光が切り口の意見、「国連で発表する」など公の場を利用する意見もありました。新聞やテレビなど従来型のメディアを利用する意見だけでなく、インターネット等による発信もありました。映像や写真など視覚に訴えるアイデアの中には、「原爆の再現CG」のようにかなり具体的な見せ方を示した解答もありました。

中3修学旅行・まとめの壁新聞

中3修学旅行・まとめの壁新聞

国際会議や法律を駆使して平和的に話し合う

先生 次に多かった解決方法が、「G7(サミット)などの場で話し合う」というように、国際的な議論の場を利用したり、「各国の憲法に核保有禁止などの項目を盛り込む」など法律を用いる意見です。小学生でこの点に着目して説明できていたのには感心しました。「核保有国は国連の安全保障理事国になれないようにする」なども、公民の他の単元で勉強した知識を活用していることがわかります。

経済的優遇措置の“アメ玉”で釣る現実主義の意見も

先生 思いのほか多かったのが、経済活動に関連した解決策です。「核を持たない方が得をする」発想で、「核保有をやめた国は関税率を下げたり撤廃して、貿易上有利になる」といった優遇措置を講じます。
この意見の受験生は北朝鮮をイメージして書いたかもしれません。設問文に、「平和的な実現を目指す」とあるので、経済制裁というよりは、優遇措置というプラス効果の視点で書いています。

また、きれい事だけではうまくいかないから、“アメ玉”で釣るという現実的な視点を持っているのは、最近の受験生の特徴の1つかもしれません。
満点となった受験生の解答は、おおよそこの3つのパターンでした。話し合いや政策など政治的・経済的な手段で解決しようという受験生の考えが感じられました。

総合体育館

総合体育館

「宇宙に打ち上げる」解答は問題の意図を取り違えた

先生 「無人島に核兵器を集める」というように核兵器を1カ所に集める主旨の解答は、満点にはなりません。1カ所に集めて各国が勝手に使えないようにしようと考えたのでしょうが、集めるねらいや集めてどうするのかについて触れていませんでした。
満点にならない解答に、「宇宙に打ち上げる(捨てる)」という意見がありました。これは「目に見えないところへ持っていけばいい」というニュアンスが感じられます。この意見の受験生は、問題の意図が「核廃棄物をどうするか」にすり替わってしまったのではないかと思います。この問題では、いろいろな理由で核を持っている国が核兵器を自ら手放すアイデアを聞いています。

教室

教室

抽象的すぎるとアイデアとして物足りない

先生 「核廃絶を訴える」など抽象的すぎてアイデアになっていないなど、こちらの要求に応えきれていない解答もありました。「核廃絶を訴える」ためにどうすればいいか、そこのところを具体的に書いてほしかったですね。
「核廃絶すべき」と同じことを繰り返し書いている解答もありました。核保有がよくないことはリード文にあります。国語科の長文読解の抜き書きのように、リード文にあることをそのまま解答として書くことでは自分のアイデアを答えたことにはなりません。

インタビュー1/3

学習院女子中等科
学習院女子中等科1847(弘化4)年、京都で開講された公家の学習所がその起源。1885(明治18)年に華族女学校開校、創立130年を越える。1906年学習院と合併し、学習院女学部となる。1918(大正7)年に学習院から女学部が分離して女子学習院となる。1947(昭和22)年、宮内省の所管を離れ、私学として現校名に。1999(平成11)年から高校募集停止。
重要文化財でもある鉄製の正門を入ると、四季折々の自然が望める6万6千m2の広大な敷地に女子中・高等科と女子大学の校舎がある。理科・芸術科・家庭科は科目ごとの専用教室があり、コンピュータ室や、2つの体育館、温水プール、テニスコートなど施設も充実。沼津游泳場など校外施設もある。官立から普通の私立として再発足してから70年を越える歴史をもつ。「広い視野、たくましい創造力、豊かな感受性」を教育目標とし、世界的視野に立って、広く国際社会に貢献できる積極的な女性の育成をめざす。同窓会には皇族妃殿下が名を連ねるが、校内は気取らず明るく活発な雰囲気。
実験や実習を多く取り入れた授業を展開。特に創造性に富む表現力、情報を的確に伝える論理的構成力を育てるため、国語の作文、理科や社会のレポート作成などに力を入れる。中1の国語(古文・表現)、中1の数学(数量)・中2の数学(図形)・高1の数学Ⅰ、中1の技術家庭では1クラスを2分割。中1・中2の保健体育(水泳)、中2の技術家庭、中3の社会(公民)では1クラスに2人の教員が入るT.T.の形をとっている。また、英語はすべての学年で少人数制の授業。帰国生を除き、中1・2では均等分割をして基礎力を強化し、中3からは習熟度別授業を行う。高等科ではドイツ語・フランス語も履修できる。高2で文系・理系のコース制を導入。高3では卒業レポートを作成。60%程度が学習院大学・学習院女子大学へ推薦入学するが、最近は国公立大や早慶上智大への合格者も伸びている。海外の大学への進学者も増えている。
校長を科長、ホームルーム担任を主管と呼び、あいさつは、常に「ごきげんよう」である。「ことば」の尊重とともに芸術教育も盛ん。道徳の時間には、正式な作法教育も取り入れている。林間・臨海学校、運動会、文化祭、学芸会、スキー教室など行事も多い。クラブは文化部20、運動部11、同好会3と活発。特にテニス、ブロックフレーテ・アンサンブルは好成績を収める。運動部1と文化部1、または文化部2の合計2つまで入部可。オーストラリアの姉妹校メソディスト・レディーズ・カレッジで英語を学ぶ研修旅行や中3・高2希望者対象のイギリス・イートン校でのサマースクールがある。