シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

渋谷教育学園渋谷中学校

2017年08月掲載

渋谷教育学園渋谷中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.結論の根拠を明示して伝わる文章を書く

インタビュー1/3

“きれいでないグラフ”から傾向をつかむ

田中先生 小学生が目にするグラフは、完全な比例関係にあるような“きれいなグラフ”がほとんどだと思います。しかし実際の実験では誤差がつきもので、きれいなグラフにはなりません。問1は、データの誤差にとらわれすぎず、「このような傾向がわかる」ということを概算で読み取る力を試そうと思い、出題しました。理科を学ぶうえでは、理想と現実のギャップを受け止めて全体からデータの傾向をつかみます。

「概算」は社会科ではよくやりますが、理科ではほとんどしません。その点がユニークな問題だと思いました。

理科/田中 裕一 先生

理科/田中 裕一 先生

問1の出来のよさは実験の経験を生かした印象

田中先生 自分で実験をやったことがあれば、きれいな結果はまず出ないことを経験していると思います。理科の実験など科学的なチャレンジをしたことがあるかどうかで、問1のグラフのとらえ方が分かれるのではないかと予想していましたが、問1はかなりよくできていました。受験生は、実験の経験から誤差があることを承知している、あるいは、経験がなくても、“きれいでないグラフ”から傾向を読み取る力があったというのが私の印象です。
問1は、グラフから「29.3℃」というピッタリの温度を一意と定めるのは難しいと思っていたので、29.1~29.3℃を正解としました。実際に29.3℃以外で正解した解答がありました。

「白」か「黒」か、砂浜の色が温度に影響

田中先生 問1の正解・不正解にかかわらず、グラフから砂浜の温度が高いとメスがよく生まれることは読み取れると思います。
問2の設問文に、「沖縄の砂浜はサンゴ砂でできている」とあります。サンゴ砂は色が白く日光を反射しやすい。それに対し本州の砂浜は、岩石が砕けた砂でできていて、波に濡れると黒っぽくなるので日光を吸収しやすくなります。問2は、「砂浜の色の違い」と「日光を反射しやすい色・吸収しやすい色」の知識を結びつけて、砂浜の温度の高低がウミガメの性の決定に影響することに気づけるかどうかを試しました。

渋谷教育学園渋谷中学校/校舎

渋谷教育学園渋谷中学校/校舎

問2は外遊びに積極的な子どもが取り組みやすい作問を意識

田中先生 沖縄と本州で砂浜の温度が違う原因は、砂浜の色の違いにあります。この点に気づけるかどうかは、普段から屋外に出て自然に興味・関心を持っているか、フィールドに出ている経験の有無が影響したのではないかと思います。
沖縄の海で遊んだことがなくても、本州の海で砂浜を素足で歩いて「熱い!」と感じたり、波に濡れた砂浜を見て「案外黒い」印象を持ったことがあると、解きやすかったのではないでしょうか。問2は、屋外に積極的に出て自然に触れているお子さんが取り組みやすい問題を意識しました。

自然界の不思議に「どうして?」と食いついてほしい

田中先生 ウミガメは産卵や生まれたばかりの子ガメが海へ向かうシーンがテレビで取り上げられることもあり、比較的知られた動物です。けれど、卵がふ化する環境温度によって性別が決まることはあまり知られていないでしょう。これは子どもにとって大きな驚きだと思います。
いままで知らなかった自然界の不思議に出会ったとき、「ホントにそうなの?」「どうして?」と食いついてくれるお子さん、興味・関心を持って自分で調べるようなお子さんに入学してほしいと思います。

渋谷教育学園渋谷中学校/理科実験室

渋谷教育学園渋谷中学校/理科実験室

色の情報は自分の知識・経験から引き出す

田中先生 問2は、沖縄の砂浜は日光を反射しやすいこと、その原因である「色」について触れます。色に触れていない答案は、原理はわかっていても理由を明示していなければ満点はあげられません。
この問題を検討する中で、色の情報を入れた方がいいのではないかという意見がありました。作問者としては、色の情報は自らの経験や、テレビの映像などの知識から引き出してもらいたかったので、設問文では触れませんでした。

「砂浜の色」について言及した答案は少なかった

田中先生 問2の正答率は予想よりも低かったです。得点できたのは2~3割で、完全解答はなかなかありませんでした。
例えば「沖縄の砂浜は温度が低くて、本州の砂浜は温度が高い」という解答は、温度の高低の原因を説明できていません。このように説明不足の解答がやや多かったように思います。
また「サンゴ砂は空洞が多く、海水や空気が入りやすいため」という多孔質に着目した解答も目立ちました。この理由もないわけではありませんが、一番影響が大きいのは色の違いによる反射・吸収です。
色の違いに気づけず、砂浜の色と温度を結びつけられていませんでした。「白砂青松」という四字熟語がありますが、「砂浜は(一律)白いもの」というイメージも影響しているかもしれません。

「白色は日光を反射しやすく温度が高くなりにくい」という教科書的な知識を、このデータと結びつけられるか、知識の活用力が試されますね。
それに、沖縄は「暑い」印象があります。沖縄の砂浜ではオスが多い(=砂浜の温度が低め)となると矛盾するように思います。

田中先生 そこのところを受験生はどのように説明してくれるかなと思っていましたが、答案を見ると意外と手強かったようですね。改めてフィールドに出ることの大切さを強く感じました。

渋谷教育学園渋谷中学校/理科実験室

渋谷教育学園渋谷中学校/理科実験室

インタビュー1/3

渋谷教育学園渋谷中学校
渋谷教育学園渋谷中学校地上9階・地下1階の校舎は、地域との調和と快適な環境をコンセプトとして設計されており、都市工学の先端技術が駆使されています。これからの新世代にふさわしい、充実した学校生活を提供されています。教育目標は、21世紀の国際社会で活躍できる人間を育成するため「自調自考」の力を伸ばすことを根幹に、国際人としての資質を養う、高い倫理感を育てる、という3つです。
学習面における「自調自考」を達成するために、シラバス(学習設計図)が活用されています。シラバスは、教科ごとに1年間で学習する内容と計画が細かく書かれたもので、家づくりにたとえるならば設計図にあたるものです。シラバスをもとに、生徒自身が「いま何を学んでいるのか」「いま学んでいることは何につながるのか」ということを常に確認し、自ら目標を設定することで学習効果が上がるように指導されます。「何を学び、学んでいることは何につながるのか、全体のどのあたりを勉強しているのか」を確認しながら、授業に目標を持ち積極的に参加して、毎日の学習に取り組むことができます。外国人教師による少人数英語教育が実践され、さらに、中学3年生から、希望者は英語以外にもうひとつの言語を学ぶチャンスがあります。ネイティブの教師と一緒に自分の世界を広げてみましょう。開講講座は、中国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語です。海外研修は希望者を対象に、中学のオーストラリア研修、高校のアメリカ・イギリス・シンガポール・ベトナム研修があります。研修の目的は若者交流です。異文化理解や語学研修など、さまざまな経験を通して交流の輪が広がります。海外からの帰国生も多数在籍しており、留学生も受け入れています。
自分を律する心を養い、一人ひとりの人生をより豊かにし、人のために役に立ちたいと思う人間を育むため、生徒の発達段階に合わせたテーマで、6年間で30回にわたる「学園長講話」が行われています。