シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

聖光学院中学校

2017年07月掲載

聖光学院中学校【社会】

2017年 聖光学院中学校入試問題より

犯罪や刑罰(けいばつ)に関連して、日本国憲法にはいくつかの条文が規定されています。これらのうち第39条について、あとの問いに答えなさい。

第39条
何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

(問)この条文の規定を、私たちの身の回りの出来事になぞらえて考えた場合、条文の規定や考え方と合致(がっち)せず、問題があると考えられる文を、次の(ア)~(エ)の中から1つ選び、記号で答えなさい。

(ア)聖一君は、1時間目に忘れ物をして先生に叱(しか)られ、その後3時間目には教室のドアを壊(こわ)したため、また叱られた。

(イ)新年度から制服がセーラー服にかわったのに、聖子さんは間違(まちが)って以前のブレザーの制服で登校したため、先生に注意を受けた。

(ウ)授業中騒(さわ)いだ聖二君は、先生に叱られて反省したにもかかわらず、あらためて特別宿題を出された。

(エ)来月から学校への携帯(けいたい)電話の持ちこみが許可されることになったので、聖美(きよみ)さんは「もう大丈夫(だいじょうぶ)だろう」と思って早速(さっそく)持っていったところ、先生に叱られた。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この聖光学院中学校の社会の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答

(ウ)

解説

日本国憲法の第39条には、実行の時には適法であった行為やすでに無罪とされた行為の責任は問われないこと、そして、同一の犯罪について、重ねて責任は問われないことが定められています。これを「遡及処罰の禁止」「一時不再理」「二重処罰の禁止」ということもあります。
選択肢の(ウ)に登場する聖二君は、授業中に騒いだことについて、まず叱られて、その後あらためて特別宿題を出されています。これは、「騒いだ」という1つの行為が、「叱られる」「特別宿題を出される」の二重に処罰されているとなぞらえることができるので、「同一の犯罪について、重ねて責任は問われない」の考え方と合致しないといえます。

(ア)聖一君は、1時間目に忘れ物、3時間目にドアを壊しています。この2つは同一ではなく別の行為なので、「同一の犯罪について、重ねて責任は問われない」にはあたらず、叱られたのもやむをえないといえそうです。

(イ)聖子さんは、新年度から制服がセーラー服に変わったのに、以前の制服で登校しています。すでに制服は変わっている(つまり法が変わっている)ので、登校した時点(「実行の時」)に「適法」ではありません。ですから注意されてしまったのですね。

(エ)聖美さんは、来月から許可されると決まった携帯電話の持ち込みを、来月になるのを待たずに実行しています。つまり、「実行の時に適法」ではないので、これまた叱られてもしかたがないと考えられます。

日能研がこの問題を選んだ理由

裁判員制度が導入されて、すでに8年。司法の世界は少しずつ、専門家でない人たちにも開かれたもの、身近なものになってきています。しかし、日々の生活の中でそれを実感することはあまりありません。死刑制度の是非や、冤罪、再審など、犯罪や裁判の話題に、テレビや新聞などを通して接することはあっても、どこかで「専門的な勉強をした人たちの世界のこと」だと感じる人も多いようです。もちろん中学受験生も例外ではありません。

聖光学院中のこの問題は、12歳の受験生が「自分とはちょっと遠いこと」だと感じがちな司法の世界を、楽しみながら、「自分に関係のあること」としてとらえ、考えるきっかけをつくるものになっています。選択肢の登場人物の行為はどれも「犯罪」ではないので、たとえとしてぴったりではないと感じる方もいるかもしれません。しかし、ルールからはずれた行為という点では共通しており、学校生活という身近な世界になぞらえてとらえることで、理解しやすくなったり、興味を持ったり、もっと知りたくなったりするのではないでしょうか。

つけ加えると、この問題は、ノルウェーで開催された死刑廃止世界会議の記事をもとにした大設問の一部です。裁判やそれをとりまく時事的な話題について基礎的な知識を問う問題もありますが、「憎悪の連鎖や新たな事件が広がらないために刑罰はどうあるべきか」というテーマが根底にあり、文章を読むだけでもさまざまなことを考えさせられます。

このような理由から、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ぶことに致しました。

SDGs17のゴールとのつながりについて

  • 18 SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS
  • 16 平和と公正をすべての人に

目標16「平和と公正をすべての人に」の「公正」は、法による支配が世界的に促進されること、だれもが司法にアクセスできることを含んでいます。人権を守るために法が存在し、法で犯罪や争いを裁くことのできる環境は、日本ではあたりまえです。でも、世界に目を向ければけっしてそうではないのです。
聖光学院中の問題は、憲法第39条に定められた「二重処罰の禁止」を、学校生活にたとえています。身近な問題を、法という視点からとらえてみることで、将来の公正な世界をつくるために必要なことが見えてくるかもしれません。世界の国々がかかえる司法の課題を直接問うものではありませんが、まずは身近なところから。
法の意味や目的への理解を深めることで、私たちはどのようなことができるようになるでしょうか。

私学とSDGsのつながりについて詳しくはこちらから

日能研は、SDGs をツールとして使い、私学の活動と入試問題に光を当てた冊子をつくりました。
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