シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

昭和女子大学附属昭和中学校

2017年07月掲載

昭和女子大学附属昭和中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1. 条件の“あいまいさ”から状況を想像する

インタビュー1/3

データの見方は「平均値」だけではない

及川先生 この問題のように、表のデータを比較する問題は過去にも出題しています。2013年度の入試では、ロンドン、アテネ、東京のオリンピック3大会のメダル獲得数などのデータを用いて割合の問題を出しました。
統計データを比較するときは「平均値」で考えることが多いでしょうが、データの見方は平均値だけではありません。小学生は今のところ平均値だけを扱っていますが、次の学習指導要領の改定では中央値や最頻値といった代表値も取り扱う案が出ています。
この問題は、データを平均値とは別のとらえ方で考えることもできます。単に数字の大小だけでなく、その数字が持つ情報を考えてほしいと思い、この問題を出題しました。

教務・進路部長/及川 道子先生

教務・進路部長/及川 道子先生

昭子さんを選んだ解答が「やや」多かった

受験生が選んだ意見は、昭子さん(中休みの方が放課後より混んでいる)と、和子さん(中休みの方が混んでいるとは言い切れない)のどちらが多かったですか。

今村先生 昭子さんの意見の方がやや多く、思っていたほど偏りはありませんでした。設問文の「和子さんはそうとは言い切れないと考えました。」というところに反応したのかもしれませんね。
正答率は完全解答で21.6%でした。予想は20~30%だったので想定の範囲内でした。部分点も含めると、得点できた受験生は半数程度いたと思います。無答もありましたが、受験生の多くは何かしら書いてくれていました。

「20分」と「1.5時間」を平均して比べる

及川先生 どちらの主張でも、賛成の根拠をきちんと示すことができていれば正解です。小学生の算数の記述力では解答の根拠を示せるかどうかを重視しています。

今村先生 昭子さんを選んだ解答は、「平均」を取って時間当たりの人数を比べます。
「中休みの20分」と「放課後の1.5時間」では時間の長さが違いますから、平均値を求めて、時間単位を同じにして比べます。10分あたりで比べた受験生が多かったです。10分あたりの利用者は、中休みが4.5人、放課後が4.1…人となるので、中休みの方が混んでいると言えます。

「混んでいる」とはどんな状況か想像する

及川先生 和子さんを選んだ解答は、「そうとは言いきれない」状況を説明します。
図書館をその時間中ずっと利用していたのか、すぐに退出したのかは提示された情報からはわかりません。この問題では利用状況を自由に考えることができます。
「9人全員が中休みの20分間ずっと利用していたとは限らない」というように、情報の“あいまいさ”を指摘して、中休みの方が混んでいるとはいいきれないことを説明します。和子さんの方が理由の説明が難しいと思いますが、「長く利用している人もいれば、とても短い人もいる」ことを挙げていた受験生がありました。

昭和女子大学附属昭和中学校/図書館

昭和女子大学附属昭和中学校/図書館

データに関係のない個人的な理由は説得力不足

及川先生 一口に「図書館の利用」と言っても、利用の仕方は様々です。「混んでいる」とはどんな状況か、自分の図書館の利用経験から想像した受験生もいたでしょう。
ただし、「放課後は習いごとが多いから利用しない」というように、自分のことに置き換えてデータとは関係のない理由がありました。実生活と結びつけて図書館利用の状況を考えるのはいいのですが、個人的な理由では根拠に乏しく説得力がありません。

厳密すぎない設定が多様な考えを引き出す

今村先生 中には「図書館にいても遊んでいたかもしれないので、『利用した』とはいえない」という解答もありました。利用の仕方に着目した理由は予想外でしたが、状況を考えたことを評価して部分点をあげました。
このように、受験生の自由な発想を引き出すことができたのはよかったと思います。

「混んでいる」という表現は多様な受け取り方ができます。算数・数学の問題で厳密さを求めすぎると多様な考えを引き出せなくなりますが、この問題はいい意味の“あいまいさ”があることで、受験生は想像をふくらませることができたのではないでしょうか。

「放課後の方が混んでいる」としなかった理由

「そうとは言い切れない」という表現も、よく練られていると思います。

及川先生 この表現は最後まで悩みました。
始めは和子さんも「放課後の方が混んでいる」と言い切って、「中休み派」と「放課後派」にしていました。けれど、この聞き方では単純に平均値を求めるだけになる可能性が高くなり、「数字が持つ意味を考える」というこちらの意図が伝わりません。

対立概念にしてしまうと、受験生が考えるのはどちらか一方だけになりそうですね。両方を考えた上で、どちらかを選ぶというプロセスがこの問題のよさだと思います。

昭和女子大学附属昭和中学校/図書館

昭和女子大学附属昭和中学校/図書館

在校生の経験を入試問題の状況に組み込む

及川先生 ちなみにこの表のデータは、本校の図書館の利用状況のデータを参考にして作成しました。実際の数字そのままではありませんが、まったくの架空ではありません。放課後の利用状況の違いは部活動の有無が関係しています。

小西先生 本校は2時限目と3時限目の間に「ブレイクタイム」が15分あり(以前は20分)、その時間に図書館を利用している生徒もいます。問題の設定を通して、本校の学校生活を感じることができると思います。

インタビュー1/3

昭和女子大学附属昭和中学校
昭和女子大学附属昭和中学校1920(大正9)年に人見圓吉が創設した、日本女子高等学院が前身。建学の精神である「世の光となろう」のもと、「清き気品、篤き至誠、高き識見」の言葉を掲げ、人格と能力を兼ね備えた、社会に貢献する人材の育成をめざしています。
都心に位置しながら、豊かな緑に恵まれた広々とした構内には、式典・講演会のみならず、外部の利用からも高い評価を得ている人見記念講堂、人工芝グラウンド、可動式スタンドを備えた新体育館、年間を通して利用できる温水プール、54万冊もの蔵書を有する大学図書館、日本文化の授業や音楽・国語の授業で使用される茶室があります。
昭和女子独自の中高一貫積み上げ教育を実践し、高2年で高校課程を修了。その後は、高校に籍を置いて併設大学で学ぶ「五修生制度」や、併設大学への被推薦権を得たまま他大学受験も可。併設大学への内部進学率は低下していて、2016年は30%でした。
週6日制で授業時間を確保し、多様な進路に対応できるカリキュラム”SHOWA NEXT”を展開。朝読書、3~4分間のスピーチを行う「感話」、個人研究の「私の研究」、クラス研究の「昭和祭研究」があります。また、中学校の生徒全員が3年間にわたって行う「ザ・ボストンミッション」は、中学1年~2年で準備研究、中学2年の終わりにアメリカキャンパス「昭和ボストン」で12日間の海外研修を経験。帰国後、その成果を英語で発表します。アメリカの歴史や文化を学びながら、現地の生徒とも交流し、国際感覚や英語運用能力を養っていきます。さらに、キャンパス内にあるブリティッシュ・スクールとの交流もあり、文化の違いを体験しながら、コミュニケーション力や協調性を養っていきます。
「ユネスコスクールプログラム」では、思考力・応用力・表現力を磨く取り組みが行われています。高校3年では、第2外国語(6カ国語)を選択することができます。
上級生と下級生が一緒に清掃や作業を行うことで、思いやりや協調性を育てる「朋友班活動」、企画から運営まですべて生徒たち自身で行う「感謝音楽祭」、中学1年~高校2年生が学年ごとに学校所有の宿泊施設で3泊4日の共同生活を送る「学寮研修」など、昭和ならではの独自の取り組みがあります。
木曜日の必修クラブのほかに、課外クラブ活動もあり、放送部が全国大会、水泳、書道、陸上部なども大活躍。珍しいドッジボールもあります。