シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

田園調布学園中等部

2017年06月掲載

田園調布学園中等部【国語】

2017年 田園調布学園中等部入試問題より

次の文章は、宇宙飛行士の野口聡一(そういち)さんが書いたものです。よく読んで、後の問いに答えなさい。
なお、設問の都合上、本文には表記を変えたり省略したりした部分があります。

(略)

毛利さんは二度目の宇宙飛行から帰ってきたところでした。
「地球を見ながら、ふっと思ったんだよ。糸でつながれているんじゃないかなって」と毛利さん。
「それでね、思わず地球を見直してみたんですよ。地球をぶら下げている糸がないかどうか。
周りをよーく見てみたんだけど、やっぱり糸になんてつながってないんだね」

毛利さんはまじめにそう言って、にっこり笑っていました。
地球が糸でつり下げられていないことぐらい、常識中の常識です。二回も宇宙に行った人が何を言うんだろう?そんなこと当たり前じゃないか、と僕は思ってしまいました。

ところがその後、僕自身が、実際に宇宙に行ってみたら、なぜあんなことを毛利さんが言っていたのか、よくわかったのです。

地球を目の前にすると、不思議なことに僕も同じように思いました。「これ、誰(だれ)かが作って回しているんじゃないかな?本当に、浮(う)いているのかな?」と。

果てしなく広い漆黒(しっこく)の宇宙空間のなかに、ぽんと浮かんでいる地球の姿はあまりにも完璧(かんぺき)に見えました。だから、かえって信じられないような気さえしてきて、目を凝(こ)らしてしまうのです。

地球が宇宙に浮かぶひとつの星であること、それが青く丸いこと、自転していること……。
当たり前だと思っていたそれらのことを、もう一度自分の目で見て問い直そうとしてみる。
それが、宇宙から地球を見たときに僕の心に起きた現象なのです。

(略)

(野口聡一『15歳の寺子屋 宇宙少年』講談社)

(問)この文章の「体験の重要性」の説明をふまえて、あなたの「体験」とそれによって考えたこと、得たことなどを具体的に書きなさい。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この田園調布学園中等部の国語の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

お米の作り方は、知識としては知っていましたが、五年生のとき、学校で実際に田植えを体験しました。力仕事がたくさんあり、大変な作業でした。この体験を通して、ほんの一部ですが農家の人々の苦労を知り、教科書の写真で見ていただけのときより、米や食に対する理解を深めることができました。

解説

この問いは、「この文章の『体験の重要性』の説明をふまえ(た)」うえで、自分が「知っていた」ことと、自分が「体験した」ことを対比しながら、それによって考えたこと、得たことなどを論理的に説明する意見記述問題です。
記述するときは、「知っていた」ことと「体験した」ことの違いを採点する人に伝わるように書き、特に「体験」については今までの自分の生活をふり返り、いつ、どこで、だれと、どのような体験をしたのかを具体的に思い起こしながら書くことが大切です。さらにそのときの体験を通して、何を考え、何を感じたのかをまとめていきましょう。

日能研がこの問題を選んだ理由

この問題の文章を要約すると、次のようになります。

情報過多の現代社会では、知りたい情報はほとんど手に入る。そのため、気をつけないと、いつのまにか見聞きするだけでなにもかもを理解している気になってしまう。しかし、それは錯覚にすぎない。だから、心が「なぜ?」と問いかけることがあれば、好奇心を育てて、自分の目や耳、手足で確かめてほしい。それには、行動力と勇気も必要になるが、それをいとわず、自分で行動力を起こせば、世界は何百倍もおもしろくなるはずだ。

このように文章では「体験の重要性」について、具体的な事例と共に、知ることと体験することを対比的に示しながら、なぜ重要なのか、それがこれからの社会で必要になる力にどうつながっているのかが述べられていました。

そしてこの問いでは、「この文章の『体験の重要性』の説明をふまえ」て、自分の「体験」とそれによって考えたこと、得たことなどを具体的に書くことが求められています。つまり、単に自分の「体験」だけを書くのではなく、この文章に書かれている「知っていた」ことと「体験した」ことの“対比”、具体的な体験から何を考えたのかという“まとめ”といった内容構成をおさえたうえで、「体験の重要性」を筋道立てて記述しなければならないということです。

自分が知っていると思っていても、実際に体験してみることで新たな疑問がわいたり、発見したりすることがあります。まさに、情報過多である今の時代だからこそ、「体験の重要性」を子どもたちにもっと考えてほしい。そして、好奇心をもって主体的かつ積極的にものごとに関わっていってほしいという学校のメッセージが強く伝わってくる問題だととらえました。

この問題に取り組むことを通して、自分がこれまでしてきた数々の「体験」をふり返り、新たな気付きが得られた受験生もいたのではないでしょうか。

以上のことから、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ばせていただき、このような素材文を選ばれた意図や、受験生に自分の「体験」とそれによって考えたこと、得たことなどを具体的に記述させる問題を出された意図をぜひ伺ってみたいと考えました。