シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

渋谷教育学園幕張中学校

2017年03月掲載

渋谷教育学園幕張中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.わからない、難しいと思ってもあきらめずに試行錯誤し続けよう

インタビュー1/3

補助線を引いてほしかった

出題意図からお話いただけますか。

吉田先生 補助線を引けば解ける問題を出したいと思いました。対称となる図をつくり、自分で60度、120度という角度を求めることができれば、円周角の定理や、数学で習うトレミーの定理などを知らなくても解けます。線が過剰にあるのは、そのほうが小学生には解きやすいだろうと考えたからです。

7がなくても解ける問題ですよね。

吉田先生 そうなんです。解く上で必要ないのですが、3と5だけでは当て勘で答えられてしまうと思ったので加えました。7、5、3、という数はわりと好きな数なんです。7は3で割ると1余る素数。例えば2017も3で割ると1余る素数なので、そういう大きな数を用いることも考えましたが、残りの2辺が、1632と623になることから、そこまで大きな数字で出すわけにはいかないと考えてやめました。7、8、13、という数も有効でしたが、子どもを祝う意味でも7、5、3、がふさわしいかなと思い、この数にしました。

数学科/吉田真一先生

数学科/吉田真一先生

直感でわかっても証明が難しい

吉田先生 過剰な線を加えたことで、中学生、高校生から「算数の知識だけでどう解くのか」という質問がありました。

八田先生 私も現在教えている高校1年生の生徒に「この問題、できる?」と聞きました。「円周角を使っちゃいけないの?」と言うので、「ダメ」「余弦定理もダメ」「円に内接する四角形の性質もダメ」「対称性だけで解きなさい」と言うと、ものすごく考えていました。そして1人だけ、きれいに線を引いて対称性を使って解きました。生徒がおもしろがる問題だったと思います。

我々の中でも、「円周角の定理を使わずに解けるの?」という声があがりました。AB、DCの延長線を引き、交点で正三角形を作って、3+5だから8cmというのが最短でした。直感的には正三角形とわかるのですが、証明がなかなかできないんですよね。

吉田先生 そうなんですよね。こちらが思っていたのは、5cm、3cmの線を引いて六角形を完成させる方法です。

八田先生 または菱形っぽいものでもできますよね。今日もまた、生徒が別解を発見してくれました。「えっ、こんなふうにも解けるの?」と驚きました。子どもたちのほうが頭が柔らかいです。

試行錯誤してほしい

吉田先生 中学生に図形を教えていて個人的に思うのは、あきらめずに線を引いて、試行錯誤をしてほしいということです。できれば図形の外側に向けても線を引いてほしいと思っているので、この問題にも日頃、授業で感じている思いを組み込みました。これがなんとなく不完全な図だなと思ったときに、自分で線を引いて、きれいな図を導き出してほしいんですよね。

受験生の様子はどうだったのでしょうね。

吉田先生 試験監督の話によると、図が大きく描かれていたので、(受験生は)その図にいろいろ書き込み、工夫をしていたそうです。

八田先生 大問が5問。試験時間は50分ですから、1問にかけられる時間は10分くらい。大問4は小問が3問あるので、この問題にかけられる時間はわずか3、4分ですよね。直感で8cmとわかったとしても、8cmの根拠を限られた時間の中で一生懸命考えるわけです。

算数の得点が低い受験生にも正答が見られた

八田先生 10cmと答えている子が結構いました。AEが3cm、DEが7cmですから10cmになるわけがないんですけどね。誤答の約10%が、10cmと答えていました。大きな図の中に子どもたちは引き込まれましたね。解けると思ったのだと思います。特徴的だったのは、得点が0点、10点、20点台の受験生がこの問題を頑張って解いていて8cmと答えていることです。誤答の中にもいろいろな誤答があって、その子なりに考えていることがうれしかったです。

飛びつきたくなる魔力がありますよね。制限時間を忘れさせる問題だと思いました。

八田先生 つい他の問題にかけなければいけない時間を忘れてしまったかもしれませんね。大問5は厳しい問題でしたが、解けなくても前に戻らず、ここ(大問4)にきてしまった子もいたかもしれません。だからか大問3が、日常の経験が役立つ問題にもかかわらず、できていなかったです。

渋谷教育学園幕張中学校・高等学校/「自調自考論文要旨集」「自調自考優秀作品集」「シラバス」

渋谷教育学園幕張中学校・高等学校/「自調自考論文要旨集」「自調自考優秀作品集」「シラバス」

正答率は約4割

正答率はどのくらいでしたか。

吉田先生 この問題の正答率は約4割でした。中には直感で8cmと書いた子もいたと思いますが、私は図形の問題に向かうときに、そう見えるとか、なにかを直感するとか、そういうことは大切だと思っているんです。ただ、数学になった時に、その直感が正しいかどうかを論証する力をつけていくことが大事になりますが……。
中学校に入ってきた生徒を見ると、最初は「知ってる」ということでよくしゃべります。当たり前になっていることを、当たり前ではなく、筋道を立てて説明することが算数と数学の違いだと思っています。そういうところで生徒たちはとまどうのですが、慣れてくると、お互いに線を引いてみたり、この線ではうまくいかないなど、互いに議論したりするようになります。そうなると、こちらが何もしなくても生徒が勝手に考えてくれるので、それを見ているだけで楽しいです。いい授業になります。

八田先生 正答した4割の中では、(算数の得点を)50点、60点くらいとっている子がもっとも高かったです。ですが、先ほどもお話したように30点以下の子も思っていた以上に戦っていました。この問題で点数を取っているケースもありました。高い点数を取っている子ができるというものでもないんですね。

それは受験のテクニックと、この問題の正答率が一致しないということでしょうか。

八田先生 そうですね。この問題の無答率は約1割です。無答は(算数の得点が)30点以下ではなく、35~50点の子に多かったです。

疑問は小脇に抱えておこう

算数と数学の違いの話が出ましたが、貴校の問題はちょうどその間の問題を出題されているという印象があります。そこに対して何か考えていらっしゃることはありますか。

吉田先生 少なくともこの問題は工夫がなければ算数の力で解けません。解けずに入学した子もいますが、中学校、高校で勉強していくうちに「ああ、だからああいうことができたのか」「今ならこういう解き方もできるな」と、気づく機会があると思うんです。解けなかったときに抱いたもやもやしたものが、後々解消されていくというのも勉強する楽しさだと思います。
私はよく「疑問を小脇に抱える」と言うのですが、解決できない疑問を、ある程度小脇に抱えたまま先に進むことも大事だと思っています。あとでなにか知恵がついた時に、「なるほど」と思ってもらえればいいなと思うからです。
そういう意味でこの問題はいい問題だと思っています。後々円周角の定理やトレミーの定理などを使ってできるようになりますし、7、5、3、という数字も余弦定理を勉強すれば、「だからこの数なんだ」ということがわかるようになります。もし大学で数学を勉強することになったら、その時に「7は3で割ると1余る素数だからそういうことができるんだ」ということを思い出して、幸せを感じてくれればいいなと思っています。

渋谷教育学園幕張中学校・高等学校/「自調自考論文」

渋谷教育学園幕張中学校・高等学校/「自調自考論文」

わからないことも楽しいこと

それは先生の体験に基づいているのでしょうか。

吉田先生 そうです。わからないから放っておくと、本を読んだり、勉強したりしているうちに、「なるほど。だからあの時のことがいえるんだ」と気づいたことが何度もあります。道を歩いていてそういうことに気づくこともあります。そういう体験から、「わからない」ということも楽しいことなんじゃないかと思っています。中には放っておいてはいけない問題もありますが、その時にわからなくても、あとの経験が助けになってわかることもあるので、時々思い出してほしいのです。例えば、先ほど「三角形をくっつける」と言いましたが、そういう発想もトレミーの定理の証明につながります。知られている定理の証明は不可思議なところに線を引くことが多く、その線を引けば解けるようになっています。私は勉強したての頃、それを見て「不自然だな」と思っていました。そこで、動かしてくっつける、あるいは大きさを変えてくっつけるということをしてみると、トレミーの定理の別証明になりました。他の問題でもそういうことができないかなと考えを広げてみると、数学がますますおもしろくなります。

インタビュー1/3

渋谷教育学園幕張中学校
渋谷教育学園幕張中学校高校は1983年に創立され、中学は1986年に開校した。中3でニュージーランドホームステイ、高2で中国への修学旅行、シンガポールやベトナムへの研修も実施され、国際人としての資質が養われる。帰国生も数多く在籍し、幅広い教養も身につける環境が整っている。その結果、国内難関大学だけでなく、海外難関大学への進学者も数多い。また、模擬国連国際大会で、毎回、優秀な成績を収めている。2015年には「第4回 科学の甲子園全国大会」で優勝。全米各州の代表チームが集った「サイエンス・オリンピアド2015」に特別参加し、日本初の5位入賞を果たしている。
教育目標である「自調自考」の精神が学校生活全体に行きわたる。日本でいち早くシラバスを導入し、自ら進んで学習する姿勢を形成した。高1・高2では自調自考論文を作成する。スポーツフェスティバルや文化祭などの行事や宿泊研修など、すべてが生徒主体で行われる。自ら学ぶための校内設備も充実しており、たとえば、6部屋の実験室がある理科棟では、大学と同等以上の高度な実験ができる環境が整っている。
勉強面だけではなく、サッカー、水泳、ハンドボール、テニス、空手など強豪クラブがそろうほどにクラブ活動が盛んである。また囲碁将棋は全国レベル。校内に一歩入った瞬間に、生徒の自分で判断し行動する姿を見ることができ、学校の教育目標が学校全体に広がり、そして生徒の一人一人にふかめられていることを感じさせる。