出題校にインタビュー!
カリタス女子中学校
2017年02月掲載
カリタス女子中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
1.算数という道具を使って人口問題を考える
インタビュー1/3
「人口減少」という社会問題を算数の視点で考える
「生活の中の算数」というと消費税はよくありますが、「人口」を算数の題材に取り上げたのは珍しいかもしれません。
長谷川先生 日本の人口減少はみんなが考えなければならない重要な課題です。これを算数の入試問題として、小学生でも解けるように問題化できないかと思い、作問しました。
言われたことをやればいいという時代は終わりました。これからは一人ひとりが学びながら、「自分は何ができるか」を考え、行動する姿勢が求められます。この問題が、そうしたことを少しでも考えるきっかけになればと思います。
2013年入試の「お小遣い」や、本記事に掲載させていただいた2012年の「携帯電話」などもそうですが、「問題のための問題」ではなく、子どもにとって身近なこと、社会と接点がある問題は、子どもが算数に興味を持つきっかけになるのではないかと思います。
数学科/長谷川 純一先生
「1億7000万」は通常の算数では扱わない9桁の数字
長谷川先生 通常、算数の計算は3桁、4桁の数字です。最初は、小学生が果たして「1億1700万(人)」という9桁の数字を扱えるだろうかと心配でした。他の教員から賛同を得たので、問題文は小学生が誤解しないように、表現をブラッシュアップさせていきました。
この問題は大問の3番目の問題です。設問1(2035年末の高齢者の人数)の正解率は約85%、設問2(2060年末の高齢者の人数)の正答率は約80%でした。桁が大きいと一見難しそうですが、単純な割り算だと気づけば、少しでも興味を持ってもらえるかなと思いました。この2問は確実に得点してもらい、この問題のヒントにしてもらおうと思って出しました。
力試しとして出した問題は正答率3%
長谷川先生 この問題は全体の最後に「力試し」として出しました。無答は少なかったので、受験生はチャレンジしてくれたようです。
正答率は3%程度でした。手こずるだろうと思っていたので、正答率の低さは想定していました。逆に、よく正解にたどり着いた受験生がいたと感心しました。
採点対象は解答のみで、途中式は書かせていません。この問題は段階を踏まえながら解いていかなければなりません。模範解答のように小学生が筋道立てて答案を書くのは厳しいと判断し、どんな解き方でも正解にたどり着いた柔軟な発想力を評価することにしました。
カリタス女子中学校/中3職場訪問
「2080」は当てずっぽうでは出てこない惜しい誤答
長谷川先生 中には「2080(年末)」という1年違いの誤答が3%程度ありました。こう答えた受験生は、計算結果から、「○年末」のとらえ方、小数点以下の処理がわからなかったのだろうと推測しました。
途中式は見ていませんが、「2080」は何となくや当てずっぽうで出てくる数字ではありません。最後の最後で間違えた惜しい誤答です。考え方は合っていると思い、部分点をあげました。
なぜ「2085」の誤答が多かったのか
長谷川先生 採点していると、「2085(年末)」という誤答が非常に多いことに気づきました。
リード文を整理すると、次のようになります。
2035年末 人口 1億1700万人 高齢者人口 3人に1人(3900万人)
2060年末 人口 8700万人 高齢者人口 2.5人に1人(3480万人)
高齢者の割合が「3人に1人」から「2.5人に1人」になるのに25年かかったので、「2.5人に1人」から「2人に1人」になるのは、同じように25年かかるのではないかと発想したようです。小学生の思考に気づかされた思いです。
引っかけ問題のつもりはありませんでしたが、多くの受験生が誤答のレールに乗ってしまいました。文中の数字だけを追ってしまって、安易に答えを出してしまったかなと思います。文中から、人口の減少速度(120万人/年)、高齢者人口の減少速度(16.8万人/年)といった状況を把握できなかったのかもしれません。結果的に、読解力も問われる問題になりました。
与えられた情報から状況をイメージする
この問題を解けた受験生はどんな力があると思われますか。
長谷川先生 まず、読解力が必要です。数字に惑わされないで情報を整理する力も求められます。字面を追うだけでなく、与えられた情報から状況をイメージできる想像力も求められます。見えているものだけをとらえるのではなく、実際にどうなっているのかというところまで想像できることです。
この問題を中学生に見せると、おそらく方程式や不等式を使って解くでしょう。いろいろな解き方ができる問題ですが、方程式を習っていない小学生がXやYなどの文字を使わずにどうやって解くか、頭のやわらかさが求められます。
カリタス女子中学校/聖堂
算数・数学で「将来を推測する力」を養う
長谷川先生 誤解してはいけないのは、出生数や死亡数によって高齢化率は変わるので、2081年に高齢者が国民の半分より多くなるわけではありません。
これはあくまで「推測」で予想パターンも複数あります。また、現時点での予測と10年後の予測が違ってもそれは珍しいことではありません。
このように、将来を知識としてだけでなく、計算によって予測することも可能です。「世の中を見る目」を算数・数学を通して磨くことができるのです。
数学が苦手な生徒はよく「なぜ数学を勉強するのか」という疑問を持ちます。そうした生徒は数学という“道具”の使い方、活用方法を知らないのです。道具を使いこなせるようになると、思考は深く、広くなります。
インタビュー1/3