シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

雙葉中学校

2017年02月掲載

雙葉中学校【理科】

2016年 雙葉中学校入試問題より

東京の地形は、図1の地図に示されているように、台地と低地、それから、図にはありませんが、西部の山地に区分されます。図2の(A)と(B)は、それぞれ図1中の(A)(台地)と(A)(低地)の場所でとられたボーリング調査の結果です。

図1

図2

(A)の試料の①の火山灰層(関東ローム層)と、(B)の試料の②のれき層は、ほぼ同じくらいの時期につくられた地層であることがわかっています。また、(A)、(B)ともに、砂層からは貝殻(かいがら)の破片が見つかっています。

東京には今からおよそ3万5000年前には人類が存在し、活動していたことが石器の発見などから明らかにされています。その後も人類は進歩を続け、今から2万年くらい前には、住居を構えて集団で生活していたと考えられています。その証拠(しょうこ)の1つに「貝塚(かいづか)」があります。都内では、縄文(じょうもん)時代の貝塚が約90か所で見つかっています。その分布は図1のようになっていて、台地に多く見られます。図2の(A)の①の火山灰層がつくられたのは、貝塚がつくられたころより少し前であることがわかっています。

(問1)図1で、東京の貝塚が台地に集中している理由を、貝塚がつくられた当時の気候を考えて簡単に説明しなさい。

図3は1460年ごろの東京の地図です。点線は現在の海岸線を表しています。東京の地形は、江戸時代以降の開発によって大きく変化してきたことがわかります。

図3

東京を襲(おそ)った災害として、「大正関東地震(じしん)」をあげることができます。1923年9月1日、相模湾(さがみわん)を震源とする巨大地震が発生し、東京では下町を中心に大きな被害(ひがい)が発生しました。

(問2)大正関東地震のときには、図中の(B)の周辺で多数の家屋の倒壊(とうかい)が起こりました。
また平成23年東北地方太平洋沖地震のときには、図中の(C)などで、液状化現象(地盤<じばん>が液体のようにふるまう現象)が起こり、道路や駐(ちゅう)車場などに多くの被害が発生しました。(B)や(C)でこのような被害が発生した原因として、共通することはどのようなことですか。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この雙葉中学校の理科の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答

(問1)当時の気候は温暖で、海水面が今よりも高く、海岸線が内陸寄りだったから。

(問2)もともと沼地・湿地や海だったことから、土地にふくまれる水分が多く、地盤がゆるいこと。(砂がたい積していること。)

解説

(問1)文中に、(A)の①(関東ローム層)と(B)の②はほぼ同時期につくられた地層であることが示されています。(A)の①が地上に火山灰が降り積もってできたものであることと、①のすぐ上に盛り土・表土があることから、①が堆積してから現在まで、(A)の土地は海底にしずむことがなく、陸地だったと推測できます。一方、(B)の②の上には粘土層や砂層など、海底で堆積してつくられる層があることから、(B)の土地は②が堆積した後も海底だったと推測できます。
また、貝塚は(A)の①が作られた少し後の時代につくられたということから、貝塚がつくられた当時、(A)の土地は陸地だったが(B)の土地は海底だったことになります。図1を見ると、台地とそれよりも低い土地の境目に貝塚が集中していることから、当時は海水面が現在よりも高く、台地付近まで海水がおしよせ、海岸線が内陸寄りだったと推測できます。このように海水面が高かったのは、当時の気候が温暖だったからだと推測できます。

(問2)図3より、(B)はもともと沼地・湿地であり、(C)はもともと海であったことが読み取れます。したがって、(B)や(C)の土壌には水分が多くふくまれており、地盤がゆるかったと推測できます。

日能研がこの問題を選んだ理由

東京の地形を示した複数の図や、問題文に示された情報をもとに、貝塚が台地に集中している理由や液状化現象が発生した原因を、科目を超えた知識を結び付けながら筋道立ててとらえていく問題です。

問題に取り組むことで、子どもたちは、試行錯誤しながら見慣れていないもの、見慣れたもの、他科目の知識を結び付けていく過程を楽しみます。また、見慣れていないものと見慣れたもの、他科目の知識が結び付いたとき、子どもたちの中に科目を超えた新たなことがらどうしのつながりが構築されます。この問題をきっかけに、子どもたちが未知のことがらに出あったときに、既知のことがらと結び付けることでものごとの状況やしくみを明らかにすることができると気づくでしょう。

このような理由から、日能研では、この問題を□○シリーズに選ぶことにいたしました。