シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

麻布中学校

2016年12月掲載

麻布中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.授業の延長線上に入試がある。算数を楽しもう!

インタビュー1/3

見抜く力を問う問題

野田先生 現在数学科には14名の教員がいます。麻布の特色は、14名の教員一人ひとりが、各自の数学感を活かして授業を進めており、14の方法が集まって麻布の数学科の雰囲気を作っているところにあります。今回はその中の4名が取材に応じるということで、必ずしも麻布の数学科としての意見ではありませんが、少しでも魅力をお伝えできればと思っています。

さっそくですが、この問題の出題意図を教えていただけますか。

野田先生 この問題は、何回か操作をすると目で追えなくなります。その先は想像するしかありません。つまり、どのように調べれば的確に調べることができ、規則に気づくことができるのか。見抜く力を見たいという意図があります。

太田先生 算数は目で見える範囲で考えることが多いと思いますが、数学は目で見えないものまで扱います。それが強みなので、その力を見るということです。

麻布中学校 数学科の先生

麻布中学校 数学科の先生

感動を味わってもらえる問題を出したい

実験は2つの方法があります。1つは目的があり、それを探しに行く場合。もう1つは目的がなくローデータを取りながら進めていく場合です。この問題にはその両方があるのでおもしろいと思いました。

野田先生 この問題には規則が2つあり、その両方がわかると問3ができます。作業をしながら自分で見つけた規則性を抽象化して適応することで、最後までできるのです。実験は2つあるとおっしゃいましたが…。ある程度予想がついている中で繰り返すことと、実験をしながら新しい規則を発見していくことは、入試問題だけでなく、麻布に入学後も味わってもらいたいと思っていることの1つです。私は、「おもしろい」と感じてもらうことが、授業の第一歩だと思っています。そういう意味では、入試問題は授業の延長線上にあり、似ているところがあると思います。数学のおもしろさをいろいろな角度から伝えたいです。

太田先生 私見ですが、単に力量を計る問題ではなく、解いた時に「へぇ、すごいな。こんなことが成り立つのか」と感動を味わってもらえる、気持ちの良い問題というのがあると思うので、入試ではそういう問題も出したいと思っています。

構造を見抜く力が算数の力

重田先生 私は構造を見抜く力が算数の力だと思っているので、この問題ではそういう力を問いたいと思いました。しかしながら、基本的な計算を勉強することも大事なので、その力を問う問題も出題しています。どちらかに偏るということはありません。

太田先生 うちの入試はこういう問題がピックアップされて、「発想力が必要」と言われますが、脳内で計算に使われるリソースは限られています。当たり前にできなければいけない計算が正確に速くできないと、容量を食われてしまうので、まずは計算を正確に速くできるということを大事にしたいですね。そして願わくばこういう問題にも興味をもってほしいと思っています。

麻布中学校 教室

麻布中学校 教室

こつこつと努力できることも大事

重田先生 少し前の話ですが、中2の代数でできが悪い生徒を呼んで、1対1の補習をしました。その時、フェルマーの「4で割って1余る素数は必ず2つの平方数の和で表せる。4で割って3余る素数はそうではない。」という主張があるのですが、それをその子に軽く振ったのです。それ自体は中2では証明できない、難しいものなのですが、「4で割って3余る素数が出きないのは簡単だね」「平方数を4で割ると、必ず余りは0か1だから、2つ足すと余りが3になるわけがない」と言ったのです。その瞬間、(この子には)相当の魅力があると思いました。補習に呼ばれるような生徒であっても、です。こういうものに興味をもつことは、算数や数学の才能として大事なことだからです。しかし一方で中1、中2の代数では計算練習をたくさんやらせています。才能だけで入ってくると、その子自身が苦労するので、そういうところは気をつけていきたいと思っています。

数学の授業は算数でもできるところから入っていく

具体から抽象への移行に慣れている子が入ってくると思いますが、授業はどのように進めていますか。

長尾先生 抽象化できても慣れていないので、最初は丁寧にやっています。たとえば、方程式を使って解くということを中1でやりますが、ゼロから始めています。中1が解くような問題は算数でもできる問題です。
ですから、最初からひらめきが優れていなければいけない、ということではないと思っています。地道に勉強することができれば、何の問題もありません。

野田先生 しっかり対象をつかみながらやっていた感覚から、論理的に操作する段階になって、最初は「何をやっているんだろう」という戸惑いがあると思います。そこで数学から離れていくのは、非常にもったいないと思っています。だから代数の授業でも、幾何の授業でも、生徒たちが小学校の算数をおもしろいと思っていた感覚を大事にしています。抽象化においてもしっかりと対象をつかめるような頭脳になることを願って教えています。

麻布中学校

麻布中学校

数学で自明が多いのは大事なこと

長尾先生 数学は計算するものではなくて、説明するものです。説明がきちんとできないと数学をやっていることにならないので、証明を書くことは数学の入口みたいなものと考えています。ただ、彼らは中1の幾何でやるような定理は使いこなせるようになって入って来るので、何を当たり前として、何を説明するべきかを分けています。そこは、彼らの頭がいいゆえに苦労するところです。当たり前のことを「当たり前」と書いては証明にならないので、その部分が生徒にはまどろっこしく感じるようです。

野田先生 頭の中で、多くの数学的現象(ある不等式や等式などの関係式、数や幾何的な性質など)を自明だと思えることは、一つの才能だとは思いますが・・・
当たり前の事を当たり前と思える思考経験と、それらを論理的に説明できる力の両方を鍛えることが重要なのではないでしょうか。個人的には、面白い!と思える感性や、何故だろう?と疑問を感じる力も大事だと思います。

重田先生 中2の時に円と円の位置関係を勉強しますが、卒業生の中に2円は本当に交点をもつのか、という証明にすごく興味をもった子がいました。その時に担当した先生がものすごく厳密な説明で授業を行う先生だったので、授業を聞いて「数学って素晴らしいな」と感じたそうです。一方で、「2円が近ければ、2点で交わるのが当たり前」と思う子が大半だと思います。たとえば「3点で交わることはあり得ないのか」と聞くと、普通の子は「ないでしょ」と言いますから。そこで疑問をもつことはかなり難しいでしょう。

インタビュー1/3

麻布中学校
麻布中学校1895年、江原素六によって創立された。明文化された校則もない、自由闊達な校風が伝統。責任のともなう自由が重視され、一人ひとりの多様性や自主性を伸ばす教育が行われている。自発的な研究も盛んで、お互いを高めあう気風がある。OBも、政治家、作家、ジャーナリスト、俳優、経済界など、幅広い分野の第一線で活躍する。
中3国語の「卒業共同論文」、高1社会科の「基礎課程終了論文」など、各教科とも書くこと、表現することが重視される。その集大成が「論集」である。高1・高2では土曜日の2時間、教養総合として約30のテーマから選択する授業がある、OBなど学外の複数の講師が担当する講座もある。カナダ、中国、韓国など、海外学校との国際交流も活発に行われる。
クラブ活動や行事も盛んであり、文化祭、運動会とも大変な盛り上がりを見せる。将棋や囲碁は全国レベル。オセロ部、バックギャモン部、TRPG(テーブル・トーク・ロールプレイング・ゲーム)研究会など、他の学校ではめずらしいユニークな部活動もある。
2015年には、ランニングコースも備えた新体育館が完成した。また、放課後や休み時間に多数の生徒が訪れる図書館は、100周年記念館の2F、3Fにあり、蔵書は8万冊を超える。自発的に学ぶ意欲が育つ、個性的な私立男子校の代表格である。