出題校にインタビュー!
渋谷教育学園渋谷中学校
2016年11月掲載
渋谷教育学園渋谷中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
1.単なる暗記で終わらず、持っている知識を結びつけて考えを深めよう。
インタビュー1/3
社会全体に目を向けてほしいから、時事問題を毎年出題
出題意図からお話いただけますか。
大貫先生 時事的な要素を含んだ問題をつくりたいと考えていた時に、明治日本の産業革命遺産の登録と、何年か前に訪れた軍艦島が浮かび、それらを材料に、いろいろな資料から多角的に読み取って、答えを導き出すような問題を出題したいと思いました。
藤田先生 開校以来、時事問題を必ず出題しているのは、社会科や生活科で勉強した地理や歴史の内容をきっかけに社会全体に目を向けてほしいという思いがあるからです。日々のニュースを切り口に、家庭内の先生、つまり保護者の方と会話をして掘り下げてほしいと思っています。
複数の資料を出すのは、社会科の学習を知識を覚えただけで終わってほしくないからです。たとえばその事象がどのように将来につながっていくのか。今現在、どのような意味をもつのか。そういうことまで考えてほしいのです。
また、角度を変えて見るとわかることもいろいろあるため、そういうものの見方をしてもらうためにも複数の資料をもとに考える問題を出題しています。
渋谷教育学園渋谷中学校/社会科研究室前の掲示物
1人あたりの出炭量を算出し、作問の道が拓けた
問題は持ち寄って作るのですか。
藤田先生 そうです。この問題は、素材としてはおもしろいので、なんとか手を加えて本校らしい問題にならないだろうかという観点から、角度を変えながら作っていきました。
大貫先生 どうすれば多角的に考察し、答えを導き出せる問題にできるかというところで、相当議論しました。
藤田先生 資料2のグラフも、出典の文献にこの通りに載っていたわけではありません。数値だけが載っていたので、そのまま使うわけにはいきませんでした。大貫先生が1人あたりの出炭量を算出し、グラフにすると問いたい部分が明確になりました。
資料2から読み取れること
藤田先生 1950年以降、労働人員数が低下しているのに出炭量が増えています。つまり1人あたりの出炭量が増えているのは、高校で学ぶ「傾斜生産方式」によるからです。産業を復活させるために、石炭の増産に力を入れたのです。それは中学入試では問えない内容ですが、数字を追いかけていくと時代背景を写し出していることがわかり、問題を作っている間にも新しい発見がありました。
大貫先生 1944年から45年にかけて労働人員が減っていることから、労働環境が悪化したことが考えられます。
藤田先生 入試で問う内容として妥当であろうところを抽出して出題しています。小学校で、新憲法やその他の改革により、新しい国づくりができたことを学んでいれば、解答を導けたのではないかと思います。
問2は働き方の変化とその理由を書いてほしかった
大貫先生 問1はよくできていましたが、問2は満点の解答は多くありませんでした。
藤田先生 資料1にスケールを入れています。そこに注目してもらえれば、島の南北の長さは400mもないくらい。施設の大半は炭鉱施設で、住宅は少ないと判断できます。資料2を見ていただくと、炭鉱労働者だけでピーク時は3000人近くいますから、家族も含めれば相当数の人数がいたということが考えられます。実際の入試問題では写真は前のページに掲載されていましたが、写真を見てもらうと、高い建物が認識できると思うので、問1は答えやすかったのではないかと思います。問2は満点が少なかったです。変化を読み取れなければ解答できない問題です。問2の問題文に、「働き方の変化から説明することができます」と書いてあります。この一文に着目できれば答えを絞り込むことができますが、見逃すといろいろな答えが考えられます。働き方の変化とその理由を書かなければいけないので、段階的に部分点をつける形で採点しました。
持っている知識をもとに想像し、考えてみよう
藤田先生 戦前の働き方については、国民学校の生徒が軍需工場で働いている写真を見たことがあると思います。過去問をやってきた受験生は、数年前に紡績工場の問題を出していますので、当時の人たちが比較的長い時間、労働に従事していたことは知っていると思います。そうした持っている知識をもとに想像力を働かせて、炭鉱施設ではどうだったのかなと考えてほしかったです。
大貫先生 出題者側も求める解答が出るように、問題文の表現に工夫を凝らしています。まずは問題文をしっかり読んだうえで解いてほしいですね。
藤田先生 受験生が勉強してきた努力を評価したいという気持ちで問題を作っています。知識をしっかり積んできているか。さらに、知識をもとに推測する力や思考する力、表現する力などを問いたいと思い、問題を作ると本校のような試験になるのではないかと思います。
渋谷教育学園渋谷中学校/フーコーの振り子
知っている知識を結びつけて考えてみよう
地形図(山口県萩市)の『X旧宅』、Xに入る人名を4つの選択肢から選ぶ問題も、「知らないよ」と投げ出したくなる問題ですが、山口県だから長州藩、というように、場所と歴史の知識を結びつけることにより解答を導き出せるので、おもしろい問題だと思いました。
藤田先生 受験生は薩長土肥を学ぶと思います。そこで終わらせずに、「薩摩ってどこ?」「長州ってどこ?」「活躍した人は誰?」というように広げていくと、選択肢から「木戸しかない」ということがわかると思います。すぐに答えがひらめかなくても、いろいろな角度から見たり、知っている知識を結びつけたりしていけば、答えを導き出せるように、出し方を工夫しているので、あきらめないでほしいですね。
考えるためにはベースとなる知識が必要
大問1のテーマは産業革命遺産ですから時事問題ですが、その中で世界遺産の専門機関であるユネスコを聞いたり、地形図に絡めて歴史上の人物を聞いたり。後半には雨温図も出てきます。まさに総合力が問われる問題で、解くためのベースには知識が必要なので、私たちもこうした問題を通して知識の大切さを伝えています。
藤田先生 『社会科は暗記科目』と、悪者にされてしまうのですが、解くために知識は必要であり、これからはそれを活用する力が問われるのだろうと思います。さまざまな単元から得た知識を組み合わせた時に、どのようなものが見えてくるのか。その中には新しい発見もあるはずです。これまでに学んだ知識や考え方が塗り替えられるかもしれません。そうしたことにも柔軟に対応できる力を、入学してから大事に育てていきたいと思っています。
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