シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

今月の額面広告に掲載されている問題はこれだ!

横浜女学院中学校

2016年09月掲載

横浜女学院中学校【国語】

2016年 横浜女学院中学校入試問題より

次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。(字数に制限のある問いは、句読点や記号も1字に数えます。)

(略)

二〇一一年四月中旬から五月の連休にかけて避難所を訪れ、調査をして私たちが見たものは、体育館の床に、布団一枚のスペースしか与えられず、間仕切りもなく、人々が密集して雑魚寝(ざこね)をしている避難所の風景でした。食べ物も、ボランティアの炊(た)き出しがない普通の日は、菓子パンとおにぎりだけ。栄養価は著しく偏(かたよ)っていました。

(略)

私たちはこうした避難所の実態について、次々にステートメント(※1)や報告書のかたちで発表し、メディアに送ったり、周囲で共有したりしました。ツイッター、フェイスブック(※2)が普及(ふきゅう)し始めた時期で、こうした情報はあっという間に市民の間で共有され、リツイートやシェア(※3)をされ、活用されました。

当時、様々な支援団体が活動していましたが、多くの団体は当然ながら自ら支援を行うのに手いっぱいのようでした。支援のあり方に問題がある、行政はもっと対応すべき、という「政策提言型」NGO(※4)は少なかったのです。そこで私たちは政府交渉の場に参加したり、メディアに働きかけたりして、問題を共有し、支援の改善を政府に求めました。

(略)

二〇一一年夏から冬にかけて、避難者の多くが仮設住宅に移行しました。しかし、多くのお年寄りは最後まで避難所に残っていました。仮設住宅に移行した途端(とたん)、食糧、医療、移動支援を打ち切るという国の政策が影を落としていたのです。「仮設住宅に行くと自立しなくてはいけない。避難所にいれば食べさせてくれるのでここにいたい」というのです。

夏になってもクーラーもない、蒸し暑い劣悪な環境の避難所にお年寄りだけが取り残されているのを見ると心が痛みました。災害弱者ほど避難所に長く生活せざるを得ない状況だったのです。そして、お年寄り、障がいを持つ方など最後になって仮設住宅に移動した方ほど、後から建てられた、人里はなれた、劣悪な環境の仮設住宅への入居を余儀なくされたのです。仮設住宅には歴然たる格差がありました。

二〇一二年二月、私はあるジャーナリストから「気仙沼(けせんぬま)の仮設は大変なことになっています」と聞き、二週間後には、宮城県(みやぎけん)気仙沼市に調査に行っていました。そこでは、人里はなれた山の上に五十六世帯を収容する仮設住宅があり、このうち三十六世帯が独居(※5)でそのほとんどがお年寄りでした。

(略)

  • ※1 ステートメント……政府・政党・団体などが発表する声明文
  • ※2 ツイッター、フェイスブック……どちらもオンライン上のソーシャルネットワークサービス(SNS)
  • ※3 リツイートやシェア……SNSで情報を共有できる状態にすること
  • ※4 NGO……民間で設立される国際協力機構
  • ※5 独居……ひとり住まいをしていること

(伊藤和子『人権は国境を越えて』岩波書店より)

(問)環境のよくない仮設住宅に住む「お年寄り」の問題を解決・改善するためにおこなったらよいと考えることを100字以内で書きなさい。

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには各中学の「こんなチカラを持った子どもを育てたい」というメッセージが込められています。
では、この横浜女学院中学校の国語の入試問題には、どういうメッセージが込められていたのか、解答・解説と、日能研がこの問題を選んだ理由を見てみましょう。(出題意図とインタビューの公開日については更新情報をご確認ください。)

解答と解説

日能研による解答と解説

解答例

仮設住宅で暮らすお年寄りたちを取材して、何に困っているか、どのような助けが必要かを知る。そして、そのことを周囲の人に伝えながら、一緒に動いてくれる仲間を募り、仲間と考えた改善策を国に提案する。

解説

文章中には、仮設住宅に住むお年寄りという、声をあげにくい人が劣悪な環境で暮らしている問題が指摘されていました。具体的には、「冬になると道路が凍ってしまうというのに、食糧支援も無く、移動を手伝ってくれる人も、医療巡回もない、水道は凍結してしまう」といった、劣悪な状況です。

孤立無援で援助が得にくい状況に置かれたお年寄りたちは、「見捨てられた気持ちになり、自尊心を失い、声をあげられなくなっていく」と文章中では述べられています。

こうした「実情」をふまえると、どのような解決・改善策が考えられるでしょうか。文章の前半に書かれていた、筆者がこれまでに行った活動内容も参考になるでしょう。具体的には「避難所等に行って人権状況を調査し、報告書をまとめ、政策提言をする」という活動です。つまり、「問題を共有し、支援の改善を政府に求め」たのです。

ほかに、自分自身がこれまで見聞きした情報や経験などをもとにして解決・改善案を考えることもできます。声をあげにくい人の立場になること、そして、問題を広く共有することが、この問題に取り組む上でポイントになるでしょう。

日能研がこの問題を選んだ理由

この問題では、東日本大震災の被災者を、人権保護という視点から守ることを話題にした文章をもとに、現在環境のよくない仮設住宅に住む「お年寄り」から見た問題点は何かをとらえ、その問題の原因をさぐりながら、どのようにして解決や改善を目指すのかという方法を自分なりに考えることが求められます。

文章中には問題を考える上で手がかりとなる、被災者が置かれているひどい状況や、それに伴う心情が描かれていました。

しかし、そこから何を問題点として取り上げるかや、それを解決していくための手段や方法は、一つに決まるものでも、保証されている「正解」もありません。また、一時的には解決したとしても、そこから新たな問題が起きる可能性もあります。そういう意味で、テスト紙面上だけで完結する問題ではなく、今後も向き合い続ける必要のある問題だと言えるでしょう。

まさに、この問題を通して、今後生きていくうえで「問題発見力・問題解決力」が大切だということを子ども達が実感でき、「問題発見力・問題解決力」を育成する必要性についても理解が深まるという点に魅力を感じました。

このような理由から、日能研ではこの問題を□○シリーズに選ばせていただきました。