シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

神奈川学園中学校

2014年09月掲載

神奈川学園中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.多感な10代だからこそ、体験が大事。選択肢を設けることで考える力を育む。

インタビュー3/3

戦争と平和の問題を通じて人を育てる

小川先生 「戦争と平和」の問題を、今この時に、社会科として何ができるだろうかということを考えて指導しています。

中1の社会は「世界の歴史」です。人類や地球の誕生から始めていくので、「戦争と平和」については、学年の最後に行う「発表学習」(生徒が調べた内容を授業形式で発表する学習)で取り組ませています。国語科でも、おじいちゃん、おばあちゃんに戦争体験を聞いてレポートにまとめさせるという課題を、毎年中1に課しているので、それもオリジナルの資料集に掲載して生徒に読ませています。

中2の社会は「日本の歴史」なので、「戦争と平和」は当然扱います。中3では公民的な視点で「戦争と平和」を扱うというように、いろいろな取り組み方をしているので、一旦そういうものを全部並べて、中1から高1までの4年間で、どういう人を育てたいのかを軸に、「戦争と平和」というテーマで整理したいと考えています。

また、海外研修を実施しているので、世界の見え方というのを、中1での世界の学習、高1での戦後世界史のような学習とどうつなげていくか。「そういうことも必要だね」と話していて、追々着手していきたいと思っています。

神奈川学園中学校/先生

神奈川学園中学校/先生

社会科の枠を超えて、学校生活のすべてとつながる

小川先生 社会科は、生徒の自治活動や文化祭、フィールドワークや海外研修などともつながりを持つことがとても重要だと考えています。生徒の生活全体とかかわる視点は、学年集団をはじめいろいろな先生方の声に耳を傾けて、生かすことができないと力をつけられないので、アウトプットして共有することはとても大事にしています。

木村先生 創立100周年に向けて、校長、教頭を中心に学園史の編纂をしています。戦時中の先輩たちは勤労動員されたり、横浜大空襲を目の当たりにしたりしていた……その体験を、校長が生徒に話すので、そういうものが学校生活の中で自然と話題になります。「戦争と平和の問題は、決して終わったことではないんだよ」ということを伝える雰囲気は、学校全体にあります。

社会科でも、そういうことを追い風にして、いろいろな実践をしています。もちろん関心のある生徒とない生徒がいるのですが、校長の講話を題材にすると全員が一度は触れているところからスタートできます。生徒同士が意見を交わして、学習になっていきます。そういう機会があるのとないのとでは大きな違いなので、社会科以外でも一つのテーマを大事にしているのは大きいと思います。

教員同士のコミュニケーションが抜群

小川先生 講演会もたくさん開催していています。社会科が主催しているものもあります。たとえば生徒会が主催している講演会に、昨年は姜 尚中さんをお招きしました。姜さんのお父さん、お母さんがなぜ日本にいるのか、という話は社会科に関わってくるので、朝読書や、国語の先生、学年の先生がその時間を使って読書の学習をする時にタイアップして事前学習しました。

いろいろなとことろに連携の芽がある。先生方のコミュニケーション力が高いのでしょうね。

及川教頭先生 そうだと思います。教科の中、学年の中を横断することが当たり前になっています。必要だと思ったら連絡をとり、相談して行う風土になっていますね。きっかけは、2人担任制になったことだと思います。

小川先生 学年集団が特徴的で、クラスで困ったことはすべて話して、一緒に解決していきます。それを毎週の学年会議(6学年)で報告し、全体で把握しています。

教頭/及川正俊先生

教頭/及川正俊先生

現場に立つ、調べる、表現する機会をもっと与えたい

小川先生 今、意識的に取り組んでいるのは、地理的分野の内容の充実です。学習指導要領が新課程になり、世界地理のボリュームが増えていることもあり、新しい地理の教員を迎えて、地理の授業を充実させていきます。

それから、生徒に発表させる機会を増やしていこうということで、中1では先ほどお話した「戦争と平和」に関連したレポート発表を行っています。

中2では横浜の歴史を生徒が授業するという形で、エリアを分担してフィールドワークに取り組ませています。その発展として、中3のフィールドワーク、高1の海外研修とつなげていきます。生徒が現場に立つ、調べる、表現するということを大事にしています。

中1の授業はオリジナルテキスト

小川先生 中1の世界の地理・歴史は検定教科書がないので、オリジナルです。個々の教員や、中1の社会科を担当した複数の教員が作ったものに図版を取り入れるなど、毎年バージョンアップして、今に至っています。

大人が読むと、歴史が好きになりそうですね。

木村先生 戦争の事実だけではなく、映画ではどう描かれているか、文学ではどう描かれているか、本校の先輩たちはどう見たかなど、さまざまな資料により、立体的に構成されています。20世紀を難しい、暗いというイメージではなく、考えるべき大事な事実がたくさんあることを、伝える工夫がちりばめられています。

神奈川学園中学校

神奈川学園中学校

進路に影響を与えるフィールドワーク

社会科の学習を通して得たものが、影響していると感じた事例はありますか。

木村先生 高校生になり、社会科の中で得た視点が、徐々に自分の大学選びのコンパスのような役割になっていくことはあります。

小川先生 私が学年団として6年間かかわった学年のフィールドワークでは、水俣方面を担当しました。その時の子たちとは今も関係が続いていて、卒業後に「水俣に行く」というメールをもらった時は「○○さんに会ってきたら」とアドバイスしました。大学の生命倫理の授業で「改めて水俣と向き合うことになった」と相談を受けたこともあります。医療方面に進む子もいます。水俣を選択した時点で、もともと関心はあったと思うのですが、少なからずフィールドワークが進路に影響を与えていると思います。

木村先生 水俣方面のフィールドワークを経験した子は、川崎で行われる写真展の手伝いをしてくれたり、水俣でのボランティアを続けていたり。水俣に根ざした活動をしている子が多いようです。

沖縄の場合は、沖縄から見る世界という形で取り組んでいますので、国際政治や、世界情勢なども学びます。学習旅行がどう成り立つかというテーマで学習して観光分野の学部に進んだ生徒もいますし、沖縄からさらに幅広げて政治的なことに関心を持ち続ける子もいますね。

それはいつ行くのですか。

小川先生 今お話した子どもたちは高2で行きましたが、2年前から中3で実施しています。水俣、沖縄、四万十川、京都・奈良の4方面で、1年間、総合学習の時間を使って事前学習に取り組み、自分が選んだエリアで3泊4日、フィールドワークに取り組みます。

生徒が意志を持って行うことが大事

もともと選ばせるということが定着しているのですね。

小川先生 選ぶということは、生徒が意志をもって行うことなので、考えさせる大きなチャンスだと考えています。そこで作文に気持ちを書かせるので、私はどういう人なのか、どうしたいのかと、よく考えて選ぶことが確実にできていると思います。

木村先生 事前学習を、フィールドワークでは毎週1時間、海外研修では2時間設けています。それも3泊する旅行を、通過する旅行にしないため。自分で選ぶことと、事前学習でこつこつと学びを積み重ねることで、意味のあるものになっていると思います。

私が今、担当する学年(高2)の中にも、フィールドワークで四万十川を選択し、環境問題に興味をもって、翌年の海外研修では、同じ環境問題について深く取り組んでいるニュージーランドを選択。この2つの体験から、将来は持続可能な農業に取り組んでみたいと、農学部をめざして勉強している生徒がいます。

神奈川学園中学校 海外研修

神奈川学園中学校 海外研修

10代の生徒たちは体験の中で成長している

小川先生 私たちは中3のフィールドワークと、高1の海外研修がつながっていってもいいし、そうでなくてもいいと思っています。四万十川で環境に取り組んだけれども、海外研修はオーストラリアでホームステイをする、でもいいと思うのです。中高生あたりで醸し出された関心や意欲があれば、どこへ行ってもプラスになると思います。

また、こちらが想定を超えるようなことも起こります。例えば、トルコでサフランボルという世界遺産の歴史的な町に行きました。そこでは歴史の保護の仕方や、トルコの人々との交流を目的としていたのですが、色や街づくりに興味を持った生徒がいました。そういう見方をすることもあるのだと驚きました。日本ではあまり見られないところに目がいくのです。北半球方面では、裕福な家庭の子もいれば、路上で物売りをしている子もいます。10代の生徒たちは同世代の子の生活を敏感に受け取っていました。

インタビュー3/3

神奈川学園中学校
神奈川学園中学校1914(大正3)年に、前身である横濱実科女学校が開校。建学の理念である「女子に自ら判断する力を与ふること」「女子に生活の力量を与ふること」を背景に「自立した生き方」を実現する教育をめざしています。
2000(平成12)年からスタートした「21世紀教育プラン」のもと、学力・人間力の向上を目標にさまざまな改革を実行。2008年からのセカンドステージでは、教育プランを深化するために週6日制、先取り学習を本格的に導入。改革の成果は年々表れ、早慶上智・MARCHなどへの進学実績が大躍進しています。2011年には高校募集を停止、改革はサードステージに入りました。サードステージでは学力の育成のほか、多様な地域から選択できる全員参加の海外研修など、行事改革も行いました。
5教科では、オリジナルテキストを使用。特進クラスを作らないことも特色。高2・高3では大幅な選択科目制となり、大学進学を強力にサポート。「理科実験100」「国内FW」「探究」など、興味深い取り組みもたくさんあります。「人と出会い、社会と出会う」という基本方針のもと、中学では2人担任制や入学直後のエンカウンター、プロジェクトアドベンチャーを実施。中3の海外研修ではホームステイや現地校の授業も受講。クラブでは、バトントワリング、そう曲が全国レベルで、コーラス部や新体操も活躍。