
私立中高一貫校 帰国生OB&OGによるパネルディスカッション 後編
帰国子女相談会 in 実践女子学園 (2010.7.25取材)
去る7月25日(日)開催の帰国子女相談会への多数のご参加、誠にありがとうございました。相談会と併行して行った、「私立中高一貫校 帰国生OB&OGによるパネルディスカッション」の模様をレポートします。今春、跡見学園、渋谷教育学園渋谷、東京女学館を卒業した大学1年生の体験に、参加者は時に頷き、時に感心し、それぞれに先輩の体験に感じるところがあったようです。
前編、後編2回に分けてお届けします。
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後編
『中学受験と、中高時代』
- ▼ 司会
- 皆さんの中高のお話も聞いていきましょう。中学受験をしようと思った時期、それからその理由はなんですか?
- ▼ YK
私は1歳からアメリカにずっと住んでいて、日本語は、両親との会話で触れる程度でしたので、当時は日本語がほとんどできず、電信柱と自動販売機の違いもわからないぐらいでした。母が私の国語の力を心配し、近所の塾に小学校4年生から通わせてくれました。そこは中学受験塾だったのですが、当時はそれを意識せずに、まずは国語力をつけることが目的でした。当然、まわりは中学受験を目指している子どもばかりで、私もそれに影響されて、中学受験を意識し始めました。私は、一般受験を考えておりましたが、小6の時に東京女学館の国際学級の募集が始まり、年内に進学先を決めてしまいました。結局は、2月以降の一般受験はしませんでした。
- ▼ 司会
- 受験ギリギリまで海外にいらしたお二人は、学校見学などはされましたか?
- ▼ SK
- 夏休みの時に一時帰国をして、2校学校見学をしました。
- ▼ MT
- 私も夏休みに一時帰国をしました。姉の高校受験も重なっていましたので、そちらの方を優先して、私の学校見学は2校くらいでした。
- ▼ 司会
- 見学をされて、学校を決めた決め手は何でしたか?
- ▼ MT
- 跡見学園は母の母校でしたので、その影響が強く、当時は跡見学園のことしか考えていませんでした。母を通して、学校のことはよくわかっていましたので、特に不安もありませんでした。
▼ SK
- 渋谷教育学園は、英語の授業に魅力を感じて選んだというのが第一です。自分はあまり小学校の頃に体育が得意ではなかったのですが、見学したもう1校の方は大きな校庭がありまして、運動ができなくてはいけないような感じでした。その点、渋渋は都会の学校でプールも校庭もないので、それも選択に影響したかもしれません。
- ▼ 司会
- 通われた学校の帰国生対応のプログラムについて、教えて下さい。
- ▼ YK
- 私が通った東京女学館の国際学級は、テキストなどはネイティブの先生が教えてくださいます。英語教育にとても熱心な学級で、高校段階では日本の大学受験に対応して文法にも力を入れていきますが、中学段階は現地の中学校の教材を使ったり、アメリカの教育に沿っていました。私は一期生でしたので、最初はそういうアメリカのカリキュラムに沿ったものを中心にやっていたのですが、現在はそのカリキュラムが少し変わって、大学受験に対応した文法なども中1からやっていると聞いております。
▼ MT
- 跡見学園には、帰国生に対応した特別なプログラムはないのですが、中学1年生の終わりからレベル別にクラスを分けして、上のクラスはもちろんハイレベルの内容になります。毎年、たくさんの帰国生が入ってきていますので、私が通っていた6年間にはなかったのですが、今年から帰国子女に対応した英会話クラスができたということを聞いています。
- ▼ SK
- 渋渋はだいたい全校生徒の1割弱くらいが帰国生で、英語の授業だけは取り出し授業を行っています。つまり、帰国生でない一般生が英語の授業を受けている同じ時間に、帰国生だけ別の教室に行ってネイティブの先生の英語の授業を受けるというものでした。基本的な授業の進行は、そのネイティブの先生が管理しています。授業の内容としては、あらかじめ課題の本を宿題として読んできて、それについて授業で話したり、質問をされてディスカッションをしたりという形が多かったです。それが中1から高2まで同じようなペースと密度で続きました。高3からは、進路が日本の大学か海外の大学かによって、フレキシブルに英語の時間を使いました。
- ▼ 司会
- 渋谷教育学園というと、模擬国連などに出られる方たちも多いですが、参加した経験はありましたか?あれば、その概要から簡単に説明して下さい。
- ▼ SK
- 模擬国連はアメリカから発祥したプログラムで、実際の国連と同じように高校生あるいは大学生が議論、交渉する中で国際感覚を養おうとするプログラムです。自分の国籍とは違う国の大使になり、大使として自国の国益を考えるということが一番のポイントになります。日本でも大学や高校に導入されており、高校生の活動も盛んになってきています。渋渋の場合は、校内選考があり、いくつかの国内大会はあるのですが、自分は東京でやっている大会に高2の時に参加しました。全国の50組の高校生と一緒に2日間、半分英語で半分日本語で参加します。2人1組で参加するのですが、ぼくはアゼルバイジャンという国の大使になりました。その年は「子ども兵」の問題について、いろんな国の立場から一つの決議案を作ろうというものでした。評価ポイントは、自分の出した決議案が最終的にその50組の中で可決されるかどうかということもありますが、自国の国益と賛成を得たい国の国益でどれだけうまくバランスを取って、現実的な決議案を作れるかというところが鍵になります。
- ▼ 司会
- 国益を考えて、アゼルバイジャン大使として、どのような導きをしたのでしょうか。
- ▼ SK
- アゼルバイジャンというのは中東の国で、実を言うとあまり子ども兵には直接的には関係はありません。僕ともうひとりのペアで考えたのは、自国は子ども兵には直接関係ないし、子ども兵で苦しんでいる国を助けるだけの財力もないけれど、同じような国は他にもたくさんあるはずなので、そういう紛争からやっと抜け出してきた国を取りまとめて、その中で地域的な連携をしていこうというような目的で決議案を作りました。
『進路選択について』
- ▼ 司会
- では、現在の皆さんが通われている大学の進路選択と、自分の海外経験がそこにどのように生かされたのかについて聞かせて下さい。
- ▼ YK
- 私は中学の時からずっと数学が好きでした。最終的には文系で大学受験はしたのですが、最後まで数学も勉強しましたので、国立大学を志望していました。幅広く、数学も国語も理科も社会もたくさんやることで、私立も併願できました。慶應は受験に際し、英語を重視している学校ですので、私にとっては英語力を生かした受験ができました。英語だけでなく国語の受験勉強もしていましたので、結局は早稲田に進学することに決めました。法学部を選んだ理由は、アメリカでの生活経験から海外のことにとても興味があり、将来は国際的な仕事に就きたいと考えたからです。国家公務員I種を目指し、法律を学んだ方が将来的な視野が広がるのではないかと思い、法学部の専攻を決めました。
- ▼ MT
- 私も大学受験に対する帰国生のメリットは、やはり英語の配点が高い大学に活かせると考えます。慶應は英語の配点が大きかったので、帰国生としてのメリットが活かせました。私は経済学部に進学したのですが、ジャーナリストを目指していることと、金融関係にも興味があったので、こちらを専攻しました。慶應義塾大学は私の父の母校でもあり、進路選択にかなり影響したと思います。
- ▼ 司会
- SKくんはいろいろ経歴が面白いですが、少しご紹介いただいてもいいですか?
- ▼ SK
- 自分は高校2年の終わりにアメリカの大学を受験することを決めました。日本の大学は東京大学しか受けなかったのですが、その後に自分の行きたかったアメリカの大学の結果が来ましたので、プリンストン大学に進学することにしました。
- ▼ 司会
- 東大を受験された時には、プリンストンの結果はわかっていなかったということですね。東大生生活はいかがでしたか?印象を聞かせて下さい。
- ▼ SK
- 二重在籍はできないので、2週間だけの東大生活でした。自分はもともとアメリカの大学を志望していましたので、先入観もあるとは思うのですが…。少し大学受験に関しても絡めると、やはり日本の大学受験では先程も話の中にあったように、英語がかなり重視されています。友人たちも大学に入ってから、受験の英語と大学に入ってからの英語の授業の落差に驚いていました。日本では受験の英語が重視されているという意味で、アメリカの大学生に比べると、生徒の発言の活発さだったり、自分は勉強をしに来ているんだという感覚がやや薄いかなという印象がありました。
- ▼ 司会
- 経験してみないと語れないお話ですね。では、引き続き海外の大学の受験システムについて教えて下さい。日本の受験システムとはだいぶ違うのでしょうか?
- ▼ SK
- 海外の大学は日本の大学受験とはだいぶ違っていて、基本的には全部書類審査です。マークシート方式のような統一試験は受けるのですが、それは東京の何箇所かで受けられて、基本的に受験をするためにアメリカに行く必要はありません。高3の大晦日に書類を出して、3ヵ月、4ヵ月の書類審査を経て、結果が通知されるというかたちになります。書類を出すのは試験を受けるよりも簡単でしたので、9校受けました。
- ▼ 司会
- その中で、プリンストン大学に進学を決められた決め手はなんでしたか。
- ▼ SK
- 一番の理由は、この大学には自分のような海外の様々な国の学生がわりと多くいて、その中で自分のレベルに合って、かつ自分のレベルを伸ばせるような、結構ハードルが高い環境だと思ったことがひとつです。それから、この大学は、院ではなく学部の4年間の教育に特に力を入れていますので、アメリカ生活が久しぶりの自分としては、最初の4年間が大事だと思いましたので、プリンストン大学を第一志望としました。学生のほぼ全員が寮生活になりますので、自分も寮に入ります。
『帰国生のみなさまへ』
- ▼ 司会
- 最後になりますが、本日お集まりの帰国生、それから帰国生のお父様、お母様たちに、先輩として何かアドバイスやエールを贈るような一言をいただきたいと思います。
- ▼ SK
- 海外経験を経て、日本の中学校に入ると思いますが、どれだけ英語力を重視するかというのは人それぞれだと思いますので、一概に英語を優先した方がいいとか日本語を優先した方がいいとは言えないと思います。自分としては、せっかくそういう海外経験がある以上は、英語を保持あるいは向上させておくに越したことはないと思っています。それに関して言えば、小学生時代に海外でたくさん貴重な経験は得られると思うのですが、それは忘れやすいという面があり、英語力の保持向上を本気でしたいというのならば、聞くだけではなくて、読んだり書いたりという修練が必要だと思います。
- ▼ MT
- 日本に帰国して英語力が下がるのを心配する方も多いと思いますが、私の場合もその英語力を落としたくないという思いが強く頭にありました。日本語を読んでも英語ほどには理解できない部分があると、すぐ英語に逃げるクセがありました。それで国語の方は英語ほど勉強しておらず、大学受験で苦戦する場面が生じてしまいました。英語も大事ですが、やはり日本語の本をきちんと読んだ方がいいなとは思いました。
- ▼ YK
- せっかく海外経験をされた皆様ですので、その貴重な経験を生かすためにも英語は忘れないように、英語の映画を観たり、英語の本を自ら買って読んだりするなど、日々触れておくと良いと思います。英語は将来のことを考えてもとても貴重な言語だと思います。日本語もやはり日本で生活していく上でも、大学受験を考える上でもとても大事な科目ですので、塾に通うなり、本を読むなりしてどっちも勉強することが大切なのではないかと思います。
『質疑応答』
- ▼ 司会
- 貴重なお話をたくさん聞かせていただきまして、どうもありがとうございました。ここで、会場の皆様から何か質問等がございましたらお受けしたいと思いますが、いかがでしょうか。
- ▼ 質問者(1)
- YKさんに質問ですが、アメリカが母国のようにずっと思っていて、なぜ日本に残ったのでしょう?アメリカの大学に進学しようと思わなかったのですか。
- ▼ YK
- 海外にいた時は、最初は母国心はとても強かったのですが、日本の教育を受けていくなかで、この歳になって日本の魅力もわかるようになり、日本で勉強していきたいと徐々に感じるようになりました。
- ▼ 質問者(1)
- 今後は、大学院とかは海外に行く可能性はあるのですか?
- ▼ YK
- はい、考えています。
- ▼ 質問者(1)
- あと、もうひとつ。SKさんはプリンストン大学で何の専攻をされますか。
- ▼ SK
- プリンストンでは、入学の時は文系・理系もまったくなくて、2年間の教養課程を経ます。そういう意味でまだ、専攻は決めていません。
- ▼ 質問者(1)
- では、一応apply(出願)した時はundecided(未決定)で?。
- ▼ SK
- そうです。
- ▼ 司会
- ありがとうございました。他に何かございますでしょうか。お時間もだいぶ迫っておりますが、まだ皆さんも残っていただけるとのことですので、何か聞いてみたいなということがございましたら、個人的にお話を聞いてみてください。今日は貴重なお話をたくさんお話くださいまして、ありがとうございました。
皆さんに拍手をお願いいたします。
ありがとうございました。
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海外で家族とともに暮らした時間、異文化に身を置いた体験が、国や地域を超えて海外生活を体験した者同志の連帯のような空気が生まれるのも、このパネルディスカッションならではのものでしょうか。それぞれに環境の変化を乗り越え、将来の夢を語る姿は、これから中学受験を考える皆さまにも励ましとなることでしょう。
当日ご協力いただきました、帰国生、各学校の先生方にこの場を借りて御礼申し上げます。
日能研グローバルサービス