2月1日。
「特待生いけるかも」
そう笑っていた息子の顔を、私は疑いもしなかった。
ここまで積み重ねてきた努力を、ずっと見てきたから。
だから――
開智日本橋学園中学校、不合格。
桐蔭学園中等教育学校、不合格。
現実を見た瞬間、頭が真っ白になった。
その夜、布団に入っても眠れない。
目を閉じると、息子の顔が浮かぶ。
明日の朝、私がこの結果を伝えるの?
親なのに、どうしてこんな役目があるのだろう。
朝。
午後受験の不合格を伝えたとき、息子は小さく言った。
「あ・・・じゃあ僕、栄光学園中学校受けられないのか」
胸の奥がぎゅっと潰れた。
でも、ここで諦めさせるわけにはいかない。
「行こう。
今まで、栄光を目指して頑張ってきたのだから」
言いながら、実は自分にも言い聞かせていた。
大丈夫。まだ終わってない。
すると、息子の目に光が戻った。
子どもはこんなにも早く前を向けるのかと、逆に教えられた。
出発前の朝食。
納豆ご飯と味噌汁を、無言で食べ続ける横顔。
まるで戦に向かう人のようだった。
「まだ12歳なのに・・・」
誇らしさと、守ってあげたい気持ちが入り混じる。
あの横顔は、一生忘れない。
パパから動画が届く。
栄光の階段を、ぴょんぴょん跳ねながら上がっていく息子。
思わず叫んでいた。
「頑張れーー!!」
届くはずのない声なのに。
試験後、息子は目を輝かせて言った。
「すごい楽しかった!」
その言葉を聞いた瞬間、思った。
この子はもう大丈夫かもしれない。
結果に関係なく、前に進める子だ。
リベンジ桐蔭。
待ち時間、パパが問題の“あること”に気づき、
電車の中でも会場でも必死に伝える。
帰宅した息子が言う。
「昨日より国語できた」
その一言で、どれほど救われただろう。
兄に抱きつく姿を見て、
「ああ、全部出し切ったんだ」
と分かった。
食欲のない私たちの横で、
「お腹空いた!」とご飯を頬張る息子。
励ましているつもりだったのに、
励まされていたのは私のほうだった。
結果は聞かずに寝ると決めた息子。
強いな、と静かに思う。
23時。
時計の針が進まない。
「公立から高校でリベンジ」
そんな未来まで考え始めていた頃――
合格。
パパの雄叫び。
気づけば私も泣いていた。
安心って、こんなにも涙が出るものなんだ。
翌朝、合格を伝えると、
息子はホッとした顔で朝ごはんを食べ、笑っている。
子どもは未来を見るのが上手だ。
私はまだ昨日にいるのに。
次は逗子開成中学校。
過去問では何度も最高点。
「この学校、きっと合う」
母の勘が、静かにそう言っていた。
帰宅する頃、栄光の発表。
動画を回したけれど――届かなかった。
悔しいはずなのに、息子は前を向く。
夕方には芝中学校の対策をして、早めに眠った。
私はまた眠れないのに。
2月4日。送り出す。
これで終わるのか。
それとも、もう一日続くのか。
受験期間中、何度思っただろう。
「代わってあげたい」と。
そして9時。
パパからのLINE。
逗子開成 合格
声が出るほど泣いた。
嬉しさと同時に込み上げたのは――
「この子、こんなに強かったんだ」
という驚きだった。
最後は受験会場で迎えたい。
気づけば芝中へ向かっていた。
少し離れた場所で合格を伝えると、
息子は力強くガッツポーズ。
その瞬間、やっと思えた。
終わった。
この子は、自分の力で道を切り開いた。
21時。
最後の発表を見届け、
逗子開成への進学を決めた。
母になって知ったこと。
合格したから誇らしいのではない。
何度崩れても、
自分で立ち上がる姿を見せてくれたこと。
あの納豆ご飯の朝も、
跳ねるように上った階段も、
兄に抱きついた背中も、
全部、私の宝物になった。
受験が終わって気づく。
私がこの子を支えていたんじゃない。
この子が、私を母にしてくれていた。
栄冠は、息子の頭の上にある。
でもその光は、間違いなく家族全員を照らしていた。
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