息子の受験の意味。
親から見て、内部進学できる小学校に通っている息子が中学受験をしなくても何ら不思議ではなかった。息子の性格からしても、強い意志をもって中学受験をやり抜くことは想定できなかった。息子がなぜ中学受験をしたいのか?男子校に行きたいから、今の学校がいやだから。本人はそう言うが本心なのか?今でもそれはわからない。そして、私が算数を教えるときに常にいっていた言葉。式だけを書かずに絵や図や言葉を書いて、その式の意味がわかっているのかをはっきりさせなさい。数字はきれいにかきなさい。わからなかったら先生に聞きなさい。最後の最後まで、それらが達成されることはなかったように思う。勉強が好きなようにも見えなかった。
ただ、一つだけわかったことがあった。それは日能研が好きだったことだ。1度か2度テストを受けることを嫌がった時があったことは記憶しているが、授業に行きたくないと言ったことは一度もなかったと思う。テストの度に成績順で席がかわり、前の方に座れることはほとんどなかったが、それでも授業には行き続けた。そして息子は受験を最後まで駆け抜けた。
「1月受験は2月受験のための練習」という言葉をそのまま体現するのであれば、本番を想定した練習をしたい、模試でできないことをするべきではないか、そう私自身は思った。試験問題を解くというのは、思った以上に体力がいることを中学受験経験のない私が、息子の隣で過去問を一緒に解いたときに抱いた感想であった。日能研では校外模試があり、実際に受験する学校や初めて訪れる学校で受けることができるため、そのリアルさは体験することができる。では1月受験でしかできない練習とは何か?それは午後受験と連日受験である。息子の第一志望を考えたときに、どんなに早く2月受験での本番が終わるとしても、2月2日午前までは受けなければならない。ということから、日能研の先生に相談した上で、1月受験で1日に午前午後受験をし、その次の日も午前受験をするという計画を立て、3校を受験した。
1月受験1日目の午前受験を終えた息子は、浮かない表情ででてきた。午後受験に移動する途中、受けたくない、受けてもしょうがないという発言があり、正直私も本番ではないし、無理強いしすぎているとも思った。ただ、2月受験本番の初日はチャレンジ校であるため、十分にこのような精神状態になることは想定された。いわばそのための1月3校受験であり、そのような精神状態になった時点で午前午後受験の意味があったと感じた。
結果は3校とも合格をいただいた。結果ももちろんではあるが、息子が集中力を維持して2日間乗り切ったことがなによりも収穫だったと思った。
しかし2月本番はそんなに甘くはなかった。1日午後の第三志望には合格したが1日午前、2日午前は不合格であった。それだけではなく3日も4日も5日も受験校から合格はいただけず、想定できる中での最長の戦いとなった。息子は不合格でも泣いたりせず、感情を前面に出すことはなかった。それが逆に親にとって苦しかった。体験記によくある、塾の先生の声を聞いて、流れを変えようといったことを提案して話しをさせたが、ほとんど会話は続かなかった。泣いて部屋にこもって、切り替えて次の日に臨むといったことも一切なかった。我が家の受験は厳しい現実を突きつけられたまま過ぎていった。
6日午前に5日受験校の不合格がわかり、その日の午後、私と妻で入学予定となった学校まで行くこととした。というのも、第三志望とはいえ、訪れたことがあるのは私と息子だけで、それも学校説明会ではなく、公開模試と受験で行っただけであった。妻にとってみたら恥ずかしい話、「初めて行く学校」であった。息子がどんな景色をみて学校に通うのか、それを早く体験して現実を受け入れるために訪れた。私はすでに切り替えていた、言葉では。言葉も切り替えられなかった妻が隣にいた。しかしそれが現実である。
7日朝8時45分、私の1週間の仕事休みの最終日、受験ロスになっていた私。妻の横にあった携帯が鳴った。妻の電話の対応を見て、繰り上げ合格の電話であることを察した。第二志望の繰り上げ合格であった。受験期間の中で初めて我が家に春がきた瞬間であった。急いで入学手続きに向かった。正直、このご時世、電話だけでは本当に繰り上げ合格なのか信じられなかった。学校で合格証をもらって、初めて信じることができた。自分で印刷する合格証よりもしっかりとした紙質、2月7日という特別な発行日は、息子がいままで頑張ってきた勲章のような気がしてならなかった。
時が経ち、冷静になってから受験した学校のR4の偏差値を見返してみると、1月受験校で、合格最低点を4点上回って合格した学校と2月に繰り上げ合格をいただいた学校の偏差値の違いは1。つまりR4の偏差値だけでみると、息子の最終的な偏差値がその間であることがリアルにわかる結果となった。ちなみに受験前の最後のテストの偏差値はそれよりも3低かった。日能研のデータの緻密さに驚かされるとともに、息子なりに最後まで挑み続けて勝ち得た結果と感じた。
普段、妹に対していじわるな言葉しか言わない兄。3月になった今、その兄が新小4になる妹に優しく教えている姿を見ると、中学受験は例え、第一志望に受からなかったとしても、人間として大きく成長させてくれる経験であることに違いないと確信している。
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