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キッズレーダー 2010年9月号
声の贈りもの
読み聞かせは、親子の対話です

声の贈りもの
読み聞かせは、親子の対話です

「自分に向かって声がかけられている」という感覚を子どもが持てるとき、親子の間に「橋」がかかります。
声は、人と人とが感情をわかち合うために、もっとも大切なものです。
今月号の特集はこの「声」をテーマに、言語造形家の諏訪耕志先生にお話を伺いました。
親子の間の声の大切さや、「読み聞かせ」のアドバイスなど、声や言葉にまつわるさまざまなお話を語っていただきました。

お話をお聞きした方

諏訪耕志先生

言語造形家・朗読家
諏訪耕志 先生

1964年大阪市生まれ。
関西学院大学商学部卒業。大阪全日空ホテルANAシェラトンにて勤務ののち、アフリカ大陸にて一年間旅をする。1994年よりルードルフ・シュタイナーハウスにて言語造形家鈴木一博氏に師事。現在、舞台公演、朗読・語りの会、講座などをとおして活動中。

「声」という親子のかけ橋が、子どもの感情の土台を育む
「はじめに音ありき」。「言語造形」という学びの場について

諏訪耕志先生が携わる「言語造形」とは、さまざまな音や言葉に耳をすませながら声に出すことで、「言葉のかたちや動き」を学ぶ場であるそうです。
「いま、『ゴロゴロ』という雷の音が聞こえますね。
たとえばこの、『ゴロゴロ』という言葉を声に出してみると、なにかギザギザとした『言葉のかたち』が動いている姿が心に浮かぶのではないでしょうか。また、『すこし怖いな』という気持ちも生まれてくるかもしれません。『声』というものは不思議なもので、出すことによって、そこに生まれた自分のさまざまな感情に出会うことができます。だから私たち人間は、人との声による対話を通じて相手の気持ちや、自分でも気がつかなかった自分の感情を発見することができるのかもしれません。
このことは、子どもにとってとても重要です。子どもが言葉を使って自分の感情を生き生きと伝えるためには、まず聴覚を通じて『感情の土台』をつくることが何よりも大切だからです。『音のかたちや動き』は目に見えるものではありませんが、そこには子どもならではの自由なイメージの空間が広がっています。人間の聴覚に寄り添い、声に触れ、言葉のかたちや自分の感情に出会う学びの場、それが言語造形です」

「声」は子どもにかける「感情の橋」。「いちばん伝わる」のは誰の声?

諏訪先生を言語造形に導いたきっかけは、一年間にわたるアフリカ大陸旅行。スワヒリ語を一から学び、人々との交流を重ねた一年だったそうです。
「言葉を話すことの最初の喜びを、大人になってもう一度体験することができた一年でした。『もっと心をこめて言葉を使いたい』という願いが、私を言語造形に向かわせたのかもしれません。子ども達にも、たくさんの声に触れ、『言葉を話す喜び』を味わってもらいたいと思います。
子ども達にとって、いちばん身近で大切な声は『お母さんの声』です。お母さんが、子どもを胸に抱きながら歌を歌ってあげる。この声は子どもにとって、『ほかの誰のものでもない、自分だけに向けられた声』だからです。たとえ子どもが、その歌の意味がわからなかったとしても、お母さんの息づかいを身体全体で受けとめて、その一体感を心地よいと感じることができるのです。声は、親子の間に『感情の橋をかけるもの』と言えるかもしれません。保護者の方には、『言葉の一音一音をゆっくりと先を急がず、自分の感情を味わいながら子どもに語りかける時間』を持っていただきたいと思います。子どもも、言葉に込められた親の感情に気づいてくれるはずです。やがて子ども達は文字に出会い、言葉を文字で表現する過程をたどりますが、聴覚を通じた言葉の感情と合わさったとき、子どもの表現はより味わい深いものとなるはずです」
人と人が「感情をわかち合う」声という存在。その基盤を支えるのは、言葉に込められたさまざまな感情。聴覚や声をあらためて意識してみることで、さまざまな気づきが生まれそうです。

「読み聞かせ」で深まる、親子の一体感、ファンタジーの世界
ともに感じ、ともに気づく。感情の共有が生む「一体感」が、読み聞かせの魅力

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ここ数年、子どもに物語を朗読する「読み聞かせ」が話題になっています。「声」という視点からみて、読み聞かせは、子ども達にどんな影響を与えるのでしょうか。
「読み聞かせの魅力は、自分ひとりで本を読む、『黙読』とくらべてみるとわかりやすいのではないかと思います。黙読は人間の視覚を使って物語を読んでいきます。このとき、自分の心のなかで声を出し、それを聞きながら読み進めるプロセスをたどります。これに対して「読み聞かせ」では直接、子どもの聴覚に言葉が入ってきます。よりダイレクトに言葉への感情が生まれるのです。そして大切なのは、読み手が『お母さん』であるということです。お母さんの声に触れることは、子どもにとって親が物語のなかの世界を一緒に歩いてくれているという、幸福な一体感を感じることができる時間です。よく、子どもが同じ本をくり返し読んでほしいと親にお願いするのは、この『一体感』をふたたび味わいたいからなのです。読み聞かせは、親から子どもへの一方通行ではありません。子どもに、より一体感を感じさせてあげるためならば、アドリブを使うことも大いに結構なことだと思います」

子どもの想像力は無限。「声」で広がる、子どものファンタジーの世界

読み聞かせは、親の声を通じて子ども自身が物語の主人公になることができる場。諏訪先生によれば、このことは、「子どものファンタジーの世界」を広げることにつながっていくとのことです。
「たとえば、昔話などで『雪が降っているシーン』があれば、子ども達は親の声を通じて『雪』を体験することになります。そこで描かれている風景を目にしたことがなくても、雪の光景を心のなかに描くことができるのです。このように、『今まで一度も見たことも、触れたこともない光景』を子どもに読んで聞かせてあげることは、とても大切です。大人にとっては当たり前の光景でも、子どもにとっては一度も見たことがないぶん憧れがつのり、大人には想像できないような子どものファンタジーの世界が広がっていくはずです」

「間」で気づく、言葉の感情。より素敵な「声の贈りもの」のためのヒント

最後に、諏訪先生からこれから読み聞かせに取り組もうとする保護者へのメッセージをいただきました。
「読み聞かせを通じて子どもに幸福な一体感を与えてあげられるよう、子どもと一緒に親も言葉の感情に気づき、それを子どもとともに感じてください。子どもは親が自分と同じ気持ちでいてくれることを、理屈ぬきでうれしいと感じるものです。言葉を子どもに伝える前に一呼吸おいて、まず自分が感じてみる。言葉を贈ったあと、また一呼吸おいて子どもに届いた言葉を見届ける。この『数秒の間』が、子どもが親との一体感を感じるためになによりも大切なことなのです」「声」は私たちにとって身近な感情の表れ。読み聞かせを通じて、親子の間の「贈りもの」として、互いの声に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

言語造形研修レポート

「一音一音をていねいに」で生まれる言葉への感情
インタビュー当日は、諏訪先生を講師に、日能研スタッフを対象にした言語造形の研修が行われました。
具体的な題材を使ったワークショップ形式の研修の模様をお届けします。

「何」よりも「いかに」伝えるか

研修の題材に選ばれた物語は宮沢賢治の『やまなし』。賢治の代表作でもある幻想的な童話です。
参加者による朗読がはじまりました。最初は、言葉を正確に追うことが精一杯。気がつくと朗読のペースも速くなってしまいます。
そんな参加者に「間違えてもかまいません。まずは、一音一音をていねいに発音して、『読み手に言葉を贈っている』という気持ちを意識しましょう」と、アドバイスする諏訪先生。言葉は「音のプレゼント」。贈りものを選ぶときと同じように、相手の好みや気質に目を向ければ、「伝わる言葉」が生まれます。
「大切なことは、一音一音をていねいに語ること。そこから自然と『間』が生まれます。この『間』のなかで言葉への感情が生まれ、子どもにとっても自由な想像力を育む場となります。大人の感情を子どもに押しつけない話し方を心がけることが大切です」と諏訪先生。研修後のふり返りの時間では、「言葉を生き生きと使う楽しさを学んだ」「言葉の美しさをあらためて感じた」という声もあがりました。
「何を伝えるかよりも、いかに伝えるか」を参加者それぞれが学び合う研修となりました。

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言語造形を体験できる「ことばの家」
諏訪先生が主宰する「ことばの家」では、言語造形によってことばを生き生きと語ることを学ぶ講座・ワークショップを、関西を中心にさまざまな場所で開催しています。
http://www.kotobanoie.net/


親子で楽しむ「言葉の世界」
「読み聞かせ」をより楽しむためのヒント

今回の特集を通じて、「読み聞かせにチャレンジしてみよう!」とお考えの保護者の方も多いと思います。
また、すでに読み聞かせに取り組んでいる保護者の方からも、「感情をこめて読んでいるのだけれど、なかなか子どもに伝わりにくい」といった悩みの声も聞かれます。
諏訪先生のアドバイスをもとに、読み聞かせをより楽しむためのヒントをご紹介します。

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【ポイント1】 一音一音をゆっくりとていねいに

子どもが物語の世界で自由に想像力を働かせるのは言葉と言葉の間の「沈黙の時間」。この「間」を通じて、子ども達は背景の描写や、主人公の気持ちなどを想像し、その子自身の「物語」を作っていきます。背筋を伸ばした正しい姿勢で、言葉の一音一音をゆっくりとていねいに読みましょう。自然と「間」が生まれ、子どもの想像がふくらむ時間となります。


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【ポイント2】 感情をこめるより、わかち合うこと

たとえば、「鬼」が登場する物語を読んであげるときに、本物の鬼さながらに声色をおおげさに変えたり、声量を上げてしまうと、子どもが怖がってしまいます。読み聞かせが「親の感情の押しつけ」にならないためにも、「鬼になりきる」ではなく「鬼の気持ちを子どもと共有する」イメージで読んであげることが大切です。


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【ポイント3】 物語の「絵すがた」を感じながら読む

読み聞かせは、子どもの想像力が育まれる時間。その視線は読み手のお母さんをじっと見つめています。このとき、子どもは、親の目の向こうに物語の風景を見ている、といってもいいでしょう。子どもと一緒に読み手である大人も、物語の風景を思い浮かべながら読むことで、子どもの想像力がより豊かに育まれます。


『キッズレーダー』おすすめ絵本
子どもに読み聞かせたいお話

特集の最後に、編集部おすすめの絵本を5冊紹介します。
「読み聞かせのヒント」を参考にしながら、子ども達へ、たくさんの「声」をプレゼントしてあげてください。
やがて、子どもの心からその子自身の「声」が生まれるはず。
読み聞かせを通じて、より素敵な親子の絆が生まれることを願っています。

読み聞かせのスタートは「昔話」から

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『だいくとおにろく』
松居 直 再話 赤羽 末吉 画
<こどものとも>傑作集 福音館書店 840円

このお話は、元の話から大きくストーリーが変わっていない、とても希少な昔話の一つです。古くから伝わるお話には普遍性があり、だからこそ世代を超えた共感を生むのです。大きな大きな川に橋をかけようとする大工。それを邪魔しようとするオニ。このふたりのやり取りが、ユーモラスに描かれています。紹介したページの文を、声に出して読んでみましょう。諏訪先生のアドバイスにもある「絵すがたを思い浮かべながら、大げさに感情をこめず、一音一音をゆっくりとていねいに」読むことで、民話の独特な語りも楽しむことができるでしょう。


たくさんの子どもの「笑顔」に出会える一冊

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『へびのせんせいとさるのかんごふさん』
穂高 順也 ぶん 荒井 良二 え ビリケン出版 1,680円

『さるのせんせいとへびのかんごふさん』の続編です。一日だけ、へびがせんせい、さるがかんごふさんに、入れ替わることになりました。病院にやってくる動物たちへの治療のこっけいなことといったら。本当にこんなせんせいとかんごふさんがいたらどうなってしまうのでしょう。親子で笑い声をあげながら楽しめる一冊です。


家族全員で「落語」を楽しもう!

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『落語絵本 はつてんじん 初天神』
川端 誠 クレヨンハウス1,260円

初天神とは、新年を迎えてから初めて天満宮にお参りに行くことを言います。お参りにでかけた親子のお話。「わたがしかって」「わたがしはどくだからだめだ」「じゃあ、かるめやきかって」「あれもあまくてどくだ」「じゃあ、……」という親子のやり取りが続きます。軽快な親子のやり取りで盛り上がること、間違いなし!


子どもの心に「安心」をプレゼントする一冊

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『だいじょうぶだいじょうぶ』
いとう ひろし 作・絵 講談社 1,365円

だれでも困ったことがあったときに、「だいじょうぶ」そんなふうに言ってもらえて、ほっと安心した経験があるでしょう。ぼくとおじいちゃんのほのぼのとした温かい関係に、胸がじーんとしてきます。「だいじょうぶ、だいじょうぶ」、ゆっくりとじっくりと読んでみてください。


親子で楽しむ「ファンタジーの世界」

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『雪の日のかくれんぼう』
大村 祐子 作 ほんの木 1,680円

春夏秋冬の四季をテーマにした四つのお話が入っています。妖精やお姫様、マジシャンなどが出てきます。読み聞かせをとおして、子どもたちは自由にファンタジーの世界に入っていくことでしょう。夏に雪の話? と思うかもしれませんが、雪景色を思い浮かべることができたら、暑さもふっとぶかもしれませんね。


※書籍の価格はすべて税込みです

(キッズレーダー 2010年9月号 P.1~12より)

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