シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

田園調布学園中等部

2017年06月掲載

田園調布学園中等部の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.筆者の主張を受け取るだけで満足せず、伝え方にも着目してみよう。

インタビュー1/3

内容と構成に優れた文章

佐藤先生 入試問題を作るときに、私たちが文章を選ぶ一番のポイントは、受験生にとって向き合ってほしい文章かどうかです。この文章は、今の小学生にぴったりで、ぜひ読んでほしいと思いました。
手のひらにあるスマートフォンで情報が簡単に入る時代。それで知ったつもりになる世の中で、「体験が大切である」ということを、宇宙飛行士の野口さんが自身の感動をもって書いていました。
普通の人ができない体験をしていますが、それだけではなくて、小さなことにも体験の重要性があることを伝えているので、小学生であっても遠いところの話ではなく、身近なところの話として響くのではないかと思いました。

また、表現の仕方もよいと思いました。具体的には、具体・抽象や対比表現などが盛り込まれている点です。例えば、彼の体験(具体)だけでなく、それにより考えたこと(抽象)も述べられています。知ることと体験することの違いもきちんと対比されて述べられています。文章の内容だけではなく、展開といった構成の面でも受験にとって向き合うのにふさわしい文章だと思います。

国語科主任/佐藤希世子先生

国語科主任/佐藤希世子先生

記述問題では問題の意図を読み取ることが大切

佐藤先生 受験生に自分の考えをただ書かせるのではなく、文章をふまえるということを前提にした問題をつくりました。問題に「この文章の『体験の重要性』の説明をふまえて」とありますから、この文章の構成をふまえて自分の考えを書くことがポイントになります。文章の構成をふまえて書かなければいけないということをわかっている受験生は、知っていることと体験とを対比させて、体験により得たことを書いていました。つまり具体から抽象へ展開する文章を書けていました。

採点のポイントは具体・抽象・対比・論理性の4点

佐藤先生 採点のポイントは、4つ設けていました。1つ目は具体的な体験の記述があるか(具体)。2つ目は具体的な体験から得たこと・考えたことが述べられているか(抽象)。3つ目は知ることと体験することの違いを述べているか(対比)。4つ目は具体的な体験、体験によって得たこと、知ることと体験することの違いを筋道立ててきちんとかけているか(論理性)。その4つをポイントに採点しました。ですから、どのような体験であってもかまいません。体験の内容が減点対象になるということはありませんでした。

細野先生 この問題の正答率は、満点が10%。部分点が77%でした。残りの13%が点数を取れなかったということになります。

佐藤先生 時間が足りずに書けなかった受験生もいれば、こちらの意図する答えが書けていなかった(4つのポイントが1つも書けていなかった)受験生もいるということです。

部分点の受験生は、4つのポイントのうち、どこにつまずいていましたか。

佐藤先生 やはり抽象化するということが苦手のようでした。具体的な体験は書こうと思えば書けますよね。そして「私はこう思っていたけど、実はこうだった」という、知ることと体験との対比も書けますが、「そこから何を得たのか」という抽象化までたどりついた受験生は少なかったです。抽象化までできている受験生はかなり(もととなる文章を)読めているので、おそらく筋道立てること(論理)もできて、満点が取れていると思います。

田園調布学園中等部 プラザ

田園調布学園中等部 プラザ

筆者の伝え方まで理解することが大切

難しい問題ですね。

佐藤先生 国語での「読めた」ということは、結論や筆者の言いたいことを理解するだけでなく、その構成も含めて理解する、ということだと思います。ですから、文章を読み、その内容を踏まえて書くという問題が出たときも、ただ読むのではなく、筆者の伝え方まで理解することが大切です。今回の出題を通して、そのことを再確認しました。

細野先生 そこは中学に入ってからも鍛えていかなければいけないところだと思います。

受験生はどんな体験を書いていましたか。

佐藤先生 農作業など小学校の総合的な学習の時間の体験を書いている受験生が目立ちました。得たことまで書こうとすると、小さな体験よりも、大きな体験のほうが言語化しやすかったのかもしれません。

細野先生 書きやすくするために、字数指定はしていません。解答用紙には経線だけを引いて、1行20字から25字くらいのイメージで6行分、用意しました。

佐藤先生 結構、書いてくれていたと思います。受験生の、伝えようという気持ちが伝わってきました。

細野先生 事前に、こういう問題が出るというアナウンスをしていたので、受験生は書かなければいけないという気持ちで臨んだのではないでしょうか。

田園調布学園中等部 校舎

田園調布学園中等部 校舎

思考力、表現力を問う問題を全教科で工夫

こういうタイプの問題は、毎年出ているのですか。

細野先生 基礎学力をきちんと見ながら、思考力、表現力も見るというのが本校の入試なので、これまでも思考力、表現力を問う問題は出していましたが、「今年はこれまで以上にしっかりと出していく」ということが、作問の共通認識としてあり、こうした問題をすべての教科で配点の30%程度出題しました。

佐藤先生 国語科としては「自分の考えを書く形式の問題を出したい」ということになり、それにふさわしい文章を探す中で、この文章を見つけました。

書くことに自信をもつ生徒が増えている

入試を変えたことによる変化を感じますか。

細野先生 私は中1の授業を担当しています。入試を変えたことによる成果かどうかはわかりませんが、生徒に考えさせるときに、「近くの人と少し話してもいいよ」と言うとすぐに話し始めます。そういうところは、3、4年前と比べると変わってきていると思います。また、問題を解かせて、途中式などを黒板に書かせるときに、「近くの人と確認し合って、できた人から前に出て来て書いてね」と言います。つまり、指名しないで、自由に書かせるスタイルを取っているのですが、みずから立ち上がる生徒が増えているように思います。

全教科で考える問題、表現する問題をより多く出すことにより、受験生は準備をしてきているでしょうから、書くことには自信をもっているのではないかと思います。そういう意欲を活かして、学力も伸ばしていかなければいけないと、強く感じます。

1つの教科だけでなく、学校をあげて取り組んだことが、より大きな成果を生んでいるのかもしれませんね。

細野先生 何ごとも「みんなでやる」というのが本校の基本姿勢です。例えば3年前に、協同探求型授業(アクティブ・ラーニングを取り入れた授業)を導入したときも、すべての教科で試行錯誤しながらやってきました。

田園調布学園中等部 精進の鐘

田園調布学園中等部 精進の鐘

インタビュー1/3

田園調布学園中等部
田園調布学園中等部1926(大正15)年に日本郵船の外国航路の船長だった西村庄平が、日本の女子教育の重要性を痛感、「精進道」の提唱者として知られる川村理助を初代校長として招聘、創設した(当時の名称は調布女学校)。67(昭和42)年に調布学園女子短大を設立。2002(平成14)年に田園調布学園大学が開学。03年から高校募集停止。04年には田園調布学園中等部と改称した。
緑深い田園調布の住宅街の一画に校地を構え、環境は抜群。04年4月より現在の校舎を使用開始。新たにラウンジ、プラザ、CALL教室などができた。2階から5階までの屋上は回遊式庭園で語らいとくつろぎの環境も備えている。
自分本位の我(が)を捨て、目標に向かって努力し続けること、他人(ひと)よかれと行動すること、という意味の「捨我精進」を建学の精神とする。朝礼では「精進の鐘」が打ち鳴らされ、全生徒・教職員が黙想。伝統も重んじつつ進取の精神にも富み、国際交流にも積極的に取り組んでいる。
02年から2期制、65分授業、1日5限・週5日+土曜プログラムを実施。英語は中1から1クラス2分割授業。進度が速いだけでなく、言語の背景にある文化や歴史にまで理解を深めていく。英・数は中3・高1で5クラスを3グレード7クラスに分ける到達度別授業を実施。生徒の約9割が現役で4年制大学に進学。早慶上智、東京理科大学やICU、MARCHレベルの難関私大に多くの合格者を出しているが、年々、国公立大学の合格者も増えている。
「土曜プログラム」は、講師も大学の先生や保護者など多岐にわたる。学年ごとにテーマを設定した「コアプログラム」と約170もの講座から自由に選択する「マイプログラム」で構成。体験学習の機会も多い。農村生活体験をする山形県酒田市ファームステイ(中2)、志賀高原体験学習(中1)、裁判所傍聴(中3)、学習体験旅行(京都・奈良)(中3)、学習体験旅行(西九州方面)(高1)、オーストラリア・カナダへのホームステイ(中3希望者)、ニュージーランドターム留学(高1・高2希望者)などなど。なでしこ祭、体育祭、芸術鑑賞教室、定期音楽会、百人一首大会、スキー教室などの行事もある。クラブ活動も活発で、運動部13、文化部14、研究会4が、中高合同で活動している。朝掃除や精進日誌など以前から取り組んでいた教育活動も大切にしながら、新しいことにも挑戦を続けている。