シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

栄光学園中学校

2017年05月掲載

栄光学園中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2. 説明の根拠をあいまいにしておかない

インタビュー2/3

おもしろい問題で受験生を喜ばせたい

入試問題の作成にあたり、どんなことを心がけていらっしゃいますか。

井本先生 本校の出題傾向が小学生の勉強に影響を及ぼすことを肝に銘じて作問しています。受験生が、例題主義のつまらない勉強に陥らないように留意しています。私はいつも子どもを驚かせたい、ワクワクさせたいと思って問題を作っています。
「問題を解くのがおもしろい」という動機であれば、わかることを絶対にごまかしません。中1に本校の志望理由を聞くと「栄光の算数の問題がおもしろいから」という回答が結構多く、作問者としてうれしく思っています。

数学科/井本陽久先生

数学科/井本陽久先生

ひらめきは降りてくるものではなく「先を見通す力」

井本先生 算数・数学では、よく「ひらめき」について言われます。ひらめきは解法が降りてくるかのように思われますが、ひらめきで解けることはほとんどありません。正解までの過程を「見通す力」によるところが大きいと思います。ゴールまでの道のりを見通せる人は、見通しが利かない人からすると“降りてきた”ように見えるのです。
先を見通す力は、ちゃんとわかること、多面的に理解することをごまかさないことで獲得できます。問題を解く中でどうやって解けばいいか悩み、正解できても理解があやふやなところは放っておかず、食らいつくことです。学びの第一歩は、子どもが自由に選択して試行錯誤することです。

中学で得意だった数学が高校で苦手になる理由

井本先生 「まじめさ」には限界があります。まじめさだけだと、「ちゃんとわかっていないけれど、要求されたところまではできるからいいや」と思います。問題を解くのが楽しいと、正解しても「なぜこうなるのか、もっとわかりたい!」と思うので、別解を考えるなど試行錯誤して、自分でどんどん学びを進めます。
中学では数学が得意だったのに、高校になるとできなくなることがよくあります。中学の数学は、解法のパターンを覚える例題主義の再現力と少しの応用力があれば、つまり、まじめに取り組めば成績もついてきます。
ところが一気に抽象度が高くなる高校の数学は、例題主義の再現力だけではとても太刀打ちできません。問題を解いてわかることが楽しいとか、どんな解き方ができるかおもしろい解法を見つけようと、躍動感のある学習をしていないと、たちまち壁にぶつかってしまいます。
「将来、役に立つから」と言われてまじめにやった勉強も限界があります。役に立つかどうかわからないけれど、生徒の心に「数学がおもしろいと興味の火をつけたいと思っています。

栄光学園中学校 図書館

栄光学園中学校 図書館

論理的にわかるために、根拠をしっかり把握する

井本先生 本校の授業は、数学に限らず「生徒から」ということを意識しています。「自学自習」は、放ったらかしではなく、生徒が自ら学習したくなるように働きかけることが前提です。生徒が「おもしろい」と思えること、興味を引き出すことに最も力を注いでいます。
生徒が「数学が楽しい」と思うのは、「ちゃんとわかった」ときだと思います。中1から、「ちゃんとわかる」とはどういうことかを身につけさせます。1つは、「論理的にわかる」ことです。論理的に考える習慣を身につけるには、説明にどの根拠を使ったか、常に意識することです。
中1に証明を書かせて「この説明の根拠は?」と聞くと、結構答えられません。また、直感的に解いていると、何となく根拠を使っています。間違えるときは、前提となる根拠のつじつまが合わなかったり、当てはまらない根拠を使っていることが多いものです。

根拠を記号化し、わかったことを“らくちん”に表現

井本先生 私は書き方の指導よりも根拠の把握に力点を置いています。「この説明の根拠は何?」と生徒に聞いて根拠をごまかさないようにしています。根拠をしっかり把握していれば、ミスしても原因をたどることができます。ミスしないことを目指すよりも、「ミスは起こり得る」ことを頭に入れて、ミスしても対応できるようにします。
私の授業では、証明の大前提であり出発点となる「公理」を6つ設定しています。どんな方法で証明してもいいけれど、6つの公理以外を根拠に使わないこと。ほかの根拠を用いるときは、根拠をこの6つの公理だけで証明するのが“ルール”です。
6つの公理には記号をつけており、その公理を使うときは記号を書くだけでいい。これなら簡単に「きちんとわかった」ことを表現できます。根拠を記号化することで、生徒はゲーム感覚で根拠の把握を身につけられます。
記号化はごまかしが利きません。しかも思考のスピードを落とさないので見通しを立てやすい。論理の文章化は面倒なだけでなく、思考を減速させるため見通しを立てにくくしてしまいます。公理の記号化は一石二鳥で論理が楽しくなる方法だと思います。

栄光学園中学校 図書館

栄光学園中学校 図書館

結果よりプロセス重視で別解がたくさん出る

井本先生 もう1つ、「ちゃんとわかる」ためには、「多面的に理解する」ことも必要です。
例えば、「12人の子どもが一列に並んでいます。前から6番目の太郎君は、後ろから数えて何番目でしょうか」という問題で、当時小学校3年生だった私は、12−6=6番目と答え、間違いと言われてびっくりしたことを覚えています。
実際に書いて後ろから数えると、後ろから7番目でした。このとき私は、なぜ「12−6=6」ではないのか、この引き算で示されることは何か、「7番目」と出すにはどんな理屈が必要かと考えました。私はこのとき初めて多面的な理解を経験し、結果よりもプロセスに興味を持つようになりました。
「根拠の把握」と「多面的な理解」が身につけば、「ちゃんとわかる」ようになり勉強が楽しくなります。すると、子どもは自ずと学び進むので、どんどん伸びていくでしょう。
私の授業ではプロセスを大切にしているので、別解がたくさん出てきます。解答は生徒みんなで共有します。授業中にプリントの問題を解き、それを集めてチェックして、次の授業で解答・解説のプリントを配布します。プリントには誰が、どんな解き方をしたのか、さらに、別解を考えた生徒の氏名は太字で記載します。生徒は太字の“称号”を得ようと、がんばって考えてきます。

栄光学園中学校 図書館

栄光学園中学校 図書館

インタビュー2/3

栄光学園中学校
栄光学園中学校1947(昭和22)年、イエズス会運営の中学・高校として横須賀に創設。初代校長はグスタフ・フォス師。1957年に設立母体の上智大学から独立、学校法人栄光学園となり、1964年現校地に移転する。当初はしつけの厳しさで知られたが、1970年代からは進学校として一躍全国的に知られるようになった。
キリスト教的価値観に基礎を置き、「生徒一人ひとりが人生の意味を深く探り、人間社会の一員として神から与えられた天分を十全に発達させ、より人間的な社会の建設に貢献する人間に成長するよう助成すること」を教育理念とする。ただし正課として宗教の授業を設けたり、礼拝を義務付けたりすることはない。6年間完全中高一貫教育、通学時間の制限などを堅持している。
2017年、新校舎が完成した。低層2階建てで、2階部分は木造校舎。教室から容易に大地へ降りられ、人が自由に集えるスペースを設けられていることで、仲間や先生との交流を自然に育める環境づくりがされている。豊かな自然環境を生かしながら、先進のコンセプトを取り入れた「みらいの学校」である。約11万m2の校地は、首都圏私立中学校のなかでも有数の広さ。トラックフィールド、サッカーグラウンド、テニスコート、バスケットコート、野球場などを備える。そのほか、コンピュータルーム、聖堂、図書館などがある。丹沢札掛には山小屋がある。
中高6年間を初級・中級・上級の3ブロックに分け、各発達段階にふさわしい指導目標を掲げ、適切な指導方法を工夫しつつ教育を実践。決して「進学校ではない」としながらも、カリキュラムの内容はレベルが高く、進度も速い。英語は『ニュートレジャー』を使用。初級では日本人教師と外国人教師のペアで行う授業があり、中学2年~高校2年ではGTECの受験を義務付けている。高校1年では週1時間、必修選択の「ゼミナール」があり、中・韓・スペイン語の講座、マジック研究、料理研究、プログラミングなど、授業では扱わないテーマの講座も行っている。その中には、毎週異なるOBを招き、多角的に話を聞く講座もあり、放課後は他学年も聴講ができる。
イエズス会運営の学校独自の「中間体操」のほか、30kmを踏破する「歩く大会」など体を鍛える行事が多い。大船駅からの、通称「栄光坂」を通学することも鍛練の後押しになっているようだ。「愛の運動」と呼ばれるボランティア活動では養護施設などへの訪問や、クリスマスの施設招待など、カトリック校らしい多岐にわたる運動を実践。
課外活動としての聖書研究会への積極的な参加も呼びかける。フィリピンの姉妹校との交流は単なる語学研修ではなく、アジアの国に住む人とのふれあいから、自らを振り返り、成長する機会としている。また、イエズス会の運営する大学のボストンカレッジで、アメリカの高校生とともに学ぶカトリック・リーダー研修もある。クラブ活動は原則として全員参加。活動は週2回だが、工夫して熱心に活動している。