出題校にインタビュー!
成蹊中学校
2017年04月掲載
成蹊中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
3.生き物が本来もっている生き抜くための力、適応力や直感力を磨こう。
インタビュー3/3
昆虫採集や釣りが好きな子どもだった
先生と理科(生物)のかかわりを教えてください。
佐藤先生 小さいころから自然が大好きでした。昆虫採集をしたり、釣りをしたりして育ちました。それがおもしろかったので、自分がおもしろいと思っているものを伝えたいと思ったのが教員になったきっかけです。
ゲームをやるよりも、外で昆虫採集をしたり、釣りをしたりするほうがおもしろかったのです。まさにポケモンの本物バージョンです。昆虫採集も昨今、タブー視されつつありますが、採集する行為は重要だと思っています。「自分のものにする」という考え方はよくないですが、間近でじっくり見るということでは致し方ない部分もあると思います。自然観察で見られないものは、捕ってくるしかないですよね。解剖もそうですが、殺すことで、その生き物をしっかり見ることができます。「詳細はどうなっているのか」「もっと見たい」という欲求が生まれます。その欲求がとても大切なので、私は、最小限の殺生は必要なことだと考えています。
中1の授業では、(キャンパス内にある)林苑で昆虫採集を1時間させています。「自分が気に入った虫を最低限、1匹採ってきなさい」と言い、捕虫網と殺虫管を持って行かせるのです。虫を追いかけて、採集して、次の時間に立体顕微鏡で見ながらスケッチをします。虫が苦手な子もいますが、アリなど小さな虫でもいいのです。それを実体顕微鏡で見るとモンスターになります。ポケモンの世界にいるような昆虫を見ることができます。中3に「生物を終えて」という感想文を書かせたときに、多くの生徒が一番楽しかったことに挙げたのが「昆虫採集」でした。
成蹊中学校/授業風景 観察
生物×家庭科のイベントを定期的に実施
他教科とコラボレーションした授業は行っていますか。
坂井先生 生物と家庭科で行っている企画があります。本校の卒業生で、東大で深海魚を研究している先生に来ていただき、深海魚の講義に続き、解剖を行います。その後、調理室に来て、深海魚を食べるという企画です。希望者参加型で、毎回30~50名が参加します。生物が単独で始めたのですが、深海魚の形や作りがおもしろいので引き込まれてしまいました。
佐藤先生 深海魚は東大の先生がトロール漁で捕ってきてくれます。深海魚の多くは流通に乗ることがなく、棄てられてしまいます。もったいないから使えるものは使っていこうという動きになりつつある中で、「それなら食べようじゃないか」と家庭科にお願いして、調理法を考えてもらったのがコラボ企画になったきっかけです。「この魚は固めの白身だからフライがいい」「煮くずれしやすいから違う調理法にしてみよう」など、大枠を考えてもらい、調理して、食べています。
坂井先生 冷凍で届くので、解凍してみなければどんな魚がどれだけあるのかわかりません。ですからメニューを開発するところまではいかないのですが、煮付けや唐揚げ、茶碗蒸しなど、いろいろな調理ができるよう準備をしておき、その場で考えながら調理しています。軟骨で三枚卸しがやりにくいとか、頭が固く、とげが痛いとか、臭いとか、うろこの形が少し変わっていて取りにくいとか、深海魚特有の特徴がありますが、何回かやっているうちに、「これはまるごと唐揚げにしたほうがいい」というように、あたりをつけられるようになってきました。グチを使い、かまぼこにもチャレンジしました。骨を取り除く作業は大変でしたし、練って、氷水につけて…と手間がかかります。板づけも難しかったですが、技術の先生にお願いして作ってもらったかまぼこ板を使ったオリジナルのかまぼこは、おいしかったです。
成蹊中学校/深海魚の講義
生物の授業を通して生き物の根幹を伝えたい
佐藤先生 情報があふれる時代の中で、我々理科が本物に触れることを大切にしているのは、根幹にあるものを大事にしたいからです。生き物が雑然としている、多様性のある教室の中で学ばせているのもその一つです。生き物はある程度の幅をもって、環境に適応して生きています。それは人間も同じです。変貌する環境の中で生きていくには、考え方や生き方において幅をもつことが大切です。また、生物は後退することなく、常に進化を遂げています。その視点に立てば、無駄なことは1つもないのです。ですから、時間を無駄にしないということを、さまざまなアプローチで伝えています。生物には教員の大先輩が2人いますが、そこは共通認識だと思います。
そういうことを教えるのは勉強ではなくて、環境だと思っています。生物室の環境を、できるかぎり我々が望むものにすることで、生物の本質を感じてもらえるものと思っています。臭いしかり、五感で吸収したことは生徒の心に残るはずです。
経験を積んで、直感を磨こう
小学生にはどのように理科を学んでほしいですか。
佐藤先生 「どうしてなんだろう」という探究心を大事にしてほしいと思っています。「問題を解くのが楽しい」というお子さんもいると思いますが、その問題を解いたときに、解くことができたという楽しさだけでなく、どこが楽しかったのかを考えさせて、わからせることが重要だと考えています。
東大、京大の入試問題を見ると、そういうところを聞いているように思います。長い文章やデータから読み取ったことをもとに考えて、「ここがおもしろそうだけどわからないな」と思ったところが設問になっています。問題が読めるお子さんはそういうところに気づける子。読めないお子さんはそういうところに気づけない子だと思います。気づくためには、探究心や直感が重要です。直感は生きる上でも必要ですよね。もし私たちが、野獣がいる大自然の中にいたら、生き抜くために直感を働かせるはずです。その直感が問題を解く上でも必要だと思っています。直感はいろいろな経験をすることにより養われます。だから家に閉じこもっていてはいけないのです。
入試部長 家庭科教諭/坂井 史子先生
みずから行動する、というのが生き物本来の姿
直感力を磨いて指針を得るということですか。
佐藤先生 そうですね。動物は、目や耳で需要した情報を、脳で処理し、筋肉で出力します。この一連の流れをフィードバックして繰り返していくことが動物の基本なのです。裏を返せば、頭で考えていて、動かないのは動物ではありません。机上の勉強も必要ですが、調べたいことがあればネットではなくて、行動してほしいのです。昔なら図書館に行っていました。自分の目でみて、人に聞いて、本を選んで……。そういうことが本来あるべき姿だと思います。ところが今は、どんどん情報が入ってきて、出力する部分が減ってきているので、今後それが大きな問題になるのではないかと懸念しています。子どもが自分から「やりたい」ということがあればやらせてあげましょう。なるべく体を動かして、次の行動を自分から起こしていく経験をさせてあげることが、探究心と直感を育てる一番の方法だと思います。
インタビュー3/3