シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

成蹊中学校

2017年04月掲載

成蹊中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.私たち自身も生き物。自然の中で生きていることを実感しよう。

インタビュー2/3

教員の経験談で生徒を引き込む

授業も先生方の思いが詰まっているのでしょうね。

佐藤先生 授業では、生徒を引き込むことを重視しています。引き込む力というのは教員が歩んできた生き様そのものだと思うんです。生徒が「この先生はこんな経験をしてきた」ということをわかってくると、特に引き込むことを意識しなくても授業は回ります。だから私は、自然と触れ合う経験を大事にしています。私が経験したことを、関連する授業で話すと、生徒のアプローチの度合いがまったく違うからです。

例えばどのようなことを話すのですか。

佐藤先生 直近では2月に西湖で潜って、世界初の卵発生の観察&写真撮影を行いました。さかなクンがクニマスを見つけて、調査地に産卵場所があるらしいというので行ってみたのです。そのときの苦労話がおもしろいので、その話をしてから湖沼生態にかかわる授業をすると、実にスムーズに入っていけました。そういうところは生物の教員、全員が大事にしているところです。他の分野の先生も、同じだと思います。

成蹊中学校/授業風景 理科実験

成蹊中学校/授業風景 理科実験

約150種類の生き物の中で授業を行う

佐藤先生 本校には、理科4分野に専用の実験室や研究室などがあり、助手さんも2人ずついます。ですから生物の授業はすべて生物室で行います。生物室は一面水槽で、専門誌に掲載されるほど、いろいろな生き物を飼育しています。その中で学習する理由は、生き物とはどういうものかを、五感で感じ取ってほしいからです。生き物の臭いや、触ったときの「嫌だな」という感覚があるのだとしたら、少しでも薄れてくれればいいなと思っています。

生き物はどのくらいいるのですか。

佐藤先生 鳥、魚、ヘビ、トカゲなどのは虫類など、約150種類の生き物がいます。生物に囲まれて学習できる実験室は全国的にも珍しいと思います。授業の中で「この生物はここにいるよ」と言うことができる実験室を目指しています。自然の中で学ばせることもしていますが、その時間を十分に取ることはできませんし、しっかり物を見るときには狭い空間のほうが適しているので、そういうことも考えて生物室の充実に力を入れています。

誰が飼育しているのですか。

佐藤先生 高校生の生物部員を中心に、私や生物の助手さんも協力して行っています。生物部員は担当制で、その生き物になにかあったときは必ず報告させるなど、責任を持たせています。生き物が病気になったときは、どうするかをみんなで話し合います。ここにいる生き物はすべて教材で、ペットではありません。後輩たちの教材となる生き物を、自分たちが協力して飼育しているという認識を持たせています。

成蹊中学校/生物部のポスター発表掲示

成蹊中学校/生物部のポスター発表掲示

生物部員も自然と戯れて成長する

生物部員は何名くらいいますか。

佐藤先生 生物部は高校生だけです。中学生は自然科学部として活動しています。それでも40名以上います。最近は自分の中にこもりがちな生徒、スマホばかりいじっていて、現実世界を見ていない生徒が増えてきたので、いろいろなところに連れて行き、干潟やマングローブの中を歩くなど、さまざまな自然体験させています。合宿から帰ると1年生に変化が見られるのは、生き物と一緒に生活し、自分も生き物であることを自覚するからだと思います。

具体的にはどのような変化が見られますか。

佐藤先生 人として行動できるようになります。例えば、思いやりが生まれます。協力し合えるようになります。後輩に対する接し方も柔らかくなります。生き物の世話をするときも、これまでより心を込めて世話ができるようになります。日本の自然環境がわかると、自分で生き物を管理するときにすべきことが少し見えてきます。例えば、数少ない生物は捕らないなど、生き物と共存するためにできることを考えられるようになります。

成蹊中学校/校舎内展示物

成蹊中学校/校舎内展示物

井の頭公園の池も教材に

佐藤先生 授業でもなるべく外へ行きます。例えば高3の選択授業では井の頭公園に連れていきます。池の水をサンプリングし、前年の高3生が収集したデータと、自分たちが収集したデータとを比べさせ、考察させると、学会で発表してもおもしろい結果が得られました。かいぼり(水抜き→日干し)する前とかいぼりした後のデータを比べると、植物プランクトンの組成が違うのです。中を浚渫(しゅんせつ)すると、シアノバクテリアが爆発的に増えて、環境が一気に変わるのです。生物でよく取り上げられる揺れ藻を見ることもできます。机上で学んだこととリンクすると、生徒は「おもしろいな」と思います。それは一生忘れません。そういうことを授業の中にもなるべく取り入れるようにしています。

中1から解剖を実施

高3の選択授業は大学受験対策が中心なのでは?

佐藤先生 もちろん受験対策も行いますが、実習も行います。高3で生物を選択する生徒の中には医学部を目指している生徒も多いので、受験のための生物ではなく、バイオロジーという学問を学んでほしいという思いで、時間のあるかぎり実習を行っています。
例えば、マウスなどの解剖も行います。解剖は中1から行っていて、中1はイカ、ハマグリ、ホヤ、シャミセンガイ、中3ではサメを解剖します。シャミセンガイは干潟に生息する生物です。単独でいろいろな生き物の分類をさせるのではなく、ミミズに近い環形動物と貝に近い軟体動物、さらに両方の形態を持っている中間形態のシャミセンガイも見せて、つながっていることを確認させます。教科書に載っている生物も本物を見せるということを大切にしています。

シャミセンガイはどのように入手するのですか。

佐藤先生 有明海の漁師さんに頼みます。サメは青森です。今年は暖冬で海水温が下がらず、サメが不漁でした。例年、中3ではサメの解剖を行いますが、昨年はできませんでした。暖冬は深刻です。先日、葉山の海に潜りに行くと、海藻が生えていませんでした。時期的に海中林といって、ワカメやカジメなどが海の中にそびえていて当然なのですが、一旦、寒くならないと胞子が発芽して海藻にならないため、まったく生えないのです。「漁師さんもここ2、3年、アワビ、ウニが捕れなくなると嘆いている」という話を生徒にすると、興味をもって聞いてくれます。サメの解剖ができない理由もきちんと話すと、「本当に大変なんだな」ということを実感できます。人ごとではなく、自分に返ってくるのです。

成蹊中学校/校舎内展示物

成蹊中学校/校舎内展示物

インタビュー2/3

成蹊中学校
成蹊中学校1906(明治39)年、学祖・中村春二により私塾「成蹊園」が本郷西片町に開塾。1924年に吉祥寺に移転し、翌年7年制の成蹊高等学校開校。戦後新制中学・高等学校となり、49(昭和24)年に大学を併設。同じ敷地内に小学校から大学までが並ぶ学園となる。
校名の由来、「桃李ものいはざれども下おのづから蹊(こみち)を成す」(『史記』)に基づいて「個性の尊重」「品性の陶冶」「勤労の実践」を教育理念としている。旧制・7年制高等学校の伝統と理念を継承する。家族的雰囲気のなか、個性重視、自由闊達な校風を保っているのも特色。
学園の正門から中・高正門までのけやき並木が見事。広々とした校内に特別教室棟、理科館、造形館、2棟の体育館などが点在。2008年には新校舎も完成した。400mグラウンド(ラグビー場)、野球場、サッカー場、馬場などが大学と共用でき施設も十分。
成蹊には「主要教科」という言葉はない。芸術科目や実技教科も含め、長い目で見た発展可能性を重視したカリキュラムを組んでいる。学習状況は年5回の定期テスト、随時行われる小テスト、実験レポートなどの成績により評価される。高2から文系・理系への移行が始まり、英・数は3段階(高1英語は2段階)のグレード別授業。高3では進路別に18のコースに分かれ、多彩な選択授業で対応。高校の自由選択の演習では、仏・独・中国語を設ける。成蹊大学へは約25%が推薦で進学するが、他大学進学希望者が増えており、東大、一橋大へ一定の合格者を出すほか、早慶上智大、東京理科大などにも多数の合格者を輩出。
静かに目を閉じ精神の集中をはかる「凝念」を行うのが日課で、テストや試合前など、自分から自然に行う生徒も多い。クラブ活動は盛んで、全国優勝を果たした男子硬式庭球部、女子硬式庭球部、東日本大会優勝のラグビー部、また文化部では都の吹奏楽コンクール金賞の吹奏楽部、自然科学部など35のクラブがある。