シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

成蹊中学校

2017年04月掲載

成蹊中学校の理科におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1.自然観察はおもしろい。外に出て知らなかったことを知る喜びを味わおう。

インタビュー1/3

自然観察の体験をベースに出題

まずは出題意図から教えてください。

佐藤先生 私は生物の教員です。指導をしている高校の生物部も含めて、自然の中で学ばせることを大事にしています。入試問題でも、自然との対話の中で考えてもらいたいという思いがあり、このような問題を作りました。
谷津干潟を題材に取り上げた理由はいくつかあります。武蔵野市に小中学生を対象にした自然クラブがあり、月1回、自然観察会を行っています。私はそこにかかわっていて、谷津干潟に行ったときにセイタカシギやハマシギ、都会ではなかなか見られないシギチドリなどの仲間も飛来する中継地点であることに着目し、入試問題の題材としておもしろいと思いました。そもそも、この干潟は街中にポツンとあります。干潟というと、有明や瀬戸内海などの広大で、自然に囲まれた風景が目に浮かびますが、谷津干潟は都会の中にある干潟で、周囲の人たちの理解があって存在しています。そういうことを小学生はどこまで理解できるのだろうかという思いもありました。

理科教諭(生物)/佐藤 尚衛先生

理科教諭(生物)/佐藤 尚衛先生

その場にいるような感覚を大事にした

この問題を出すにあたり、気を配ったことはありますか。

佐藤先生 自然観察にかかわる問題はよく出ていると思いますが、干潟は斬新なのではないでしょうか。谷津干潟は普段、立ち入ることができません。入れるのは、子どもたちの自然観察が目的など、限定されています。実際に足を運んだときの様子を思い出し、実況中継的なリード文により、わかりやすく出題することを心がけました。おそらく東京の子どもたちは干潟を体験していないと思うので、新しいもの(こと)と出会えるどきどき感やわくわく感を織り交ぜて、「自然観察っておもしろいな」と思ってもらえるような流れを意識しました。

あたかも現場にいる気分になれるリード文でしたよね。

佐藤先生 受験生がそう思ってくれればうれしいです。お父さんと息子さんという設定にしましたが、自然観察ではなんらかのきっかけを与えてあげることが大切です。そのきっかけをお父さんの言葉の中に散りばめました。ですから、保護者にも読んでもらい、「お父さんのこういうところがいいよね」と思っていただけると本望です。

自分ごとと他人ごとの違いとは

複数の問題の最後に、干潟を守るためにすべきことを、自分ごととして考えさせているところがいいと思いました。

佐藤先生 干潟を守る上でなにが必要かについては、想像以上にきちんと考えてくれたという印象でした。いろいろな解答がありました。自分ごととしてとらえられた子は、「周りにポスターを貼る」「自然観察会を開催する」など、踏み込んで解答を引き出していました。

正答率はいかがでしたか。

佐藤先生 大問全体(全11問)で6~7割でした。取り上げてもらった問題は、問1よりも問2のほうが解答の幅が広く、よく考えているかどうかを基準に採点しました。判断が難しい解答については、採点者の間で話し合い、得点の幅を決めていきました。

一般的な答えはどういうものでしたか。

佐藤先生 問1の「干拓されやすい理由」については、「真っ平らだから」「利用しやすいから」などの答えが多く見られました。干拓は社会科で学習していると思いますが、理解していない子もいました。農地にするなど、土地利用というところまで結びつけられた子が、思っていたよりも少なかったです。
問2の「干潟の保護」については、「生き物を取らないようにする」、これ以上干潟が減らないように「人が入らないようにする」などの答えが多く見られました。このような答えになってしまうのは、自分ごととしてとらえられていないからだと思います。自分に何ができるかというところまで、もう少し突っ込んで考えてほしかったです。
他の選択肢問題はよくできていました。本当はグラフや表の読み取りなどもさせたかったのですが、(時間が限られているため)できなくて残念でした。

成蹊中学校/理科館生物フロア

成蹊中学校/理科館生物フロア

問題を解く楽しさを感じてほしかった

佐藤先生 生き物には海水の表面近くに生息するものと、奥のほうに生息するものとがあります。巣穴の問題では、海水中の小さなゴミを食べるタイプのアナジャコがどういう巣穴を作っているかを問いました。誰も知らないと思うので、どういう生活をしているかを想像しながら、考えを巡らせるというか。そこに問題を解く楽しさを感じてほしいという思いで出題しました。

問題文の中にヒントになることが書いてあります。そのヒントと、図とを照らし合わせながら解く問題ですよね。観察に持っていくと便利な道具を問う問題もありました。

佐藤先生 この問題は苦労しました。本当はもっといろいろな道具があるのですが、選択肢は干潟で使えるものにしました。道具の名称ではなく絵にすることになり、工夫してたどり着いたのが採用された4つの道具です。ほぼ全員が正解でした。この問題は、潮干狩りに一度でも行っていれば正解できたと思います。

専門性の高い、オリジナリティのある問題が特徴

理科全体では、どのようなことを意識して作問していますか。

佐藤先生 成蹊は中学1年生から生地物化、4分野に分けて授業を行っています。そのため入試問題も生物、地学、物理、化学から1題ずつ出題しています。専門性が色濃く、オリジナリティのある問題が多いのは、4分野とも専門の先生が作っているからです。問題は、各自が持ち寄ったものを精査して、組み合わせを考えます。問題の難しさや記述量などを考慮し、最終的には全教員の合意のもとで作り上げます。傾向としては、基礎的な理科の内容や考え方が身についているかを聞いた上で、主に物理や化学では、問題文を読んで記述する問題を出すことが多いです。例えば色の変化を問うときに、単純に結果だけを問うのではなく、もとの色がこうで、こういう変化があり、こうなったというように、変化の状況や自分の考えを正確に伝える問題を出しています。主に生物、地学では、受験生にとって初見となる問題を出すことが多いです。見たことのない問題に対しても、あきらめずに取り組んで、自分の中に取り入れ、消化して、解ける力を問いたいのです。

成蹊中学校/生物実験室

成蹊中学校/生物実験室

文章を書く力だけでなく、読む力も大切

長い文章を読んで解き進めていく問題が多いですよね。

佐藤先生 理科に限らず、全教科で論理的に考える力、論理的に書く力に加え、読む力を大事にしています。最近の子どもたちは短文でコミュニケーションを取る機会が多く、長い文章を読んで、考えることが苦手になってきています。それを克服してほしいので、今回の問題も長めのリード文を読んで解答する形式にしました。
生物が、初見の問題にこだわるのは、生物に興味があり、知らないことを知ろうとする受験生に入ってきてほしいからです。過去問を解いたときに「お父さん、こんな入試問題があるんだけど…」と。「なんだ、この生き物は!?」と。驚きをもって取り組んでもらえる生き物を数多く登場させて、過去問を解いていくうちに「次はなんだ?」と興味をもってもらえるような問題を作りたいと思っています。いかに知らない生き物を知ってもらうかに力を入れているので、題材として取り上げるのは我々が研究対象としている生物が多いです。

インタビュー1/3

成蹊中学校
成蹊中学校1906(明治39)年、学祖・中村春二により私塾「成蹊園」が本郷西片町に開塾。1924年に吉祥寺に移転し、翌年7年制の成蹊高等学校開校。戦後新制中学・高等学校となり、49(昭和24)年に大学を併設。同じ敷地内に小学校から大学までが並ぶ学園となる。
校名の由来、「桃李ものいはざれども下おのづから蹊(こみち)を成す」(『史記』)に基づいて「個性の尊重」「品性の陶冶」「勤労の実践」を教育理念としている。旧制・7年制高等学校の伝統と理念を継承する。家族的雰囲気のなか、個性重視、自由闊達な校風を保っているのも特色。
学園の正門から中・高正門までのけやき並木が見事。広々とした校内に特別教室棟、理科館、造形館、2棟の体育館などが点在。2008年には新校舎も完成した。400mグラウンド(ラグビー場)、野球場、サッカー場、馬場などが大学と共用でき施設も十分。
成蹊には「主要教科」という言葉はない。芸術科目や実技教科も含め、長い目で見た発展可能性を重視したカリキュラムを組んでいる。学習状況は年5回の定期テスト、随時行われる小テスト、実験レポートなどの成績により評価される。高2から文系・理系への移行が始まり、英・数は3段階(高1英語は2段階)のグレード別授業。高3では進路別に18のコースに分かれ、多彩な選択授業で対応。高校の自由選択の演習では、仏・独・中国語を設ける。成蹊大学へは約25%が推薦で進学するが、他大学進学希望者が増えており、東大、一橋大へ一定の合格者を出すほか、早慶上智大、東京理科大などにも多数の合格者を輩出。
静かに目を閉じ精神の集中をはかる「凝念」を行うのが日課で、テストや試合前など、自分から自然に行う生徒も多い。クラブ活動は盛んで、全国優勝を果たした男子硬式庭球部、女子硬式庭球部、東日本大会優勝のラグビー部、また文化部では都の吹奏楽コンクール金賞の吹奏楽部、自然科学部など35のクラブがある。