シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

栄東中学校

2017年03月掲載

栄東中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

1. 論述から表現しようとする姿勢を見たい

インタビュー1/3

知っているかどうかだけの問題にはしたくない

大瀧先生 これまで東大クラス入試で出していた論述問題を、A・B日程でも2年前から出題しています。
単に知っているかどうかだけの問題にはしたくなかったので、問題文であらかじめ「第1次+第2次+第3次産業=第6次産業」であることを説明した上で、第6次産業化の取り組み方を聞きました。

佐久間先生 「第6次産業化」については知っている受験生もいるでしょう。用語を知っているだけでなく、もう一歩踏み込んで、自分ならどうするか、論述から当事者意識が少しでも感じられるといいなと思いました。

社会科/大瀧裕介先生

社会科/大瀧裕介先生

3つの解答条件を満たした完答は2割

採点基準を教えていただけますか。

大瀧先生 解答の条件は3つあります。①生産物などの例を1つ挙げる、②第1次産業の従事者の立場で考える、③第1次から第3次産業までの取り組みを具体的に説明することです。3つの条件がすべて揃っていれば満点、条件が足りない答案は部分点をあげました。
完答は2割くらい、無答は1割程度でした。

「魚介類」では具体性に欠ける

大瀧先生 解答の条件を満たしていない解答が多くみられました。生産物は、「野菜」や「果物」ではなく、「トマト」や「リンゴ」のように具体的に挙げてほしいところでした。「魚介類」という解答も多かったですね。
また、主語(自分)は、「第1次産業の従事者」であることを忘れてはいけません。

佐久間先生 「自分がスーパーの店員なら、無農薬で栽培している農家と連絡を取って…」のように、主語が販売者の解答もありました。受験生にとっては農家よりも店員の視点のほうが考えやすいのかもしれません。着眼点はとてもいいのですが、残念ながらこれも条件を満たしていないので満点とはなりません。

栄東中学校/瑞想庵(茶室)

栄東中学校/瑞想庵(茶室)

「出荷」では流通・販売が生産者の手から離れる

問題文で「第1次産業(農林水産業)」のように、第1次・第2次・第3次産業がそれぞれどういうものかイメージしやすいように説明があって、丁寧さを感じました。

佐久間先生 カッコ内は後から追加しました。これを解答のガイドにして、生産物などを1つ挙げて、カッコ内の取り組みを順番に、具体的に挙げていけば解答できるように誘導したつもりでしたが、途中までの答案も見られました。

大瀧先生 「リンゴを栽培して、リンゴジュースに加工して、出荷する」という答えには第3次産業の取り組みがありません。「出荷」では流通・販売が生産者の手から離れてしまい、第6次産業化の定義にあてはまりません。ここを、「自分で店を出す」「自分でネット販売する」などとすればよいと思います。

佐久間先生 「農家が、スーパーで加工品を使ってお客さんの顔を見ながら実演販売をする」という解答はいいアイデアだと思いました。

震災復興など目的が置き換わった誤答も

佐久間先生 熱のこもった意見もありました。「熊本県の復興支援をしたいので、熊本産のトマトを売りたい」という論述からは、受験生の思いが伝わってきました。目のつけどころはよいのですが、この問題は「第6次産業化の取り組み」を聞いているので、解答の条件からずれてしまっています。惜しい解答です。

大瀧先生 復興支援に触れた解答は他にもかなりの数があり、世の中のことに目を向けて、当事者意識で考えている受験生が多くいることに、とても感心しました。「三陸のわかめ」「気仙沼のかき」など、被災地の特産物を具体的に挙げているのは、ニュースを見聞きし、ふだんから関心をよせていることがわかります。

栄東中学校/栄東天満宮

栄東中学校/栄東天満宮

満点の解答ほど、答えはシンプルだった

大瀧先生 私の印象では、満点の解答ほど完結にまとめられていました。

佐久間先生 字数制限はしていませんが、文字数の多い解答で満点はほとんどなかったと思います。条件を満たすよりも、自分の頭に浮かんだことを次々に書き出してしまった印象です。

大瀧先生 頭の中で考えたことを「全部」伝えることが、相手にとってよいとは限りません。「取捨選択」して整理する力も、伝わる文章を書く上で大切です。
「簡潔に説明する力」は入学してからしっかり学びます。本校では、自分の言葉で表現したり、自分の考えをみんなの前で発表する機会がたくさんあります。表現することに積極的な受験生だけでなく、今は苦手でも、前向きに取りくみたいと思っている受験生が入学してくれるとうれしいですね。

インタビュー1/3

栄東中学校
栄東中学校平成4年に中学校が開校し、中高一貫教育が開始された。時代の変化に先駆けて、アクティブ・ラーニングを取り入れ、「①授業、②校外学習、③キャリア、④部活動」という4つを軸に分けて展開している。授業での工夫という枠を超えて、生徒の学びの場すべてをアクティブ・ラーニング実践の場ととらえ、学校そのものがアクティブ・ラーニングの場である。特定の教員が実践するのではなく、全教員がアクティブ・ラーニングの実践者であることが最大の特徴である。
大学入試結果は教育の成果であり、そこにいたるプロセスと大学卒業後、社会で生きる力の育成に関する学校としての方針をアクティブ・ラーニングという理論に基づいて計画して実践している。授業は常に見学可能であり、教員同士がいつでも授業を見せ合う環境となっている。中1の入学時点では人の前でプレゼンテーションすることが苦手な生徒でも、中3までの間に至極当然のこととなっていくということである。
建学の精神「人間是宝」の理念は、『人間はだれもがすばらしい資質を持った、宝の原石であると考え、その原石を磨き上げ、文字通り本当の「宝」として育てること』であり、そのために、校訓「今日学べ」(今日のことは今日やり、勉強も仕事も明日に残さない)を掲げている。
広大な敷地には、勉学に専念するための充実した施設があり、先生方も遅くまで生徒たちの学びにつき合うことも多いという。勉強だけではなく、多くのクラブ活動も盛んであり、それは学校での生活すべてがアクティブ・ラーニングであるということに通じている。