シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

渋谷教育学園幕張中学校

2017年03月掲載

渋谷教育学園幕張中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.算数や数学で考える力を磨こう。ほかの学びにもきっと活きてくる。

インタビュー3/3

入試問題づくりは難しい

6年後の成長を見据えて選抜を行っていると思います。入学後は証明を自分で掘り起こすような授業をなさっている中で、入試にもそれを反映させようというお考えはありますか。例えば短い記述をさせるとか。

八田先生 数学だけでは難しいですよね。ただ、総合的な入試を模索し、理科と数学、あるいは社会と数学が合体するようなことがあれば、そういう質問も考えられますよね。採点基準も含めて、作問は難しいと思いますけどね。

今年の入試問題に関して、出題を検討するにあたり議論したことはどんなことですか。

吉田先生 やはり難易度をどうするか、ということは話し合いますよね。最初の問題は(受験生が)比較的見慣れている問題を出したつもりですが、解答を見るとアとイを逆に答えていたり、気づいた順番に書いてしまっていたり。問題をよく読んでいないのかなと思う解答が見られたのが残念でした。
点数を取れるよう典型的な問題も出していますが、そういう問題も意外とできていないんですよね。例えば今回でいうと大問3のおつりの問題は丁寧に取り組めば解ける問題なのですが、意外と取れていませんでした。

八田先生 大問3の正答率は3割を切っています。

渋谷教育学園幕張中学校・高等学校/図書館

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難しくても解き慣れている問題はできる

八田先生 大問3は、100円玉を3枚ずつもっている子が2人。500円玉を1枚ずつもっている子が2人、1000円札1枚と100円玉を3枚もっている子が1人いて、300円の入場券を買うときに、売り場でおつりが出ないようにするにはどういう順番で買えばいいか、というごく普通の問題です。並び方は10数通りですから、難易度でいえば大問1の問題のほうが難しいと思いますが、こういう問題は(受験生が)やり慣れているんでしょうね。

吉田先生 正答率を見て、最近の子はおつりを払わないのかなと思いました。カードでピッとやって買い物をしていたら、おつりを考える必要がないので、(受験生は)そういう世代なのかなと勝手に思っていました。

八田先生 昔は結構、こういう日常生活にリンクしている問題の正答率は高かったですよ。これは点を取ってほしい問題。ここを取って、気持ちよく大問4に入ってもらえるなと思っていたんですけどね。違ったようです。

きちんと考えることが苦手になっている?

大問3は場合の数ですから、答えがプラスマイナス1なら数え間違いかなと思いますが、どんな誤答だったのでしょうか。

八田先生 惜しい誤答ではなかったですね。

吉田先生 なんとなくかけ算をするとか。なんとなく足し算をするとか。そういう感じがあるんですよね。

算数の中に入ると常識を忘れることはよくありますよね。

八田先生 日常生活をなるべく問題化して、考えやすい土俵を作ろうと思っているのですが、大問1のような数学数学した問題は解けても、数学数学していない問題は解けないんですよね。受験生の質が変わってきたのかもしれません。

きちんと正解にもっていくことが苦手なのでは?

八田先生 そうです。場合をきちんと考えていくということができていないと思います。パターン化されている問題に慣れていると、対応しにくいのかもしれませんね。

図形の問題(大問4-1)はいかがでしたか。

八田先生 この問題は入試によく出る典型的な問題ですよね。正答率は7割近かったです。大問4はすべてできている受験生が多いという印象でした。1番ができれば2番もできますからね。

渋谷教育学園幕張中学校・高等学校/図書館

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難しい立体切断の問題もクリアする子が数名いた

八田先生 大問5は難易度の高い問題でした。

今年は多くの学校で立体の切断が出題されました。受験生に足りないものがそこにあるのではないかと思ったのですが、実際のところいかがでしょうか。

吉田先生 大学入試の問題でも偏りは見られますが、特別な意図はないと思いますよ。

大問5-1の正答率はどのくらいでしたか。

八田先生 4人に1人くらいでした。この立体は対称性があるので1番は解きやすかったと思います。大問5-2は本校の入試問題の中でも特に難しい問題でしたが、クリアした受験生が数名いました。五角形、六角形切断の交点を求めるとなると、頭の中はぐちゃぐちゃですよね。

こういう問題を解ける子が時々いますよね。

八田先生 そういう子は念頭操作ができるんですよね。頭の中で立体を切断したり、辺を伸ばしたり、合同な三角錐が見えたりするようです。立体の切断は比較的男子が得意で、授業でも男子の中にうまく解く子がいます。それは脳からくる独特の作用があるようで体験からくるものではないようです。選抜することを考えると、問題の難易度を上げていく必要がありますが、それでもクリアする受験生がいるというのも事実です。

答えに至った過程は知りたい

1月入試ですが、考え方(解き方)を書かせる問題を出す予定はありますか。

八田先生 出したいとは思いますが、時間との兼ね合いがありますよね。書くとなれば、それなりに時間を取らなければなりませんから、他の教科の考えも聞きながら検討することになると思います。ないとは言えませんね。

吉田先生 どういうことを考えてそこに至ったのか、は、大いに気になるところです。問題用紙も回収して見ることができたらいいなと思いますが、問題によっては、今のような問題形式でも、途中がわかっているかどうかを判断することができます。例えば大問2-3は考え方がわかっていれば、正しい答えが出る問題です。出し方によっては、答えだけでも考え方を判断できる問題を作れないことはないと思います。

問題の並びにも意図がある

大問1は、地道にこつこつ体積を計算する方法もあれば、比を使って解くこともできると思いますが、どういう解き方を求めていたのでしょうか。

吉田先生 私は、いろいろあっていいと思っています。一つの解き方にこだわらず、いろいろなアイデアをもっていてほしいからです。そういうアイデアを、入学後、他の問題を解いたときに共有できればいいと思います。友達の解答を見て、そういう解き方もあったんだと驚いたり、「なるほど」と思ったり、「僕はこう考えたんだけどどうかな」と相談したりしてくれればいいと思っています。

1問目なので、「こつこつ計算してもいいけれど、少し楽をできるところはないか、探しながら解きなさい」というメッセージかなと思ったのですが。

八田先生 何度も入試問題を見直す中で、この問題は意図をもって最初にもってきた問題です。最初は真ん中辺りにありました。受験生が見慣れている問題で、一番解きやすいだろうなと思ったからです。実は大問2を最初にもってこようと思っていたんです。でも、いきなりつまずいても……と思って、こうなりました。

渋谷教育学園幕張中学校・高等学校/図書館

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受験生が解きやすいように配慮

八田先生 過去20年間の入試問題をひもといても、関数を1問目にもってきたのははじめてです。数の問題をもってくることが多いんですよね。

エンジンをかけてあげようという意図があったんですね。

八田先生 まさしく今回はそういう気持ちがありました。(受験生の)解く時間が速いので、じっくり解いてもらい、ページをめくったときに、大問2と大問3、どちらかを選んでもらえるように作りました。どちらか1問でも解けたという安心感をもって、次の図形の問題に取り組み、最後にちょっと難しい問題にチャレンジしてくれればいいと思ったのです。

見開きに大問2と大問3を配置して、選べるようにしているという配慮には驚きました。

八田先生 どういうふうに配置すれば解きやすいかということも考えるんですよ。右ページを真っ白にしたら、大問2をやることになりますよね。最初にパーッとすべての問題を見て、この問題から解こうという子もいますが、1月の入試なので最初から解く子が多いかなと思い、工夫をしました。

数学を楽しもう

最後にメッセージをお願いします。

八田先生 二次方程式の解の公式には、どんな二次方程式でも解けるという「一般化」の素晴らしさが備わっています。二次方程式が解けなくても生活していけますが、そこに至る過程を中学校で追求する学習履歴のようなものがその子の数学の学習に役に立っていくと考えています。

吉田先生 よく「数学を学んでなにに役立つの?」という人がいますが、私は、数学を無理になにかに役立たせようとしなくてもいいと思っています。役立つことばかりを追いかけていると基礎研究も成り立たなくなります。それでは、あとの人たちに役立つものを残せないので、純粋に算数や数学を楽しんでほしいのです。我々の立場では、数学が役に立つことを見せてあげることも大事だと思っていますが、内容そのものをおもしろいと思ってくれれば、生徒は主体的に学習します。日々忙しく過ごしている中で、ゆっくり考えることは難しいことかもしれませんが、入学後はできるだけそういう時間をとって数学を一緒に楽しんでいきたいと思っています。

インタビュー3/3

渋谷教育学園幕張中学校
渋谷教育学園幕張中学校高校は1983年に創立され、中学は1986年に開校した。中3でニュージーランドホームステイ、高2で中国への修学旅行、シンガポールやベトナムへの研修も実施され、国際人としての資質が養われる。帰国生も数多く在籍し、幅広い教養も身につける環境が整っている。その結果、国内難関大学だけでなく、海外難関大学への進学者も数多い。また、模擬国連国際大会で、毎回、優秀な成績を収めている。2015年には「第4回 科学の甲子園全国大会」で優勝。全米各州の代表チームが集った「サイエンス・オリンピアド2015」に特別参加し、日本初の5位入賞を果たしている。
教育目標である「自調自考」の精神が学校生活全体に行きわたる。日本でいち早くシラバスを導入し、自ら進んで学習する姿勢を形成した。高1・高2では自調自考論文を作成する。スポーツフェスティバルや文化祭などの行事や宿泊研修など、すべてが生徒主体で行われる。自ら学ぶための校内設備も充実しており、たとえば、6部屋の実験室がある理科棟では、大学と同等以上の高度な実験ができる環境が整っている。
勉強面だけではなく、サッカー、水泳、ハンドボール、テニス、空手など強豪クラブがそろうほどにクラブ活動が盛んである。また囲碁将棋は全国レベル。校内に一歩入った瞬間に、生徒の自分で判断し行動する姿を見ることができ、学校の教育目標が学校全体に広がり、そして生徒の一人一人にふかめられていることを感じさせる。