出題校にインタビュー!
渋谷教育学園幕張中学校
2017年03月掲載
渋谷教育学園幕張中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
2.すべての学びが、建学の精神である「自調自考」に通じている
インタビュー2/3
図形のさまざまな知識を問える作図問題
貴校では、作図を出題していますよね。定規、コンパスまで使って作図を課す学校は、首都圏でも少ないと思います。それに対するこだわりがあれば教えてください。
八田先生 作図は図形のさまざまな知識を問うことができます。小学校の算数では、図を静止画面でとらえず、自分で動かして、数学的観察を伴う中で自分なりの気づきを発見していくおもしろさがあります。
解答をご覧になっての印象をお聞かせください。
八田先生 今回も多様な解答がありました。解答用紙には、問われた線を導き出すまでの過程がコンパスでいくつも描かれていて、どの円が解答を導いたのかを判別するのが大変でした。
数学科/八田弘恵先生
自分で図を描いて考えよう
貴校対策の講座で作図をすると、子どもたちは知らないことが多いんだなと驚かされます。例えばコンパスを使って正三角形を描くこともままならない子がいます。
八田先生 そうなんですよ。図は与えられるもの。それが当たり前になっているから描けないんでしょうね。教科書に描いてある図は代表です。いろいろな図がある中で、選ばれたきれいな図が掲載されています。その図を使って考えるので、自分で動かすということもしていないと思います。図を与えずに、「三角形を描いてみましょう」「円を描いてみましょう」と、自分で描かせることをすれば、もっと発想が広がると思います。
本校でも高校入試で関数の問題を出題するときは、文章を全部読んで、グラフは自分で描かせます。そうすると自分の中で一つひとつ問題にアタックしていく過程が見てとれます。
生徒から考えを引き出すとおもしろい授業になる
吉田先生 授業でも、図をかくところから始めるとおもしろいですよ。人によっては、自分に都合のいい図しかかかないので、友達と比べて、その性質は成り立つかを確認させています。問題に入る前に、「その図からなにが言える?」と聞くこともあります。生徒は自分の図と友達の図を見比べて、共通点や相違点を見つけます。「この図では成り立たないよ」「じゃあどうする?」「こうすれば統一した式が書けるね」「なるほど」というように、会話が発展します。そういう授業は、生徒からなにが出てくるかわからないので、こちらも勝負する気持ちで向かわなければなりません。
八田先生 代表的なのは方べきの定理ですよね。「円をかいてごらん。2本の直線はどうすれば交わる? 」というところから入っていくと、交わり方も相似な三角形も多種多様なものが出てきます。生徒にたくさん出させておいて、グループ分けをして、そこからいかに一般化にもっていくかが教員の腕の見せどころです。要するに、「方べきの定理はこうだよ」と教えるのではなくて、多様な解答の中から「特殊性のあるものはどれ?」「一般化できるものはどれ?」と質問を投げかけながら、定理を作り上げていくわけです。定理は、こちらから与えるよりも、生徒の方から発見していくほうが、絶対におもしろいです。
方べきの定理でおもしろい授業を実施
八田先生 吉田先生も、方べきの定理を授業研究でやりましたが、グループの分け方が絶妙でしたよね。
どのようなグループ分けをしたのですか。
吉田先生 円と直線の位置関係で行いました。場合を考えるとたくさんあるんですよね。円の内側で2つの線分が交わっているとき。延ばさないと2直線が交わらないとき。平行であるとき。一方は円に接して、一方は2点で交わるとき。両方とも接しているときなど。それらをすべて生徒から引き出せるか、という心配がありましたが、最終的にうまくいってよかったです。
八田先生 今はやりの「アクティブ・ラーニング」ですよね。言葉を変えれば、「数学的な見方、考え方」ですよね。少し前なら「数学的活動」ですね。ずっと文科省が言い続けていることを授業に取り入れて、おもしろい授業でした。こうした授業では、いかに生徒から思考活動をひき出すかが鍵になります。生徒が発した言葉に他の生徒が反応するので、生徒をうまく引き込み、発言を上手に取り込んで、方べきの定理とはこういうものである、という方向にまとめていくわけです。そういう授業の中で、生徒自身が発見したことを、他のことに使えるとわかったら、それはそれでまた面白いですよね。
渋谷教育学園幕張中学校・高等学校/校舎
中高一貫校のよさを活かし、じっくり育てたい
アクティブ・ラーニングは、思った方向に進むかどうか、わからないのが難しいところですよね。
八田先生 本当にそうです。知っている子が答えを言ってしまうこともあります。これは押さえなければいけません。私たちは、小学校の受験勉強の時に詰め込んだ知識を一旦溶かして、数学の本当のおもしろさとはなにかを教えるのが中1、中2の数学の授業だと考えています。じっくり豊かに考えることを教えていかないと大学まで通用する学力はつかないので、そこを大事にしています。
例えば、中1、中2では1単元に3時間かけてもおもしろいわけです。考える時間を確保し、「僕はこう考えた」「私はこういうことを発見した」など、生徒自身がいろいろなことを出し合う授業のほうがおもしろいですし、1問を解く中で生徒がいろいろなものを吸い取ってくれればいいわけです。彼らは、中途半端にわかっていたものが完全にわかったと納得します。「なんだ。そうだったのか」という言葉が必ず出ますから。そういう授業を展開できるのが、中1、中2を教える醍醐味ですし、生徒にとってもおもしろく感じられる授業だと思います。
数学はなぜそうなるのかを考える学問
吉田先生 勉強がよくできる中1生から質問を受けたことを思い出しました。小学校の分数の割り算は逆数をかけ算しますよね。「それはどうしてですか」という質問を受けたことがあるんです。答えになる話をしたら、「なぜ小学校ではそういう教え方をしてくれなかったんだろう」と言っていました。作業としてできればいいというのではなく、なぜそうなるのかを考える学問が数学だと思っています。その子はそういう疑問をたくさん抱えているようでした。先ほど話したように、小脇に抱えて来ちゃっているんですよね。そういうところもつついてあげられたらなと思っています。中1、中2はまだまだ自分の知っていることを言いたい年齢。精神的な成長を待たなければいけないところもありますが、「そうだったのか」と思ってもらえる機会を増やすことができれば、数学はおもしろいと思ってもらえるのではないかなと思っています。
授業は録画して振り返り、研鑽する
数学科の先生方で共有していることがあれば教えてください。
八田先生 改めて研究会などは開いていませんが、お互いの授業を見に行く機会はあります。授業研究も行っていますし、私が教科主任の時は、中学の授業をすべて録画し、数学科に保管してあります。新卒1年目から4年間、毎年授業を撮影させてもらっている先生がいますが、やはり成長しています。授業をビデオで撮って見るということはとても大事なことだと思います。「なくて七癖」といいますが、各々の先生はそれなりに癖がたくさんあるんです。自分で見るときには、「速く話しすぎたかな」とか「もう少しこの子の質問をいじればよかったな」とか、そういうことを感じます。「生徒の考える時間」の待ちがあるかどうかも気になります。「あ、ちょっと急いだな」とか。「もうちょっと待てばよかったな」という反省はよくします。
自調自考で教員を超えていく
八田先生 本校で学んだ生徒がどういう成長をしているかを見ていただきたくて、現在高校2年生の西川直輝くんの『自調自考論文』(自分でテーマを決めて、研究し、1年半かけて書き上げる論文)を用意しました。「Newton法との比較による村瀬義益の遂時近似法の優良性の考察」と題して微分を研究しています。難しい公式を自分で勉強してデータを比較し、優良性を導き出しました。私はこの子の指導教官でしたが、多くのことを言わなくても、みずからたくさんのことを調べてきました。大学レベルの本を読んで、知識を蓄え、パソコンですべてデータ化していく姿は、見ていて頼もしかったです。優秀論文に推薦したいと思っています。
こういう子が6年間の中でたくさん出てきます。今年は数学甲子園に20名がチャレンジしました。西川くんもリーダーの1人でした。科学が全国大会で優勝しましたので、数学もそのうち優勝旗をもってきてくれるのではないかと期待しています。
中3、高1あたりが飛躍的に伸びる時期
八田先生 こういう子たちがどのあたりで頭角を表すかというと、中3、高1あたりなんですよね。
数学の才能をもっている子は、その時期を大切にしなければいけないと言いますよね。
八田先生 そう思います。『自調自考論文』は、高1からジャンルごとに分かれ、指導教官のもとで3回くらいの面談を経て、高2の夏休み頃から書き始めます。そして9月頃に提出しますので、興味関心のあることを掘り下げるいい機会になっています。
毎年、数学を研究する生徒さんはいますか。
八田先生 理数系志望の生徒が多い学校なので、毎年、数名います。1つのことを追究するには、いろいろなことを調べますよね。すると、最初に思い描いていた方向と変わってきます。西川くんも、最初はニュートン法と村瀬さんの遂時近似法との単なる比較を考えていましたが、「どこを比較するか」をやりとりしているうちに考えがふくらんで、結果的に単なる比較ではなく、「ここの部分ではこっちが優れているけれど、もう一つの部分では……」という観点ごとのまとめ方になりました。多くの情報を最適にまとめるプロセスは、大学に行き、何かの研究を行う時のものすごい力になると思います。東大に進学した子が、大学の優秀論文集に必ず入ってきます。すごいことですよね。
渋谷教育学園幕張中学校/グラウンド
論文に取り組むことで、気づきを促したい
吉田先生 ただ、みんながみんな、素晴らしい論文を書けるか、というとそうではないですし、テーマによっては書きづらいものもあります。ですから結果以上に、研究に取り組む前と取り組んだ後とで、「ここが変わった」「成長できた」という実感を生徒自身がもってくれるといいなと思っています。実際、生徒に聞くと「こういうことに対して、よりいっそう好きになりました」とか、「漠然と好きだったけれど、研究を通してその理由がわかってきました」などという答えが返ってきます。さらに、自分はこういう特徴をもっているということに気づければ、自信になると思います。
インタビュー2/3