シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

麻布中学校

2016年12月掲載

麻布中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

3.学校生活の中で許容することと、自らこだわりを持つことを学ぼう。

インタビュー3/3

おとなしいまじめな子ほど麻布に入るとおもしろい!?

麻布にはアグレッシブな生徒さんが集まっている印象がありますが、実際にはいかがですか。

野田先生 実はまじめな子が多いです。髪の毛を染めて、ふてぶてしい態度を取っていたりしていても、根は純粋な子が多いです。2人(重田先生、太田先生)もピュアですから(笑)。

重田先生 受験生の親御さんから「うちの子はおとなしくて、全然麻布向きではない」「会話にも自分から入っていけるようなタイプではない」という話をよく聞きますが、いろいろな子がいるので大丈夫です。いろいろな子がいることを知るに連れ、自分はどうふるまえばいいのかを考えるようになるので、どんな子でも馴染めると思います。

太田先生 以前、古参の先生から「おとなしいまじめなタイプほど、うちに入るとおもしろい」という話をされたことがあります。実生活の中で他者を許容することと、自らこだわりを持って臨めば人間的な深みが生じることをわかって卒業してもらいたいという思いで教育しているからです。大人側の文化も、お互いのやり方を尊重する風土。いろいろな子がいていい学校だと思います。

長尾先生 たしかに許容範囲が非常に広いです。教員もそうですが、生徒の許容範囲も非常に広くて、普通の学校だったら居場所がなさそうな子であっても、普通にいられるというのが一番の魅力だと思います。また、本音で言えば理解してもらえる風土。建前ではなく、本音で話ができるのもいいところだと思います。

麻布中学校 校舎

麻布中学校 校舎

友達同士で教え合うことも

グループ学習などは取り入れていますか。

重田先生 数学は明らかに正しいか、間違いかに二分されてしまうので、能力に長けている子がいて、まわりがそれに対抗するというのは難しいのですが、授業のやり方として、授業に関係するおしゃべりを容認すると友達同士で教え合う姿が見られます。教えられる子だけでなく、教える子にもメリットがあるので、私は大事にしています。また、一般的な問題演習ではわかりづらいのですが、いろいろな問題を提示して、「好きな問題を解いていいよ」と言うと、地道に調べる問題が好きな子がいれば発想勝負の子がいたりしておもしろいです。

太田先生 授業でやる内容がすでに頭に入っている、数学がすごくできる子がクラスに数人います。だから私は授業中にできるだけチャレンジングなおまけ問題を与えるようにしています。そうすると上位層が相談しながら解いていきます。逆にすごく算数的な問題だと思わぬ子が解いて、その日だけヒーローになることもあります。

自分で勉強することが前提

宿題は出していますか。

太田先生 先生によるのではないでしょうか。

重田先生 共通部分でいうと、中1には夏休みの宿題を出しています。また、中1,中2の代数では小テストを頻繁にやっています。「宿題と言われなくても、復習はどんどんすべき」と言っているので、復習をしている子は問題ありませんが、やっていない子は小テストを機に復習することになります。

太田先生 自分で勉強することが前提なので、まずは自分で学習量を決めてやってもらい、テストでできていなければ課題なり補習なりを課しています。

長尾先生 中には「麻布って全然宿題がないと聞いていたのに」といって落胆する子もいます(笑)。

野田先生 ドリル的なものとチャレンジ的なものを織り交ぜた、おまけ問題集の制作に力を入れています。成績に反映されるわけではありませんが、「チャレンジ問題が解けたらノートを提出しなさい」と言うと、結構な数の生徒が提出しますね。

太田先生 私見ですが、定期的に課題を出すとこなすだけになります。極端なことを言えば、人のノートを写したり、問題集の答えを写したり。「これをやっておけばいいのね」という思考になりがちなので、自分で考えて学習するということを大事にしています。夏休みの課題は最低限やってほしいことに留めています。

麻布中学校 教室

麻布中学校 教室

中高時代は勉強以上に人間的な成長をしてほしい

野田先生 おおざっぱに分類すると、できる子に引っ張られるタイプと、意気消沈してやる気をなくすタイプがいます。それぞれタイプが異なるので全員に通用するやり方はないと思います。扉が見えた生徒に対しては、開く手助けをしたいと思っています。

太田先生 中だるみできるのが、中高一貫校のよさだと思います。競争にさらされて入学するので、終わってホッとできる時間があってもいいと思います。ただ、見極めが大事で、時期が来ればやるであろうという子と、そうではなく、こちらが手を差し伸べなければいけない子がいますので、数学にかぎらず、低学年の正担任、副担任の先生が見て判断していると思います。傾向として、生活習慣が身についていない子は大崩れしやすいです。きちんとご飯を食べている、決められた時間に登校している、身の回りのものが片づいている子は、低学年でも比較的大丈夫ですが、それらができない子は高学年でも苦労します。

自分自身の中から核を作り上げてほしい

野田先生 バスケットボール部にユース日本代表の強化合宿などに呼ばれている子がいます。その子は勉強もできます。数学ができるというよりは、飲み込みが早いです。ポイントを見極める力があります。ですから数学に限らず、全般的にできます。

長尾先生 6年間勉強ばかりしなければいけないかというと、そうではなくて、仲間を思いやるなど、むしろ机上の勉強以外のことのほうが大切だと思います。中高時代は人間的に成長していく非常に重要な場面だと思うので、補習に呼ぶのも、本当に必要だと判断した生徒に限っています。

野田先生 中学受験の苛烈な競争の中で、うちの生徒多くは、他者との比較の中で自分というものを位置づけるような価値観の中で育ってきたように思います。他者との比較から解放され、己の内側から自分自身の核を作り上げてほしいという気持ちがあります。モラトリアムという表現が適切かもしれません。一人ひとりに対して神対応とはいきませんが、思い悩む子を見つけて寄り添うことが私たちの仕事だと思っています。

進路指導はどのように行っていますか。

野田先生 基本的には、生徒自身が自分で考えて、彼らの選択した方向を後押しをするという形です。

太田先生 数学の教育実習生が来ない年はそれほどないので、数学の教員免許を取れる分野に進んでいる生徒は一定数いると思います。対外的には、国語の学校だと思われている節が強いのかなと思います。

重田先生 生徒に聞くと、「算数が好き」という子もいれば「国語が好き」という子もいます。「国語が好き」という子がいる男子校は少ないようなので、そこは特色だと思います。

麻布中学校 図書室

麻布中学校 図書室

一つひとつをきちんと理解しよう

最後に、算数の学習についてアドバイスをお願いします。

野田先生 まずは子ども自身が向上心をもって問題と向き合える状態にすることが肝心です。

長尾先生 興味をもって取り組み、できない問題でもあきらめずに、粘り強く考えることが大事だと思います。この問題にしても、簡単に解ける問題ではありません。難しいので、今日はできなくても、明日はできるかもしれないという気持ちで臨むことが大切です。そういうことも含めて、楽しんでほしいです。

重田先生 生徒と接していると「わかる」ということを理解している子と、「本当にわかっているのかな」と思う子がいます。人に説明ができるくらい、本当にわかったという感覚を覚えるまで頑張ってほしいです。

長尾先生 うちの生徒には、成績が伸びたから楽しくなり、はまったという子が多いのではないでしょうか。

基本的なことをおろそかにしないことが大事

太田先生 具体的なことを言うと、算数では計算能力を上げることが大切です。数学でもできない子は計算が遅く不正確なので、単純な筆算だけでなく、いわゆる基本問題はささっと解ける状態になるまで頑張ってほしいです。重田が話したように、「ここをこうして、ああすれば解ける」と、本当の意味でわかるようになるには反復練習をするしかありません。

重田先生 「方針が立ったから、あとはやるだけ」と言える子ができる子です。

太田先生 だから我々は、中学の代数では心を鬼にして「これができなければ高校で何もできないよ」と、言い聞かせています。さぼってしまうと、わからなくなって、つまらなくなってしまうのです。高校の内容がわからないのではなくて、僕らが書いている式変形がわからなくなってしまうので、生徒には「基礎体力の部分をおろそかにしてはいけない。筋トレだと思って頑張れ」と言っています。受験勉強でも、基本的なことが当たり前のようにできるまで学習し、その上で応用問題にチャレンジしてほしいです。

麻布中学校 体育館

麻布中学校 体育館

インタビュー3/3

麻布中学校
麻布中学校1895年、江原素六によって創立された。明文化された校則もない、自由闊達な校風が伝統。責任のともなう自由が重視され、一人ひとりの多様性や自主性を伸ばす教育が行われている。自発的な研究も盛んで、お互いを高めあう気風がある。OBも、政治家、作家、ジャーナリスト、俳優、経済界など、幅広い分野の第一線で活躍する。
中3国語の「卒業共同論文」、高1社会科の「基礎課程終了論文」など、各教科とも書くこと、表現することが重視される。その集大成が「論集」である。高1・高2では土曜日の2時間、教養総合として約30のテーマから選択する授業がある、OBなど学外の複数の講師が担当する講座もある。カナダ、中国、韓国など、海外学校との国際交流も活発に行われる。
クラブ活動や行事も盛んであり、文化祭、運動会とも大変な盛り上がりを見せる。将棋や囲碁は全国レベル。オセロ部、バックギャモン部、TRPG(テーブル・トーク・ロールプレイング・ゲーム)研究会など、他の学校ではめずらしいユニークな部活動もある。
2015年には、ランニングコースも備えた新体育館が完成した。また、放課後や休み時間に多数の生徒が訪れる図書館は、100周年記念館の2F、3Fにあり、蔵書は8万冊を超える。自発的に学ぶ意欲が育つ、個性的な私立男子校の代表格である。