シカクいアタマをマルくする。~未来へのチカラ~

中学入試問題は、子どもたちの“未来へ学び進むチカラ”を試しています。
そこには「こんなチカラを持った子どもを育てたい」という各中学のメッセージが込められています。
この「シカクいアタマをマルくする。」中学入試問題の新シリーズでは、そんな子どもたちの“未来へのチカラ”を問う入試問題から、その出題意図(アドミッション・ポリシー)と、子どもたちへのメッセージを探っていきたいと思います!

出題校にインタビュー!

麻布中学校

2016年12月掲載

麻布中学校の算数におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。

2.教育は種まき。田畑を耕し、芽が出るように育てていく。

インタビュー2/3

授業のやり方は個々の教員に任されている

1学年の授業は複数の先生で担当しているのですか。

野田先生 代数は3人ないし2人。幾何はだいたい2人で担当していますので、生徒はわりと多くの先生と出会う機会があると思います。授業を通して、教員の個性や違いに気づき、相性の善し悪しを感じていくので、窓口は広いほうがいいと思っています。

太田先生 数学はどの学年にも授業があるので、持ち上がる者が複数名います。教員側からすれば、継続して教えている学年と、そうではない学年があり、年によっては3学年もつ場合もありますし、1学年の場合もあります。授業の進め方は個々に任されていますが、幾何ではこういうことを前提に、こういうことを証明するという物語が必要になります。その順番や構成を、継続して教えている教員がリードしながら話し合い、それをもとに授業を行っています。

重田先生 生徒に配布するテキスト(独自編成の教材)も我々が作っています。

太田先生 凝っている人は、隙あらば数学の歴史や変遷などのコラムを書いています。

重田先生 コラムをネタに話をすることも多いです。

麻布中学校

麻布中学校

授業は真剣勝負の場。だから他人は立ち入らない

先生同士で研究授業をするような機会はあるのですか。

野田先生 授業は担当教諭の空間というか、同僚をリスペクトしているので、けがしてはいけないという思いがあります。ですから、授業中に他の教員が教室に入ることは滅多にありません。入る場合には、相当気を使います。授業は教師と生徒の真剣勝負の場だと思っています。

太田先生 お互いに信頼し、チームとして取り組んでいるので、新任の先生であっても、こちらが見るということはほとんどないです。

野田先生 だから(教員間に)年齢による上下関係はほぼありません。敬語で話しますが、ほぼ対等です。それが学園風土です。

太田先生 もちろん、すり合わせなければいけないところはすり合わせますが、なんでもかんでもすり合わせることになると、最終的に誰かの考えに従うことになるので、お互いのいいところを認め合いながらやっています。僕らもそうだし、生徒もそうだと思います。

授業は種まき。やり方は違っていい

野田先生 現在、重田さんと中2の幾何の授業を担当しているのですが、私はどちらかというと、証明の書き方より、証明の方針を理解することを重要視した授業をしています。証明の方針が思いつかない、あるいは、証明の方針を理解できなかった子には、わからない部分をメモ程度に書き取ってもらって、後々、自分の力で説明できればよしとしています。ノートをきちんと取りたい子にとってはやりにくい授業だと思うので、それはあらかじめ断って行っています。
重田さんはまったく違うタッチで授業をしているのではないでしょうか。

重田先生 僕自身の話ですが、もともと理数系が好きな理由は、基本的に板書がしっかりしているからです。文系教科はレジュメが配られて、板書といえば単語が5つくらい並ぶ程度で、基本的に話をしている。そういう授業が苦手だったのです。数学は解答を板書してくれます。解答は説明なので、それを読めば理解できるので、自分もそういう授業をしています。写すのが遅くて、授業中に苦戦している子もいますが...

長尾先生 授業のやり方はそれぞれですが、どの教員も「生徒に対して種を蒔くのが授業」という受け取り方をしていると思います。田畑を耕し、芽が出るようにしていくのが教育であり、我々はそのお手伝いをしている。そういう気持ちで取り組んでいます。

入試問題を持ち寄る時も個性を感じますか。

野田先生 それぞれのカラーがあるからおもしろいのだと思います。だから(麻布の入試問題は)傾向があるようで、ないのかもしれないです。

麻布中学校 図書室

麻布中学校 図書室

OBの教員は少ない

働く場としてはいかがですか。

野田先生 私は公立中高から国立大学に進学したので、私学に触れたのはここが初めてですが、非常に働きやすい職場であると感じています。学校の風土が肌に合っていると感じています。生徒とある種対等で、こちらから押しつけることはしません。彼らの能力が伸びるように見守る、寄り添うというスタンスに魅力を感じて楽しく働かせてもらっています。

卒業生の先生はいらっしゃいますか。

野田先生 4人の中では重田と太田が卒業生です。

太田先生 卒業生の割合は、私学の中では少ないほうだと思います。

卒業生のお二人は、自分の意志で麻布に入学したのですか。

太田先生 私はそうです。塾の先生から候補の学校名を挙げられて「どうする?」と聞かれた時に、算数の問題が難しいと言われていた麻布を選びました。

重田先生 私は親から得た情報もありますが、麻布の文化祭や体育祭を見て、ここに決めました。イベントよりも、パソコン研究会や物理部の電子工作を見て「すごいな」と思ったのがきっかけです。入学後、物理部に入りましたが、難しすぎて中1の3学期に退部しましたが(笑)。

太田先生 最近は、物理部の部長が頑張り3Dプリンターを入れて、マニアックなものを作っているようです。

重田先生 研究者になった同期の物理部の者が「物理部での活動が役に立っている」と言っていました。

麻布中学校 校舎

麻布中学校 校舎

教科の枠を超えた教養総合の授業

教科の枠を超えた授業などはありますか。

野田先生 そういう話は出ますが、実現はしていないです。ただ高1・高2を対象に土曜日に行っている『教養総合』(生徒は多様な授業群の中から自分の関心にあった授業を選択して受講する)では、2つの教科によるコラボ授業が行われることがあります。

太田先生 理科(地学)の先生と社会科(世界史)の先生が「天動説から地動説へ」というテーマで、科学的観点と歴史的観点からオムニバス的な授業を行っていましたね。

重田先生 『教養総合』は既成のカリキュラムや学年の枠にとらわれずに行われるので、太田も大学に近い授業をしています。

太田先生 大学1年生が物理概論や力学などの授業で習う微分方程式の授業をしています。そのテキストを作った時は、物理の先生に「こういう例はないか」などと聞いたりしました。任意参加の交流会なども行っています。そこでは各教科の教員が「こんな力をつける目的で、こういうカリキュラムで授業を行っている」という説明をします。

数学科の教員は数学が好きでたまらない

重田先生 数学科では毎年、合宿をして1年間の授業の報告をしたり、必要に応じてカリキュラムをマイナーチェンジしたりしています。

野田先生 授業で取り組んでおもしろかった問題などを報告し合い、共有しています。我々が楽しくないと楽しさを伝えられませんが、数学科の中ではそういう雰囲気ができていると思います。理科で扱うちょっとした仕組みなども、一緒になって考えています。「仕組み=数学」と思っていて、何かひっかかると数式を使って、あるいは図形の定理を使って解いています。そこにある規則性が見えた時は本当に楽しい瞬間です。

麻布中学校

麻布中学校

学問的興味が高い生徒が多い

学問的興味の高い子が麻布を選んでいるような気がします。

太田先生 卒業生で研究者になる人は多いです。東大や京大にOBの先生が結構います。

野田先生 成績に表れず、我々の目に留まらなくても、こだわりをもって自分で納得しながらやっていく生徒は、卒業したあとも活躍しているように思います。

長尾先生 たとえば相対性理論などに興味がある子はたくさんいると思います。独学で身につけられる子はなかなかいませんが……。中学生でガロア理論を独習した子がいたりします。学問的興味は高いと思います。

中には能力が突き抜けている生徒さんがいると思いますが、そういう生徒さんとはどうつきあっていますか。

太田先生 そういう子がいることが同窓生の誇りでもあるので、普通につきあっています。数学で突き抜けている生徒がいると楽しいです。化学五輪で金メダルを獲得した子がいますが、理科の先生たちは一緒に勉強していました。

数学系のクラブはありますか。

野田先生 数学は1人で勉強することが多い教科なので難しいようです。我々のほうから音頭は取りませんが、生徒のほうから来てくれれば協力したいと思っています。

太田先生 「おもしろい問題をたくさん解きたい」と言っても、数学オリンピックのような問題を解きたいのか、大学などで学ぶ、より高度なものを学びたいのか。方向性にもよるので難しいと思います。

重田先生 放課後に、数学が好きな子を集めて問題を解き合うことをしていますが、すごい問題を出してきた子がいました。空き缶をクシャッとひねるように四角柱をひねったら、立体体積はいくらになるかという問題です。「おもしろいね」ということで、「四角柱でなく、n角柱で行ったらどうなる?」「作ってきてごらん」と言ったら、生徒が模型を作ってきました。正六角柱と、七、八角柱あたりだと思います。クラブではありませんが、数学を楽しんでいる子はいます。

麻布中学校

麻布中学校

インタビュー2/3

麻布中学校
麻布中学校1895年、江原素六によって創立された。明文化された校則もない、自由闊達な校風が伝統。責任のともなう自由が重視され、一人ひとりの多様性や自主性を伸ばす教育が行われている。自発的な研究も盛んで、お互いを高めあう気風がある。OBも、政治家、作家、ジャーナリスト、俳優、経済界など、幅広い分野の第一線で活躍する。
中3国語の「卒業共同論文」、高1社会科の「基礎課程終了論文」など、各教科とも書くこと、表現することが重視される。その集大成が「論集」である。高1・高2では土曜日の2時間、教養総合として約30のテーマから選択する授業がある、OBなど学外の複数の講師が担当する講座もある。カナダ、中国、韓国など、海外学校との国際交流も活発に行われる。
クラブ活動や行事も盛んであり、文化祭、運動会とも大変な盛り上がりを見せる。将棋や囲碁は全国レベル。オセロ部、バックギャモン部、TRPG(テーブル・トーク・ロールプレイング・ゲーム)研究会など、他の学校ではめずらしいユニークな部活動もある。
2015年には、ランニングコースも備えた新体育館が完成した。また、放課後や休み時間に多数の生徒が訪れる図書館は、100周年記念館の2F、3Fにあり、蔵書は8万冊を超える。自発的に学ぶ意欲が育つ、個性的な私立男子校の代表格である。