出題校にインタビュー!
渋谷教育学園渋谷中学校
2016年11月掲載
渋谷教育学園渋谷中学校の社会におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました。
3.社会で起きている出来事を自分事としてとらえ、考える力をつけよう。
インタビュー3/3
昨年度の公民で模擬投票を実施
主権者教育に関する取り組みは行っていますか。
藤田先生 昨年度、中3の公民の授業で模擬投票と模擬国会を行いました。クラスごとに政党を結成し、選挙で選ばれた党の代表を中心に議論してマニフェストを作り、有権者(保護者/保護者会の日に実施)に1分程度の演説ですが政策をアピールして、投票してもらいました。主権者教育が話題になった時に、投票行動の善し悪しを伝える一方的なアプローチに思えたので、被選挙権側から見てみたらどうだろうと思ったのがきっかけです。自分が選ばれる側を経験してみると、選挙で候補者を選ぶ時の視点を養えるのではないかと思い、同僚の教員に相談して実施しました。
渋谷教育学園渋谷中学校/社会科シラバス
模擬投票から模擬国会に発展
藤田先生 普段からクラス内で議論しているので、200名くらいの保護者の前で話すことはなんでもないようでした。投票後、勝った政党が与党、負けた政党が野党となり、首班指名を行って、選出された首相が閣僚を任命するところまでを行いました。時間の関係で、ここで終了しましたが、「このままでは終われない」という野党側の生徒の要望で、読売教育ネットワークさんの協力を得て春休みに模擬国会を行うことになり、作家の真山仁さんを議長にお招きして、与野党の論戦を行いました。野党側はシャドー・キャビネットを作って応対するという熱の入れようでした。児童会や生徒会の選挙で個人を選ぶ、という経験はしていると思いますが、政党を選ぶ、という経験は始めてだったろうと思います。現在、アメリカの大統領選挙が話題になっていますが、国民主権とは何かを考えるうえで選挙は欠かせず、日本の場合は間接的ではあっても、首相を選ぶのは有権者であるということを実感してくれたのではないでしょうか。体験した生徒は現在、高1で、まだ選挙権はありませんが、選挙権を得た時にどういう行動をとるのか、興味があります。
小選挙区導入など、さらなる進化も期待できる
社会科の授業の中で進めたのですか。
藤田先生 その学年の授業を担当している教員が3名いたので、話し合い、我々がアドバイザー的な役割を果たしながら進めました。その学年のクラス最大在籍数が43名だったので43議席を争う戦いにしました。22議席で過半数ですが、単独過半数に届いた政党がなかったので、連立政権ができました。この交渉もおもしろかったです。閣僚ポストをちらつかせて、「うちと組めばこうなりますよ」と持ちかけます。ゲームのようなものですが、生徒は本気で取り組んでいました。なぜ本気になるかというと、「30年後の日本を考えよう」というテーマを打ち出していたので、自分たちの将来のこととして一生懸命考え、考えたことに対しては評価されたいという気持ちが強かったようです。悔しさも味わうことで、我々が当初考えていた範囲を超える取り組みになりました。
現在の中3にも、「実施してみたら」と提案しているところです。昨年度は比例選挙だけで行いましたが、「小選挙区も組み入れたらいいのでは?」という意見も出ています。たとえば投票してもらうのを高校生にし、1年A組が第1選挙区、B組が第2選挙区……というように、クラスごとに選挙区を設けて、立候補するかしないかは政党に任せれば、できないことはないと思います。
取り組みが続けば教材にすることも可能
おもしろい授業ですよね。
藤田先生 僕らがおもしろいと思っていることを、生徒にもおもしろいと思ってもらいたい、という思いのもとに授業が成り立っているのかなと思います。入試問題も同じです。
生徒もいろいろ調べていて、特命担当大臣を任命しました。昨年は「女性活躍担当大臣」など社会情勢に応じた大臣が誕生したので、たとえば生徒が考えた特命担当大臣を10年くらい収集したら、「当時はこうだった」という世相を読み解くことができます。将来的には歴史の教材にもなるのではないかと思っています。この授業がいつまで続くかはわかりませんが、続けていって、生徒たちがやってきたことが教材になるというのも、おもしろいのではないかと思っています。生徒にとって先輩は身近なので、歴代の総理大臣よりも、渋渋の総理大臣を教材にしたほうが、「そういえば、こういう時代だったよね」と思い出しやすいかもしれません。
渋谷教育学園渋谷中学校/展示物
教科書は無視しない
教科書はどのように使うのですか。
藤田先生 公民で扱う内容、特に時事問題は刻々と変わっていますから、シラバスで扱うことは決まっていても、担当した教員の持ち味でアレンジすることもあります。ですからシラバスにないことも時には扱っています。生徒の興味関心がないと気持ちが入っていかないので、まずは身近な内容から入って教科書に戻ります。教科書は無視しません。常にそういうスタンスなので、入試問題を作る際も小学校の教科書はすべて読んでいます。そういう意味でも、努力してきたことを評価できる入試問題になっていると思いますので、この問題を見て、「おもしろそうだな」と思って受験してくださる受験生が増えるといいですね。
教養への関心が高く、東大文科Ⅲ類が人気
自調自考論文のテーマと進路は、関連性がありますか。
藤田先生 私が担当した昨年度は、政権交代が振り子現象で起きた年だったので、比例の得票と小選挙の投票がずれているのはおかしい、という疑問から、理想の選挙制度を考えた生徒がいましたが、その生徒の進学先は医学部でした。必ずしも、自調自考論文のテーマと進路が一致していないのも、おもしろいところだと思っています。逆に、自調自考論文を通して、そのテーマをもっと掘り下げたいということで、同様の分野に進学する生徒もいます。
年度により若干異なりますが、文理の比率はあまり変わりません。東京大学にしても、文系の場合は、まず「進学してみたい」と言うのが文科Ⅲ類です。教養への関心が高く、そこで適性を見極めたいという生徒が多いのです。先日顔を見せてくれた卒業生は、東大の文科Ⅲ類に進学し、その後の進路として農学部を選んだそうです。渋渋生らしいなと思いました。
学年の約10%が帰国子女
帰国子女の受け入れについてはいかがでしょうか。
藤田先生 たくさんの方に受けていただくのですが、定員が限られていますので、入学者は、例年、学年の1割程度に落ち着きます。海外生活が長い生徒は日本の歴史を学んでいないので、「それ、誰ですか?」と言われることも珍しくありません。知識が豊富な生徒とのギャップが大きいので、互いに満足できる授業になるよう工夫しています。
大貫先生 最初は帰国生と一般生の間に知識量に差がありますが、誰もが初見の資料をもとに考えさせると、両者のギャップを感じさせません。どちらも興味をもてる授業ができていると思います。
社会以外の教科も一緒に授業を行うのでしょうか。
藤田先生 英語は別の授業です。国語は希望者を対象に別の授業を行います。一緒の授業では「そんなことも知っているんだ」と帰国生が驚くこともありますが、帰国生は「早く追いつきたい」という気持ちが力になって努力しています。
大貫先生 地理の授業で世界地誌を扱うと、帰国生のほうが知識が豊富です。お互いに刺激し合えるいい環境だと思います。
渋谷教育学園渋谷中学校/創立者田村先生銅像
教え込まないことが大事
社会科を好きになるために、親はどのようにサポートすればいいのでしょうか。
藤田先生 教え込まないことが大事かもしれませんね。子どものほうから「これ、なんだろう」と聞いてきた時に、おつきあいする程度でいいと思います。ニュースや入試問題などを媒介に、「そういうことに興味をもっていたのか」「そういうことがわかってなかったんだな」「大人と子どもとでは、感じ方が違うんだな」などと、お互いに気づき合える関係ができると、会話も増えると思います。
子どもに聞かれると、答えなければいけない、という意識が働きがちです。
藤田先生 答えを出さないのが答えのような気がします。「わからないから調べてみようか」でいいと思います。日本も少子高齢化などと言われています。18歳選挙権を含めて、社会で起きていることは子どもたちにとっても他人事では済まされません。当事者意識を持って臨んでもらえると、たとえば投票率の問題や、今後の世の中をどう作っていくのかという政治の問題なども、違和感を持つこともないと思います。
お子さんから「ここに行ってみたい」というリクエストがあれば、旅行の行程に入れてみるなど、そうしたコミュニケーションが取れると、社会科への興味や関心が広がると思います。
大貫先生 地理では、ニュースや新聞などを見て気になった場所が出てきたら地図帳で調べたり、親子で考えたりする習慣がつくといいと思います。
藤田先生 小学校時代に身につけてほしい力では、『文字を追う力』です。読書も含めて、それが苦にならないようにしてきてほしいと思います。そういうお子さんが、入学後に伸びていくからです。
インタビュー3/3